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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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緊急事態

 しばらく窓から外を見ていた彼女だったけど、すぐにハッとして部屋から飛び出したわ。もちろん寝巻きね。

 部屋から飛び出すと、1階のホールからは騒がしい喧騒が聞こえ……多分、というか十中八九あの黒い光の柱に関しての問い合わせだと思ったわ。

 きっと少し離れた獣人の国の王都では城の城門前に人が殺到しているでしょうね。

 そんなことを思っていると、奥の部屋の扉が開かれてフォードが顔を出してきたの。周りをキョロキョロして、彼女に気がつくとすぐにこっちに来るように手招きをしたわ。

 彼女もフォードが何かを聞いたのだろうと判断して、部屋の中へと入ると中にはサリーとハスキーが居たの。


「おはようございます。アリスさん……可愛らしいお召し物ですね」

「師匠……幾ら急いで飛び出したからといって、寝巻きはダメですよ寝巻きは……」

「あっ、す――すみませんっ、今着替えてきますっ」

「いえ、今は時間が無いので……このまま話をすることにしましょう」


 自分の服装に気づいて部屋から出ようとする彼女を呼び止めて、ハスキーは話を始めたわ。


「アリスさんも窓の外から見えたんですよね? あの黒い光の柱を」

「はい……。あの、あの山はもしかして……」

「ええ、神殿がある山です。そして、現在どういうことになっているかというと……王都のオエラサマ(馬鹿ども)がついに痺れを切らして攻撃を仕掛けました。そして、結果は見ての通りです」

「や、やばいじゃないですか……!」

「はい。しかも危険になったと知ると、全て私たち冒険者ギルドに押し付けて見て見ぬ振りをし始めています」


 そう言ってハスキーは朝一……または深夜にでも知ったであろう情報に頭を抱えつつ、溜息を吐いたわ。

 ちなみにサリーとフォードも微妙そうな顔をしているけど驚いていないところを見ると、彼女よりも先に説明を受けたのだと思うのが一番よね。

 でもそんな大変な事態になっているのなら、何故ハスキーがここに居るのだろうと考えた彼女は首を傾げたわ。

 その視線に気づいたハスキーは疲れたようなどこか遠い目をしていたの。


「深夜に火急の連絡を貰って、今の今まで対応に追われていて……少し疲れたんですよ。だから、一応ホールでの応答は緊急事態以外は受付の皆さんで頑張って貰って、休ませて貰うついでに皆さんに説明を行っているんですよ」

「えと……お疲れ様、です?」

「はい、ありがとうございますアリスさん……」

「それでですね、師匠……実は」

「サリー、ここから先は私が言いますので、2人は準備を行ってください」


 何か言い辛そうなサリーにハスキーが優しく語り掛けると、サリーは頭を下げて部屋から出て行ったわ。

 そしてフォードも、何も言わずに黙々と隅のほうで道具を整理し始めたの。何故だか彼女を見ないようにして……ね。

 荷物を冒険者のカバンに入れているところを見ると、ハスキーから受け取ったのだろうと考えたの。

 荷造りを見て、彼女は戦いに赴くのだと理解して自分はどうするのだろうと思いつつ、静かにハスキーを見ていたわ。

 どう言われても、動じないようにしないとと彼女は考えながら、話しかけるのを待っていると……ようやく口を開いたの。


「率直に申し上げます。アリスさん、あなたは行かせることが出来ません」

「え――っ? あ、あの……それはどういう……?」

「言わなくても、分かりますよね?」

「…………はい。今のアタシは足手纏いだから……ですよね? わかって、ましたから」


 自分に言うように、彼女は小さく呟き……拳を握り締めたわ。

 握り締めて強張る手へと、ハスキーが優しく手を置いたの。意味が分からなくて、前を見るとハスキーが屈んで優しい顔を向けていたの。


「そう言わないでください、アリスさん。あなたは足手纏いではありません。今はまだ経験が足りていないだけです。あなたが持っている力を自在に操れるようになったら、あなたはどんな困難も全て跳ね除けてくれると信じています」

「ハスキー……さま?」

「大丈夫。サリーとフォード君を危険な目には遭わせません、私がさせませんよ。ですから、アリスさんは心配せずに2人を見送って、帰ってくるのを待っていてください」


 そう言うと、彼女は何も言えなくなり……静かに頷くことしか出来なかったわ。

 しばらく黙っていようと思っていた彼女だったけど、意を決して部屋から飛び出し……すぐに戻ってきてから、フォードへと話しかけたの。


「あのっ、フォード様!」

「な、なんだよ……?」

「無事に帰ってきてくださいね。サリー様と一緒に」

「あ、当たり前だろ! 俺だって、特訓を受けて強くなっているんだからな!」

「信じて……います。ですが、いざというときにはこれを使ってください」


 そう言って、彼女は急いで取ってきた冒険者のカバンから、1本の剣を取り出してフォードに差し出したの。

 人間の国を出る前にボルフに取り上げられていたはずの剣をね。

 驚くフォードへと、いざというときには彼女の判断で渡すように言われていたことを話すと驚きと呆れが混ざったような表情をしていたわ。

 しばらく悩んだみたいだったけど、決断したのか……お礼を言って彼女から剣を受け取ったの。

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