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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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フルボッコタイム

『聞くけど……お前って自分で考えて戦うよりも、指示を受けながら身体を動かしたほうが動きやすかったりするだろ?』

『そ、それは……どうなんでしょうか?』

『自覚無しか……、じゃあとりあえず一度オレの指示に従って動いてみてくれ』


 彼に心の中で聞かれたけど、自分で考えて動くということがあまり無かった彼女にはやはり肉弾戦は厳しいものだったんでしょうね。

 だから彼女は彼の言葉に頷いて、動くことにしたわ。

 そうしているうちに、再びハスキーの攻撃が再開されたわ。まずは小手調べとしてなのか、拳を顔面狙って突き出してきたわ。

 突き出された拳を彼女は避けること無く、片腕で受けると同時に独楽のように片脚を回転させるともう片脚で地面を踏み締めて……裏拳でハスキーを攻撃したの。

 その裏拳は慣れていないからか、速さも威力もまったく無く……簡単にハスキーに受け止められたわ。けれど、初めて命中させたことが彼女には嬉しかったみたい。


「あっ、当たりましたっ!?」

「おめでとうございます。良い攻撃ですね。この調子でガンガン行きますよ」

「は、はいっ!」


 にこやかに微笑むハスキーに、彼女はやる気を出しながら答えて再び勝負は再開されたわ。

 ……というか、考えてみると訓練ね、これって。

 まあ、それに行き着く余裕は彼女には無かったわね。


 威力を込めた回し蹴りがハスキーから放たれると、蹴りを跳んで回避すると同時に跳び蹴りで反撃を行い。

 脳天を狙った踵落としが来ると、しゃがむと同時にハスキーの身体を支える足を蹴り飛ばそうと低い姿勢からの足払いをし……。

 側面を狙った拳をバックステップでかわし、お返しとして体当たりするもやっぱり回避され。

 そう言ったハスキーの攻撃と彼女の回避と反撃のぶつかり合い。


『攻撃がそっちから来る! 後ろに跳んで回避しろ!』

『は、はいっ!』

『今度は上! 次は左で、拳と蹴りがくる!』

『えっ、ええっ!?』


 彼の指示を聞きながら、彼女は行動するんだけど……ハスキーの動きが速い分、指示が早くて少しばかり彼女は混乱していたわ。

 それでも攻撃を回避し続けて反撃をしようとしているのだから、たいしたものよね。

 けれど、反撃ばかりじゃなくて普通に攻撃したくなるというのが心の中の彼の本音だったわ。

 だから回避を支持しながら、対抗手段となりうる方法を模索していたの。

 一応ね、彼も痛い思い出っていうものがあるのよ。中学2年のときに中途半端な感じに空手とか拳法とかボクシングとかをやってみようとか思って、まったく続かずになんちゃってレベルにも行っていない感じだけどね。

 ああ、空手とか拳法とかボクシングって言うのは彼の世界にある戦いかたよ。


『確か、左ジャブが速くで……本命が右ストレートで……、初速はゆっくりで途中で一気に速くで……』

『か、かなり難しいと思いますが、やってみますっ!』

『っと、そこでジャンプ!』

『はひゃい!?』


 かなり無茶振りな注文に彼女は応えつつ、一生懸命身体を動かしつつ拳を握ると前に構えたの。

 そこからテンポが悪いながらも、トントンと彼女はその場で小さく飛び跳ねたわ。

 その様子をハスキーは興味深そうに見ながら、再び彼女に向かって来たわ。今度は身体を矢のようにして素早く相手を仕留めるといった行動だったの。

 接近してくるハスキーに驚きつつも、彼女は彼が口にするワンツー、という言葉に身を委ねながらハスキーを見据えていたわ。

 そして、ハスキーが伸ばした手が彼女の顔へと近づこうとした瞬間――合図が上がったわ。


『今だ、アリス!』

『は、はいっ! ワ、ワン、ツー!! ――や、やりました!?」

「――ッ! これは、良い攻撃でしたね……それに……」


 紙一重で顔を掴もうとする手を避けると、彼女は素早く左拳でハスキーを殴りつけたの。

 一発目はハスキーの頬を捉えたが、続く二発目となる右ストレートを打ち込む前には素早く後ろへと下がっていて命中しなかったわ。

 けれど、その攻撃方法は初めて見たらしく、ハスキーは興味深そうに彼女を見ていたの。

 そして何を思ったのか、ついさっき彼女がしていたようなステップをして、彼女がしていたように拳を前に構えたわ。


「いろいろと中途半端な知識で行ったみたいですが……なるほど、使い勝手が良さそうな戦いかたですね。これは」

「え、えっと……」

「倒れない程度に行いますので、頑張ってください」

「え――――


 ハスキーが言ったことはどういう意味なのかと問い掛けるよりも先に、軽やかなステップで一気に彼女へと近づくと素早く左拳を脇腹に打ちつけたわ。

 その素早い攻撃は何が起きたのかを脳が理解するまでに反対の脇腹、右胸、左胸、喉、両頬を連続に打たれ、痛みを感じ始めた瞬間――右拳が力強く彼女の腹に突き刺さったの。

 突き刺さった一撃に彼女の肺から空気が洩れて、痛みを感じながらその場で倒れたわ。


「し――師匠!? ハ、ハスキー叔父さんっ、何してるんですかっ!?」

「す、すみません……つい楽しくなって……」

「お……おい、アリス。大丈夫かよ?」


 驚きながら駆け寄るサリーとフォード、そしてサリーに怒鳴られるハスキーの姿が彼女の目には入ったわ。

 彼女は返事をしようとしたんだけど、ハスキーの一撃が痛くてまったく声が出なかったの。

 とりあえず、彼女は大丈夫になるまでその場でジッと蹲っていたわ。

 ちなみにもうすぐ起きるであろうフォードへのハスキーからのオハナシに黙祷を捧げてもいたの。

フルボッコ(られ)タイム。

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