手合わせ再び
どうしてこうなってしまったんだろうと、頭で考えながら彼女は目の前に立つハスキーを見ていたわ。
そして、彼女たちを心配そうに見守るサリーとフォード。
ちなみにフォードは安心したら良いと思う。何故なら、これが終わったら次は彼のオハナシの時間なんだもの。
そう思いながら、彼女は少し前の冒険者ギルドでの話を思い出していたわ。
食堂でいきなり言われた一言に彼女は目を点にして、サリーとフォードも驚いていたの。
だって、いきなりひと勝負しましょうなんて言われたら驚くに決まってるわよね。
そんな3人の表情に気がついたハスキーはにこりと微笑んだわ。
「この前のアリスさんとの勝負はまったく話しになりませんでしたが、今のアリスさんとなら良い勝負が出来そうな樹がするんですよね」
「そ、そうですか? アタシ、弱いですよ?」
「はい、以前と比べると遥かに弱いですね」
きっぱりとハスキーは言ったわ。本当に容赦が無いよね、ここのギルドマスターは。
その言葉にイラッとしているのか、苛立った声で彼が彼女に語りかけてきたわ。
『こいつ、喧嘩を売ってるのか?』
『お、落ち着いてください。多分……違うと思います』
『はぁ? ここまで挑発してくるのに喧嘩売ってるんじゃないならどういうことなんだよ?』
「弱くなっている。ですが、以前のあなたのように一方向で力任せな攻撃ばかりしてくるようには見えません。それに……どう戦えば良いのか相談出来るみたいですしね」
そうハスキーはカップを口から放すと言ったわ。その言葉を聞いてアリスは納得したけど、サリーとフォードの2人は後の言葉に首を傾げるばかりだったの。
彼女は心の中の彼に語りかけたわ。
『りべんじ、って言うんでしたっけ。こういうの?』
『ああ、借りた借りはしっかり返さないとな……ところで、大丈夫なのか?』
『がっ、頑張ります……!』
『…………ふ、不安だ』
そんな風に心の中で語り合ってから、彼女たちは再び訓練場となっている場所へと移動したの。
そして、今に至るわ。
うん、最初は彼女も張り切っていたんだけどね……近づいて行くに連れて、大丈夫かなぁ……って不安になり始めたのよ。
本番に弱いタイプなのね。彼女……。
「アリスさん、それでは行きますよ」
「はいっ、よ……よろしくお願いしますっ」
にこやかに微笑みながら、ハスキーが開始すると言ったので彼女は少し緊張しながら頭を下げたわ。
そして、少し距離を置いて互いに構えを取り……戦いが始まったの。
ちなみに先手はハスキーが取ったわ。知識でしかない構えを彼女が取った瞬間に彼女まで距離を詰めるとともに、スピードを乗せた回し蹴りを放ってきたの。
いきなりだったことに彼女は驚いたけど、咄嗟に両腕を前で構えてガードして回し蹴りを受け止めたわ。
両腕が痺れたけど、受けた蹴りの威力で彼女の身体は浮いて……再びハスキーと距離を取ることには成功したわ。けれど、地面に降り立つとともに上空からハスキーの力を込めた踵落しが彼女が降り立った場所に落ちてきたの。
その攻撃も彼女は再び両腕を交差して受け止めようと――
『いちいち、防ぐな! 後ろに引いて距離を取れっ!!』
『――っ!? は、はいっ!!』
心の中の彼に叱咤されつつ、両腕を交差させたまま足の爪先に力を込めると彼女は後ろへと跳んだわ。
直後、彼女が居た場所にハスキーの踵が減り込み、威力が込められていることが分かったの。
「良い判断ですね。初めにガードしようとしたけど、即座に回避に切り替えたのは褒めます」
「ありがとう、ございます」
「では、まだまだ……行きますよ!」
「え、消え――!?」
ジンジンする両腕の痺れを感じながら、彼女はハスキーを見ていたけど唐突に掻き消えたわ。どういうことかと驚いた瞬間に彼が語りかけてきたわ。
『跳べ!』
「は、はいっ!?」
驚きつつ、彼女はその場から飛び上がると彼女が居た地面スレスレからハスキーが近づいてくるのが見えたの。
このまま驚いて立っていたら、彼女はハスキーの餌食となっていたでしょうね。足払いをされるか、サマーソルトに近いものを受けるか的な感じに……。
地面に降り立った彼女はハスキーに注意しつつ、心の中で彼と相談してたわ。
『ど……どうしましょう?』
『オレのときみたいに馬鹿みたいに突っ込んだら、いいように扱われちまうし……距離を取ってたら取ってたで、スピードで近づかれるか……犬ってよりも狼だな、まるで』
『じゃあ、打つ手なし……でしょうか?』
『いや、方法はある。だけど、お前が上手く動けるかが問題だな……』
『えっと、つまり……?』
恐る恐る彼女が訊ねると、すぐに彼は答えてくれたわ。
『要するに、オレが指示してお前が動く。簡単だけど、分かり易いだろ?』
ハスキーに対抗する方法が本当に簡単すぎて、彼女は泣きたくなったわ。
音声型格ゲーの始まりかも?