愚か者はやっぱり愚かだった
「あれ? フォード様はどうしたんですか?」
「えっ、えーーっと……。今日はちょっと呼んでないんですよ。師匠と一緒にご飯を食べたいなーって思って……」
1階に降りて食堂の椅子に座って彼女はようやくフォードが居ないことに気がついたわ。
そして、問い質されたサリーは物凄く歯切れが悪かったの。でも彼女には理由は分からなくて、首を傾げるばかりだったわ。
しばらくして、食事が出されたので食事を開始したんだけど、サリーが妙にソワソワした様子で階段のほうを見ているのに気がついたの。
本当にどうしたのかと首を傾げている彼女だったけど、やっぱり理由が分からなかったわ。そんなとき、2人に声を掛ける人物が居たの。
「おはようございます。サリー、アリスさん」
「あ、ハスキー叔父さん。おはようございます」
「おはようございます、ハスキー様」
「2人とも昨日は大変だったみたいですね。大丈夫でしたか?」
そう訊ねてくるハスキーは、昨日のバーナ農場での出来事を報告されているらしく、サリーが頷いていたわ。
ふと、ハスキーが食事の手を止めて、サリーをマジマジと見つめ……優しそうに微笑んだのが見えたの。
そして、ふふ……サリーもついにですか。とちょっとだけ哀愁を滲ませながら、納得したように頷いていたわ。
ハスキーのその呟きが聞こえたらしく、サリーはえ? え? といった風に理解できていないみたいだったけど、どうしてかしらね……。
「まあ、考えるとフォードくんでしょうか……。今度ちゃんとオハナシをしないといけませんね……」
「お、叔父さん?」
「いえ、気にしないでください。サリー。これはあなたのために必要なことですからね」
「さ、殺気を放ちながら、ワタシのためって言われてもわかりませんってばぁ!?」
そんな2人の話を見ていると、本人は知ってか知らずか彼女たちの元へとやってきたわ。そう、フォードがね!
サリーは昨日何かあったみたいな感じの態度を取っていたんだけど、フォードはやっぱり馬鹿なのか一晩寝たらすっきりしたみたいに元気に片手を上げていたの。
まあ、何があったのかは……あったのを思い出して、彼女は食事にソーセージとか細長い詰め物とかが無くてホッとしていたわ。
「おはよう、アリス。サリーさん!」
「あ、フォード君。おはようございます」
「フォード様、おはようございます」
「おはよう、フォードくん。ご一緒させてもらっていますよ」
それぞれが挨拶をしてから、フォードも席に座って朝食が届けられるのを待っていたみたいなの。
フォードのほうは普通なんだけど、何だかサリーの様子は可笑しかったわ。表面上は普通を装っているんだけど、尻尾がパッタパッタと揺れているのよ。
そんな2人を見ながら、彼女は疑問に思いつつ彼にどうしたんだろう、と訊ねたんだけど……朴念仁同士が語り合っても分かる訳が無かったわ。
それから少しして、朝食が届けられフォードが食べ始めるとようやくサリーの尻尾が落ち着き始めたの。
「えーっと、フォ……フォード君?」
「どうしたんですか、サリーさん? ……あ、昨日のことですか? えーっと……すんませんでしたっ!」
「え?」
「その、昨日は本当にワザとじゃなかったんです。でも、帰り道はどう謝るべきか悩んでて……でも一晩寝たら解決しました。男なら素直に潔く謝るべきだって!」
だから、すみませんでした! そう言って、フォードはまたも頭を下げていたわ。
その潔い謝罪を見ていた彼女だったけど、不意に隣から寒気を感じたので恐る恐る見ると……笑顔のサリーが居たの。
ただの笑顔、ただの笑顔のはずなんだけど……それはまるで鬼のように見えたわ……。あ、鬼って言うのはね……モンスターのオーガみたいなものよ。
そして、その笑みから発せられる凄みはオーラとなっているのか、外の通りから赤子の泣き声が聞こえたり……受付のほうで依頼を出していたワン族のパーティーの2人ほどが「おっ、お姉様の気配がっ!?」とか言ってたりしていたわ。
「サ、サリーさん?? いったいどうし――」
「叔父さん。フォード君にオハナシがあるんですよね? だったら、徹底的にやってもらえませんか? オネガイしますよ?」
「はっ、はいっ! 分かりました、姉さ――じゃなかった、サリー!」
いきなり自分に矛先が向いたことに、困惑するフォードを見ながら……彼女と彼は心の中で彼の蛮行に敬礼したわ。
ムチャシヤガッテ、ってね。
で、戦々恐々する周りを放っておいて、サリーは食事を再開したわ。
でもそのときにポツリと呟いたんだけど……隣に居た彼女だけが聞き取れたの。
「なんですか……心配していたワタシが馬鹿みたいじゃないですか」
それからしばらくして、周囲も落ち着きを取り戻し始め……いえ、何か一部の冒険者が熱い瞳でサリーを見つめていたわ。
多分、彼女のお母さんであるベリアさんに憧れとか抱いていた人なんでしょうね。というか、ファンクラブなんてあったのね……。
そんな風に思っていると、食後のお茶を飲み終えたハスキーが彼女に話しかけてきたの。
「と言うわけで、アリスさん。食後の運動として私とひと勝負しませんか?」
「…………え?」
勿論、彼女は耳を疑ったわ。