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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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和解と共生

 んー、良い匂い。ほらほら、あんたはよだれ垂らさないの。

 後もう少し焼いてから……っと、よし出来た!

 おかえりなさい。丁度いま、晩御飯が出来たところよ。それじゃあ、食べましょうか。

 はい、それじゃあ……いただきます。

 …………んー、甘辛いタレが猪肉と合ってる~♪

 っと、ほら口の回りベッタリじゃない、まだ食べてる最中だから汚れてもなんだし、ご飯食べ終わったら拭いてあげるからね。ん? 美味しい? ありがと。

 ――って、父さんはちゃんと食べなさい。甘やかして、分けてあげないの!

 ごめんごめんって、一番働いてるのは父さんなんだから、ちゃんと食べないとダメ!

 ……分かれば宜しい。さ、食べた食べた!


 お腹いっぱいね。ぽんぽんいっぱいごちそうさま? あはは、あんたはいっぱい食べていっぱい寝るのよ。

 じゃあ、お風呂に入ろうか。父さんも上がってお酒を飲んでるから、アタシらはゆったり浸かろうね~。

 ……気持ち良い? うん、あったかいよね。

 折角だし、お風呂に入ったときに歌う歌でも歌おうかしらね。ふふんふふんふんふ~ん♪

 あんたも歌う? じゃあ、一緒に歌おうか。


 あー、歌った歌った。温かかったね。

 ほら、拭いたげるからジッとしてなさい。……うん、ちゃんと拭き終わったよ。

 じゃあ、お風呂上りの冷たいミルクでも飲もうか。って、父さん?

 ……あ、疲れて寝ちゃったのね。……お疲れ様。

 父さん寝ちゃったから、シーね。シー。え、小さい声で続きを聞きたい?

 じゃあ、こしょこしょ話で話そうか。

 目覚めた彼女は、即座にサリーに昨日と同じように公衆浴場に連れて行かれたの。抵抗しようとした彼女だったけど、無駄な努力だったわ。


 ●


「うぅ……昨日は酷い目にあいました……」

『あー、お疲れ様って言うべきか? それともご愁傷様?』

「………………」

『おっ、おいっ、無視するなよっ!』

「ふ、ふーんだ! エッチな人と話す口なんて、アタシは持っていません!」

『だっ、だから何度も謝ってるだろっ! それに、昨日の銭湯は完璧に見ていないからな!!』


 朝、目覚めた彼女は心の中の自分……もう、彼って言うべきなのかな? その彼に対してご立腹だったわ。

 まあ、昨日再び話すことが出来て和解したけど、その直後にもうひとりの自分は男性だったことを知って……自分の中に『男性』が居るというのがいろいろと気になってしまってるみたい。

 実のところ、昨日も寝る前まで心の中で彼は物凄く謝っていたんだけど、彼女は口も聞いてくれなかったの。

 だから、一応返事をしてくれたところを見ると、一晩経って少し落ち着いたって見るべきでしょうね。

 しばらく黙っていた彼女だったけど、着替えをするので見ないでください。そう言うと、彼は黙って静かになったわ。

 それを感じつつ、彼女は手早く服を着替えると心の中でもう良いですよ。と言ったわ。そして、一拍置いてから恐る恐るだけど静かに心の中で語りかけたの。


『まあ、アタシも昨日は言い過ぎました。すみません』

『じゃ、じゃあ……?』

『はい、今回は許してあげます。その……あなたも、男の人……ですし』

『う……、そう言われるとかなり謝りたくなるな』

『いっ、いえっ! もう怒ってはいませんよ?! あなたも、部屋のベッドの下とか机の奥とかにそう言う本があるのは判っていますし!』


 焦りながら、彼女は顔を赤くしつつ彼に言ったわ。ぶっちゃけ、成人男性が見る本の隠し場所ね……。

 え、父さんは持ってないのかって? 持ってない、持ってない。だって、アタシが居るのよ――って、変な顔をしないの! アタシと父さんが居たから、あんたが産まれ――っと、今はいいか。

 兎に角、彼女が言った一言に、彼は恐る恐ると言うか戦々恐々しつつ……訊ねたわ。そのときの心境はハガネを相手にしているよりも緊張していたみたい。


『え、えーっと……もしかして、記憶が混ざったときに……見えた?』

『……………………………………………………はい』

『ノオオオオオォォォォォォォォ~~~~~~ッッ!!』

『ひゃっ!? え、えと……ア、アタシはその、気にしませんから……』

『オレは気にするのぉっ!』


 彼の悲鳴を頭で聞きながら、彼女は本の内容を思い出して顔を真っ赤にしていたわ。

 けれど見ないって選択肢は無いみたい。だって、彼女も14歳のお年頃だから興味が……ね。

 それからしばらくは、お互い恥かしかったからかベッドの上でゴロンゴロンしながら、悶えていたわ。

 で、時間が経って落ち着き始めたころに、部屋の扉がノックされたの。


「師匠ー、起きてますかー?」

「は、はいっ、起きてますっ!」

「元気な返事ですね。何か良いことでもありましたか?」

「いえ、特にはありませんね。サリー様はどうですか?」

「ワタシですか? んー、特には無いかも知れませんね。っと、朝ごはんに誘いに来たんでしたがどうです?」

「えっと……じゃあ、一緒に食べます」


 そう言うと、サリーが嬉しそうに彼女を連れて下へと降りていったの。

 階段を下りながら、彼女は昨日言えなかったことを心の中の彼に言うことにしたわ。


『あの、遅れましたが……その、改めてこれからよろしくお願いしますね』

『あ――、ああ、こちらこそ、改めてよろしく頼むな。アリス』

『はい。ところで、その……混ざった記憶でいろいろ分からないことがあるので、これからも聞いても良いですか?』

『それならお安い御用だ。っと、こっちも教えてもらえると嬉しいが、大丈夫か?』

『はいっ、任せてください!』


 心の中でそんなやり取りをしながら、彼女はこれからの日々に期待して微笑んだわ。

昔は鍵のかかる机の中だったけど、今では普通に部屋の本棚だなぁ……(謎

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