挙動不審な彼女
え、頭? そう言いながら、サリーに問い掛けられた彼女は自分の頭に手を当てると、ついさっきまで無かった感触を味わっていたわ。
恐る恐る、手に当たるそれを指で摘むと梳くようにして自分が見える下のほうへと下ろしたのだけど……黒い髪がひと房だけ飛び跳ねていたの。
見慣れない色の髪に彼女は固まりながら、しばらくしてプルプルと震えて……声の限り叫んだわ。
「な、なな――なんですかこれぇぇえぇぇぇ!!?」
「えっと、に……似合ってますよ、師匠……」
「ほ、褒め言葉になってませんからぁぁっ!! ――はっ! もしかして……!」
苦笑いでアホ毛の感想を言ったサリーに涙しながら彼女は叫んだんだけど、そんなときにハッと思い浮かぶ原因があったことに気がついたわ。
その確認のために、彼女はもう一人の自分と認めた相手に語りかけたの。
「も、もしかして……あなたと混ざったから、ですか?」
『あー……多分、そうだと思う。その飛び出たアホ毛の髪色って日本人特有の黒髪だし』
「そ……そんな。何だか馬鹿っぽく見えるじゃないですかっ!?」
『オレに言うなオレに! あと、現在進行形でかなり馬鹿だと思うからな、今のお前は!』
「なっ!? だ、誰が馬鹿ですか誰がぁっ!?」
「……えっと、あの……し、師匠……ひとりで叫んでいますが、どうしたんですか……?」
「え”…………」
気の毒なものを見るような表情でサリーが彼女を見ていることに気づいて、彼女は固まったわ。
ついつい口に出してしまっていたけど、実は心で思うだけで会話は出来ることに気づいていなかったから、彼女が気でも触れてしまったとしか見えなかったのね。
しかも、どうやってサリーたちに説明するべきか、というよりも説明する方法が無いことに気づいて、彼女はやっぱり膝を着いたわ。けど、彼女が認めて混ざったからだろうか……ほんの少しだけど彼女の雰囲気は変わっていたわ。
それからしばらくは、農家の人たちと一緒にまたバーナ鳥が現れるんじゃないかって、木陰のほうで上空を警戒していたんだけど、それらしい影は見当たらなかったの。
「失礼ですけど、今までバーナ鳥が現れたことはありましたか?」
「あぁ、本当に偶にだけだがあった。だけど……良くて、蛇を捕まえることが出来るぐらいの大きさのヤツだけだった」
「そのときは一応、国のほうに言ったら空を飛べる種族が見回りに来てくれてたんだよな」
「なるほど……。じゃあ、いきなり現れたんですか……もしかして、山のほうで何か起きてるんですか?」
バーナ農家の人たちからいろいろとバーナ鳥のことを聞くサリーは山のことを問い掛けたの。
バーナ鳥は基本的には山のほうに生息しているのかって思いながら、彼女もそれを聞いていたわ。ちなみに焼け焦げたバーナ鳥はバーナの栄養のために粉々に砕いて、沼へと投げ入れたわ。
そして、聞かれた農家の人たちはみんな同じように微妙そうな顔をしていたの。どうしたのだろうと思っていると、ボス的立ち位置の農家の人が口を開いたの。
「実は山のほうに行く道はここ最近通行止めになってるらしいんだよ。前にバーナを仕入れに来た商人から聞いた話なんだけどな。国の兵士が誰も入れないようにしていたらしい」
「そうだったんですか……あれ? でも、その山には神様の神殿があったはずじゃあ……」
「え、そうなんですかサリーさん? というか、獣人の国には首都に在るんじゃないんだな」
「はい、ワタシたち獣人の神様は澄んだ空気と水が溢れた場所が好きなので、人里離れた土地にあるんです」
サリーたちの話を聞いていると、頭の声が『まるで神社だな』って言ってて、彼女は首を傾げながら心の中でそう思うと神社に関して教えてくれたわ。
それを聞いて、違う世界でもそういうのがあるんだと彼女は驚きつつ、感心していたわ。
でも、それを聞いてふと思ったことがあったの。
『えっと、もしかしてですけど……ハスキー様が話をしたかったのはこの山のことだったのではないでしょうか?』
『山の? まさか、魔族が何かしているとかそんな感じだと思うのかよ?』
『それは分かりませんが……でも、神様の神殿がある山が封鎖されるっておかしいと思います』
『……まあ、ここでの作業を終えてギルドに戻ったら、ハスキーに聞いてみりゃ良いだろ? まあ、普通に教えてくれる可能性は少ないけどな』
『ボコボコにされましたからね……でも、何か分かると思う気がするんです』
心の中でそう話し合っていると、バーナ鳥がもう来ないと判断したのか収穫作業の再開が告げられたわ。
ついさっきと比べて収穫作業はかなりやれると判断して、彼女は意気込んだわ。沼に落ちて汚れてもやり遂げてみせようってね。
バランス感覚がついさっきよりも良い気がして、彼女は揚々とバーナを採り始めたの。
そんな彼女に、沼に落ちて水浴びする羽目にならないようにと心の中で語られたわ。妙にソワソワした感じでね……。
不思議に思いながら首を傾げると、言い辛そうに心の中で爆弾発言されたの。
『あーっと……だな。実は、オレ……男、なんだよな…………』
「……え? ええ?? えぇぇぇぇぇ??! ――――あ」
あまりの驚きに彼女は叫び声を上げてしまい、羞恥に顔を染めながら――沼へと落ちてしまったわ。