バーナ畑に現れるもの
それから、回復したフォードと手馴れた感じのサリー、危なっかしいが何とか頑張っている彼女の3人は順調とまでは行かないも、バーナを収穫していったの。
途中で昼食として、未熟のバーナを肉と一緒に炒めた料理と完熟しきったバーナをマイスと一緒に甘く炊いたご飯をご馳走になったわ。
ちなみに味は、未熟のバーナは食感がシャクシャクしていたから果物よりも野菜って感じだったわね。ご飯のほうは……摩訶不思議って感じだったわ。甘く煮た豆と一緒に炊いたご飯に近いもののように感じられたんですもの。
食事を終えて少し休憩してから、3人は再び収穫作業を行っていたんだけど……急に空が暗くなってきたの。
「ん? 雨でも降るのか?」
「え、でも今日はそんな空気を感じていなかったんですけど……」
「あ、ありゃあ……おーい、あんたら! 早く逃げろー!!」
首を傾げるサリーとフォードだったけど、農家の人が突然叫びどうしたのかと思ったんだけど……直後、羽ばたく音が聞こえたの。
それと同時に、奇怪な鳴き声も聞こえてきたわ。
『KYWEEEEEEEEEEEEEEEEE!!』
「ん、んーー……っへ? な、なに!?」
「ア、アレはバーナ鳥!? 普通はこんな所に来ないはずなのにどうして!?」
「そんなことを言ってる場合じゃないですよ! おい、アリスッ。早く逃げろ!!」
「むっ、無理です~~っ!!」
ある程度吊り橋を歩くのに慣れた2人は颯爽と地面に降り立ったけど、彼女はまだ鳴れていないのかプルプルしながらバーナを収穫しようとしていたところだったの。
逃げ遅れた彼女に逃げるように叫ぶ2人だったけど、いきなりで対処なんて出来るわけが無いので……彼女は無防備な状態になっていたわ。
棒を手放せとか、沼に落ちろとか言ってくる周囲に返事を返そうとした瞬間、彼女の真上に影が落ちたの。
振り返ろうとした瞬間、彼女は肩を掴まれる感覚を感じるとともに、一気に上空へと上げられたわ。
「た――助けてぇーー!」
「し、師匠ーーっ!?」
「くそっ! 早く落とさねぇと、嬢ちゃんがマズいぞ!」
え、巣に持ち帰ろうとしてるのかって? ううん、違うわ。
バーナ鳥って名前からして、バーナを主食にしている鳥のように聞こえるけど……実のところ、バーナを取ろうとする小動物を狙う鳥なの。
バーナを採るのに夢中な小動物に狙いを付けると、初めに小動物の真上に近づいて……獲物を足で捕えるの。
捕えられた獲物は逃げようと暴れるけど、バーナ鳥はかなり高い上空まで上がって、そこから獲物を落とすのよ。
高いところから落とされた獲物はもがいたりして体勢を取ろうとするんだけど、最終的にどうすることも出来ずに地面に叩き付けられて死んじゃうの……。
で、死んだ小動物をバーナ鳥は啄ばんだり、巣に持ち帰って子供たちに食べさせたりするってわけ――っと、あんたにはまだ怖かったか。ごめんね。
ちなみに普通のバーナ鳥は小動物を狙うんだけど、偶にだけど人の味を覚えてしまったバーナ鳥は大型でかなり強いから、普通よりも遥かに高い所から獲物を落下させるのよ。
そんなバーナ鳥に掴まれた彼女はガクガク震えながら、上空に舞い上がっていったわ。こんなときに思うのは不謹慎だと思うだろうけど、上空から見た景色は綺麗だったみたい。
綺麗な景色に一瞬、掴まれていることを忘れかけてた彼女だったけど、現実は非情でね……肩を捕まれる感覚が急に無くなるとともに、下から上に巻き上がる突風のような風が彼女を叩き付けたわ。
「え? う、うそ……おち、落ちてる……!? 放されたから? え、死ぬ? 死ぬの? アタシ、死ぬの?」
どうしてこうなったのかが頭の中で繰り返しながら、彼女は真っ逆さまに地面に落ちていったわ。
時間にしたら、ほんの一瞬のはずなんだけど……物凄く長いように彼女は感じながら、混乱する頭の中に色んな記憶が駆け巡っていたわ。
彼女の記憶、彼女のものじゃない記憶、彼女の家族、彼女の家族じゃない人たち、これまで読んだ本の内容、読んだことがないはずなのに知ってる見たことも無い文字で書かれた本、見慣れた建物、見慣れない建物、見慣れた動物、見たことも無い動物。
きっとこれは走馬灯というものだ。彼女のものではない記憶にあった単語、死ぬ直前に駆け巡る思い出。
そんな状態だったからか、思い浮かんだことを彼女はポツリと呟いたわ。
「ごめん、なさい……アタシの中にいたアタシ……。首を絞めて、ごめんなさい……殺してしまって、ごめん……なさい」
身体を奪われたことは許せなかったわ。だけど、ハスキーから転生ゆうしゃに関してのことを知らされた彼女は割り切ることが出来なかったの。
だって彼女の中に入った時点で、元の世界にも帰ることが出来ない上に、名前も無くなっているのだから彼女は可哀想としか思えなかったわ。
でも、今なら言えると彼女は思ったの。このまま死ぬなら最後に自分の中にいた、もう居ない人物への謝罪を……。
遠くからサリーたちの悲鳴が聞こえ、もう時間だと思った瞬間……彼女は目を閉じて、祈ったわ。
せめて、痛い思いをせずに簡単に死ねますように、ってね……。
『お前なぁ……、オレから身体を奪い返したなら、簡単に死ぬんじゃねーぞッ!!』
「え――ッ!?」
直後、彼女の身体は地面に叩きつけられたのをサリーたちは見ていたわ。
目の前の出来事に、サリーは唇を震わせ……絞り出すように叫んだの。
「し、し……ししょーーーーっ!!」
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