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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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収穫が大変な果物

 バーナの収穫は長い棒の先に網が付けられた物を使って、もう片方で根元を切って網に入れて収穫するというのが基本と言われたわ。

 何故なら、バーナの樹は沼の上に生えていて、収穫作業は沼から少し高さのある吊り橋の上で行うという物だったの。

 サリーはそれを知っていたらしく、心配そうに頷いていて……フォードは農家の人たち何時もありがとうといった感じに感謝を込めた視線を農家の人に送っていて、彼女は……がくがくと怯えていたわ。

 怯えている理由は……自分がどうしようもなく不器用だというのを理解しているからでしょうね、絶対自分は吊り橋で足を踏み外して沼に落ちてしまうってね。

 そして、怯える彼女の理由が微妙にというか、かなり納得できている2人は苦笑いをしていたの。


「えっと、ここまで来て言うのもなんですが……大丈夫ですか師匠?」

「何か今のアリスには無理そうに見えるけど……着替えは持ってるのか?」

「えと、えっと……その……やってみます! あと、フォード様は失礼です!」

「おーおー、いい返事だな嬢ちゃん! 初心者は必ず何回も落ちて泥だらけになるから心配するな。落ちても沼の端っこから縄を投げるから!」

「お……落ちることが前提ですか……」

「そりゃそうだ。初めてやって落ちない奴が居たら、うちのほうに嫁か婿に入れたいぐらいだ!」


 豪快な笑いでバーナ農家の人はそう言うと、手本を見せてくれるらしく行動を開始したわ。

 ぐらぐらと揺れる吊り橋を普通の地面のようにすいすいと歩いて、1本のバーナの樹の近くに辿り着くと片手で網の付いた棒でひと房のバーナを囲むと、今度はもう片手で刃物が付いた槍みたいな棒を使ってバーナを切り落としたわ。

 切り落とされたバーナは綺麗に網の中へと落ちて、棒を引いて網を手元に近づけると背中の籠の中へとバーナを入れたわ。

 それを終えると、すいすいと先程と同じように吊り橋を渡って彼女たちの元へと戻って来て、バーナが入った籠を置いたわ。


「とまあ、こんな感じに収穫して行くんだ。沼に落ちたら品質は落ちるが、食えないわけじゃないから心配するな!」

「器用だなーおっさん。まあ、やるだけやってみるか!」

「足元に注意してくださいね、フォード君」

「大丈夫ですって、サリーさん。こう見えても俺は身軽なんですから! って、うわ、安定感がまったくな――ごはひっ!? ふげぐぅ~~!?」


 大口を叩いて、籠を担いで道具を持ったフォードは意気揚々と吊り橋の昇り始めたんだけど、縄で丸太を括りつけただけの吊り橋は物凄く安定感が悪くって……舐めて掛かったフォードは足を踏み外して吊り橋から落ちたんだけど、股を丸太の間にぶつけて絶叫していたわ。

 そして、苦悶の表情を浮かべながら、頭を別の丸太で打って沼に真っ逆さまよ。

 大丈夫かー? って農家の人は笑いながら、身動きが取れないフォードに縄を渡さずに引っ掛け棒で籠を掴んで引き上げてたわ。

 どれだけの痛みかは想像できないけど、両手を挟むようにして未だ苦悶の表情を解かない彼を見ているとかなり危険だと判断できたわね……。


「え、えーっと……師匠、師匠は女の子ですからこれほど痛くないはずです」

「い――いたっ!?」

「怯えないでください、というかちゃんと働かないといけませんよ。それに……これが終われば少しは細くなりますよ。お・な・か」

「そ、そうですよね……! やらないで怖がってたらいけませんよね!」

「はい、それじゃあ気をつけて行いましょう」


 怖がっていた彼女だったけど、にこやかながら職務に忠実なサリーは働くように言ったんだけどちょっとそれではダメだと思ったみたいで、こっそりと耳元で昨日知りえた情報を彼女の耳元で囁いたの。

 ちなみに本人はどう思ってかは分からないけど、そのときのサリーの表情は嗜虐的な笑みだったわ……まさかの才能の開花が起きてしまったのね……。

 ああ、あんたは気にしたら駄目な才能だからね。絶対に気にしたらダメよ!


 吊り橋の前まで辿り着いた彼女は恐る恐る、一歩踏み出すんだけど……あまりの不安定さにビクリと怯えて踏み出した足を引いたわ。

 ちなみにサリーは、ちゃんと頑張ってくださいね。と言って農家の人には劣るけど、一人ですいすいと吊り橋を渡って半分以上の距離まで進んでいてたの。本当、大きいものを持ってるのにバランス感覚が良いなんて許されないわね……。

 で、怯えていた彼女だったけど、頑張らないといけないと自分を叱咤してロープにしがみ付きながら丸太に踏み出したわ。

 ちなみにこういうときって、別の丸太に1本1本足を置いてたほうが安定感は良いと思うんだけどね、1本の丸太に彼女は立っていたの。

 そうしたら、こうなったわ。


「え、わ!? あ、安定が……きゃう!?」

「おーい、嬢ちゃん。1本だけで全体重掛けてたらバランス悪くてすぐ倒れちまうぞー?」

「うぅ……い、痛い~……ひゃ、ひゃいぃーー……」


 綺麗に吊り橋の上で転んだ彼女は農家の人にそうアドバイスを受けながら、ぶつけて赤くなった鼻を擦って立ち上がったわ。

 アドバイス通りに一歩一歩恐る恐るバーナの樹へと進んで、ふら付きながら道具を前に出してひと房のバーナを採ろうとしたわ。網でバーナをひと房囲んで、長柄のナイフをふるふるさせつつ近づけ……スパッと切ったの。

 切れたバーナは網の中に入ったんだけど、不安定な中でその重さは厄介だったらしくて……彼女は頭から沼に落ちそうになったわ。だけど、頑張って彼女は耐え切ったの。


「ひゃっ!? う……うぅ……うぅぅぅ~~……!!」

「おー、良い根性だ嬢ちゃん! 体勢はちょっと情けないけど上出来だ!」

「そ、そうですか? え、えへへ……」


 バーナが入った網を手元に近づけながら、褒められたことを彼女は照れていたわ。

 ただし、丸太に跨るような体勢でスカートが捲くれ上がってなかったら良かったんだけどね……。

 しばらくして自分の体勢に気づいて、彼女はまたも情けない声を上げたわ。

ちなみにバーナ農家の方たちの殆どはサルによく似た、ウキ族という種族の獣人です。


評価ありがとうございます。

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