公衆浴場・2
「はふぅ……」
身体を心から温めてくれる温かさに彼女の口から溜息が洩れ、鼻を擽る良い香りに気が付いたわ。
その匂いは香草の匂いなんだけど、焚いているのかと思いながら壁を見たんだけどそれらしき物が見当たらなかったの。
不思議そうに首を傾げていると、サリーがキョロキョロしてる理由に気が付いたようで彼女の肩を突いたわ。
当然、いきなり突かれた彼女は驚いたわ。
「ひゃ――!?」
「あ、良い声――じゃなかった、師匠キョロキョロしてどうしたんですか?」
「い、いえ……何だか良い匂いがするから、香でも焚いているのかと思ったのですけど……見当たらなくて」
「ああ、そのことですか。匂いはお湯からしてるんですよ」
どういうことかと益々首を傾げる彼女を見ながら、サリーはクスリと笑うと湯の中を見渡して大きな麻袋を見つけるとそれを近づけたわ。
近づけた麻袋を嗅がせるように近づかせると、恐る恐る彼女は鼻先を近づけたの。すると、麻袋からふんわりとした香草の良い香りが漂ってきたわ。
そこで彼女はようやく気が付いたわ。この麻袋の中には香草がたくさん入っていて、お湯の温かさで香草の香りと効能が染み出ているのだってね。
お湯の熱で香草の香りと効能を煮出すという方法は人間の国では無かったので、彼女は驚きながらも納得してたわ。
ちなみに人間の国のお風呂で香草を使うのは、蒸し風呂の中で蒸らしながら香りを楽しむといった使いかたが一般的ね。
「さ、温まったことですし、身体を洗っちゃいましょうか」
「えっ? べ、別にアタシは洗わなくても……」
「いーえ、ダメです! 師匠も女の子なんですから、綺麗にしないといけません!!」
「で、でもアタシは……って、――ひゃあぁぁっ!?」
「でもも、何も無いです! まごまごし続ける師匠には強制執行させていただきます!!」
迫力のある笑みを浮かべながら、サリーは彼女を抱き抱えると2人で洗い場へと移動したわ。
洗い場は等間隔に磨かれた石が置かれており、その前を通るようにお湯が流れて身体を流す用のお湯を溜める場所がある造りをしていたの。
シャワーとかなんてこの世界には無いはずだろうから、これが精一杯なんでしょうね……シャワーって何か? んー……貯めたお湯を細い管を通して、流す道具って感じね。一応、動物の腸を使ったら作れるかも知れないけど……創らないわよ。
で、そんな磨かれた石の一つに彼女を下ろすと、サリーは手拭いに石鹸を付けると泡立て始めたの。何でかこの世界の石鹸はかなり進歩しているのよね……きっと他の転生……げふげふ。
「それじゃあ、洗いますね師匠~♪」
「えぇ?! い、いえ……もう諦めたので、アタシは自分で洗いますから……」
「そう言わないでくださいよ。スキンシップは大事ですからね~♪ はぁ~、スベスベのお肌ですね~」
「サ、サリーさま。落ち着いてくださ――せ、背中! 背中だけで良いですから、前は自分でぇ!!」
「気にしないでくださいよ師匠。前もちゃんと綺麗に洗いますからね~♪ だから、ワタシに全てを委ねてください」
「き――気にしますよぉ~~……!!」
まるで発情期到来といった感じのサリーから逃げようとする泡だらけの彼女は何ていうか……狼に食べられそうになっている哀れな羊といった感じだったわね。
とりあえず、どんな様子だったかは桃色な感じだったけど詳細は省くわ……。
まあ、ぐったりとした泡だらけの彼女と妙に清々しい手拭いを持ったサリーが居るのは確かだったわね。そしてサリーは彼女へと桶に入れたお湯を掛けて泡を落としていったわ。
そしてそのまま今度はぐったりとした彼女の髪をサリーが洗い始めたの。何というか至れり尽くせりって言えば言いのかしらね……。
匂いから、香草を煮詰めた液と石鹸と蜂蜜を混ぜて作られた洗髪料だと思うけど、その匂いはぐったりとした彼女の身体を優しく包み込むように優しい匂いだったわ。
「はい、終わりましたよ師匠。……師匠?」
「ほぁ~~…………っは! そ、そのっ、ありがとうございます?」
「いえいえ、どういたしまして。それに……いきなり依頼に行きたいって理由も解りましたしね」
「そ、そうで――はっ!?」
多分、身体を満遍なく洗ってた結果……サリーは気づいたんでしょうね。
そう言ったサリーの表情は分かると言った表情をしていたんですもの……。
一方で、気づかれた彼女のほうは顔を茹蛸みたいに真っ赤にしていたわ。
そして彼女は何も言わず、サリーは慈しむように優しい瞳を向けながら……身体を温めるために湯の中へと入ったわ。
ほんの少しのお肉でも、お胸以外は女の敵だと思っております。
あと、男が言うと犯罪だけど、女同士なら大丈夫って悲しいですよね。当たり前ですけどね。