戻ってきた彼女の日常
ごちそうさまでした。
どうだった、春野菜のスープは? え、玉葱が甘くてトロトロで凄く美味しかったって?
うん、美味しいよね。春の玉葱は、それにポティトも良い味出してたでしょ?
ホクホクしてて、食べ応えがあったって? うん、じゃあ今度はポティマーでも作ってあげるよ。ちょっと脂っぽいけど好きでしょ? ホクホクの蒸しポティトの上にたっぷりのマーガンと塩をかけて食べるの。まあ、脂濃すぎるからあまり食べさせたくないけどね。
ん、だけど今日のおやつはホットケーキだって? あはは、わかってるわかってるって。
じゃあ、おやつの時間までお話の続きをしようか。
後ろめたい気持ちのまま彼女はその日を過ごして、その夜……何だか懐かしくもあるけど物凄く悲しい夢を彼女は見てた気がするの。
そんな夢を見た翌朝、彼女はベッドから起き上がると、乾いているけど自分の目元を伝う涙のあとに気づいたわ。
いったい自分はどんな夢を見たんだろうかと思いながら、彼女は表情を暗くさせたわ。きっと、何か大切な夢だったのだと思うから……。
けれど、そんな暗い顔をし続けたらダメだと自分に言い聞かせて、彼女は窓際まで歩くとシャッとカーテンを開いたわ。
「…………わぁ」
今までのように窓から見た光景じゃない、自分自身の眼で見ている光景に彼女は声を漏らしたの。
少しだけ恐る恐る窓を開けると、雑踏の音が彼女の耳に届いたわ。
ワン族、ニャー族、色んな獣人が冒険者ギルド前の通りを歩いて行く光景は彼女には驚きだったみたい。
そして、開いた窓から流れ込む新鮮な空気が流れ込み……彼女は深呼吸したわ。
何気ない行動だけど、彼女にとっては本当に久しぶりの感覚で、何とも満たされた気持ちになったの。
「もう、あの部屋の中じゃないんだ……。アタシは、ここにいるんだ……」
そう自分に言い聞かせながら、彼女は小さく呟いたわ。ステータス――ってね。
すると、彼女の目の前に自身の能力を可視化されたものが出てきたわ。
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レベル:95
たいりょく:952
まりょく:998
ちから:847
ぼうぎょ:731
めいちゅう:539
すばやさ:648
かしこさ:895
まぼうぎょ:684
うん:93
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前の彼女のときのステータスを彼女は見れなかったから、初めて見たそのステータスに彼女は驚いて絶句したわ。
同時に、自分はもう普通じゃないと言うことを思い知って表情を暗くしたの。
でも、彼女は気づいていなかったけど……ステータスから神からの祝福が無くなっていたわ。
きっと神の祝福は彼女の中に居た存在に与えられていたものだったんでしょうね……。
そんな風に少し落込んでいると、部屋の扉が叩かれ……外から声がしたの。
「師匠ー、起きていますか?」
「は、はい……おはよう、ございます」
「おはようございます師匠。良く眠れましたか?」
「はい、その……ぐっすりでした」
恥かしそうに彼女がそう言うと、獲物を見つけた狼のようにサリーが目を輝かせながら彼女へと抱きついたわ。
きっと今の彼女はサリーにとってかなり好きな部類に入っていたんでしょうね。いわゆるワイルドだったのが、KAWAIIになったって言うのも原因の一つかも知れないわ。
抱き締められて苦しがっていると、ようやく気づいたサリーが頬を赤くして離れたの。
「す、すみません師匠。何だか可愛くってつい……」
「いえ……気にしないでください。それで、どうしたのですか?」
「あぁ、朝ごはんを一緒に食べましょうって誘いに来たんです。フォード君も一緒ですけど、大丈夫ですか?」
「あ、だ……大丈夫です。たぶん……」
サリーからの誘いに、少しだけ躊躇したけど彼女は頷いたわ。
それから、何故だか着替えを手伝いたいと言うサリーとともに服を着替えて、部屋の前で待っていたフォードと3人で1階の食堂に向かったわ。
今日もマゴーを食べようかと思ったけど、他の物も食べてみたいという欲求に駆られた彼女は、2人と同じ鶏出汁で煮込まれたドロドロのお粥を食べることにしたの。
家で普通に暮らしてたころに偶にだけど麦粥は食べたことはあったけど、マイスを使ったお粥は彼女にとっては初めてだったから緊張しつつ、スプーンで掬うと口に運んだの。
「はふ……熱っ、はふ……はふ…………しぃ」
「し、師匠、どうしまし……。……いえ、よかったですね」
「火傷するからゆっくり食べろよアリス。誰も取らないからさ」
「ッ!? す――すみません……」
昨日はまだ実感が湧かなかったけど、一晩経ってから食べたお粥に味を感じたことで彼女は涙を流したわ。
だって、今まではあの部屋の中で味を感じることも出来なければ、何か食べることさえ出来ない毎日を過ごしていたんだもの。
そんな彼女がどう見えたのかは分からないけど、サリーとフォードは優しい瞳で彼女を見つめたわ。
ちなみに久しぶりに食べたからか、誰にも渡したくないという風に彼女は粥の入った椀を抱き抱えるようにして食べていたわ。
ようやくそれに気づいた彼女は顔を赤くして、恥かしそうに俯いたの。




