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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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番外編:アリス・3

 モンスターの雄叫びや冒険者の人や衛兵の心を奮い立たせる声が聞こえる中で、激しい剣戟がアタシとハガネの間で鳴り響いていました。

 けれど、アタシの持っていた剣が折れてしまい、剣戟は止んでしまいハガネは槍を構えました。

 正直、このままだと死んでしまうのではないかと不安になりかけましたが、何故だか死ぬようなイメージはまったく湧きませんでした。

 何故なら、ハガネの槍がアタシの身体を貫くよりも先に身体の中を魔力が循環して、足を通して地面から土壁が出るイメージを行ったからです。

 そして、そのイメージは形となってアタシとハガネの間の地面から突き出して、ハガネの槍の貫きを妨げました。


 ですがその行動で、ハガネは益々アタシに興味を示して、その獰猛な笑みに恐怖すると同時にうんざりする感情がありました。

 ちなみに周りからも驚きの声が上がっていましたが、煩いと思いながら折れた剣の代わりを探すことにします。

 そのときに、アタシが自分に問い掛けるように「一番硬い金属は何か?」と問われたような気がして、図鑑で見たアダマンタートルとオリハルコンタートルの2種類が浮かびました。

 浮かんだモンスターを探すと、ひと際大きいその2種類は簡単に見つかり、一目散でそこに向けて駆け出しました。

 後ろから激昂するハガネの怒声が聞こえたけど、すぐに馬鹿を見るような口調に変わりました。

 だって、逃げたと思われている先には人が倒すことが不可能と言われるモンスターが道を塞いでるからです。

 ですがアタシは近づきながら、このままだと鉱石として認識出来ないことを無意識に理解出来て、倒すことから始めることにしました。

 倒す、と言っても相手からの攻撃も無ければ反撃を与える暇も無い……もしかしたら、気づいていなかったかも知れないけど、アタシは地面に『水』の属性を込めた魔力を地面に叩きつけました。

 その魔力は氷という形を取って、2種類のモンスターの地面から突き出して、紙を切るかのようにモンスターの身体を貫きました。そのとき、何故かアタシの頭の中には「豆腐」という言葉が浮かびましたが、意味が分かりません。


 その光景にハガネを含めた周囲が完全に固まりましたが、そんなことはお構い無しにアタシは絶命した2体のモンスターに近づくと、両手に『土』の属性を込めた魔力を纏わせて甲羅となっている鉱石を粘土のように千切りました。

 固まっていた周囲がその行動によって益々言葉を失います。事実、行っているアタシでさえ信じられません。≪軟化≫と≪硬化≫の2種類は自身の能力に左右されるのですから……。

 いったいアタシの身体にはどれだけの力があるのだろうと不安になりますが、今は悩んでいる暇は在りません。

 金属と鉱石の2種類を混ぜ合わせて、1本の棒にするとアタシは不敵に笑います。絶対にアタシがしそうにない笑みです。


 そして、アタシの行動が皮切りとなったのか、ギルドマスター様の雄叫びとともに冒険者や衛兵の人たちが戸惑うモンスターへと攻撃を仕掛けるのが見えました。

 状況の変わりようにハガネは悔しそうな顔をしていましたが、アタシはそんなハガネを挑発します。

 挑発は効いたらしく、憤怒の形相でハガネが槍を素早く突き出してきましたが逆に避け易くなっており、その攻撃を避けるとともに槍を棒を使って圧し折りました。

 折られた槍が自分の信念だったというように、ハガネはその場で崩れ落ち……諦めたと思ったわ。

 けれど、その油断が命取りになっていました。何故なら、緩みきったアタシの胸へとハガネは全身全霊を込めた突きを放ってきたのです。


「ひっ!? い、痛い! 死んだ、アタシ死んだのっ!?」


 突かれた自分の胸に恐怖を抱き、アタシは心で恐怖に満ちた悲鳴を上げます。けれど、すぐに痛みはあったけど、小石で躓いたぐらいの痛みしかないことに気が付きました。

 どういうことか理解出来ないアタシの前で、ハガネが痛みによる叫びを放ちました。そしてその腕は……アタシを貫こうとした腕はぐしゃぐしゃに潰れていました。

 驚くアタシの鼻に鉄の臭いと甘いアップの匂いがして、アタシの胸を貫こうとしたハガネの腕が逆に潰れたということに気が付きました。アップの実が一つ犠牲になりましたけど……ね。

 そして、恐怖に満ちたハガネへとアタシは棒を振り被って、トドメを刺しました。

 その際に地面を一緒に叩きつけて、土煙を巻き起こしてアタシはその場から即座に立ち去りました。

 広場では冒険者や衛兵の人たちが助かったことに歓喜の声を上げていて、アタシはそれを見ながらホッと息を吐きました……でも、落ち着いてくると同時にアタシの身体は再び部屋の中へと戻っていました。


「なん、だったの……今の?」


 震えた声で呟きながら、アタシがアタシで無くなった感覚に恐怖を抱きました。

 こんなのはアタシじゃない、アタシじゃない……そう呟きながら、アタシは今起きていることに恐怖をして、部屋の隅で怯えていました。

 助けて、おかあさん助けて、誰か、アタシを助けて……。

 アタシは呟くけど、その呟きは誰にも届きませんでした……。

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