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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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番外編:アリス・2

 濃密過ぎる1日はまだまだ終わらず……、窓の外ではモンスターの大群が王都の攻め込んできました。

 しかも、攻め込んできたのは【最強の矛】ハガネだという話です。その名前はアタシも覚えがありました。

 確か【無敵の盾】という二つ名を持つウーツという名前の魔族と対を成すと云われる魔族だったと思い出していると、とんでもないことが発覚しました。

 なんと、ハガネが攻め込んできた理由がウーツの敵討ちだと言うではありませんか!? そして、その仇とは窓の外のアタシでした。

 そう言えば、魔物溜で投げてた石とかスライムが遠くの山に大穴を開けてましたね……。

 そんなことを思いながら、アタシは現実から益々逃避するようにベッドに身体を預けます。


「いったい……どうなったんだろう、アタシ……」


 ポツリと発せられた小さな呟きは誰からの返事も無いまま部屋の中に消えて、窓の外からは悲鳴が聞こえてきました。

 逃げるために、外に出たんでしょうけど……、外では助けを求める人々の声、周囲に罵声を浴びせる怒鳴り声、親とはぐれた子供の親を探す泣き声。そんな様々な悲鳴が聞こえて、アタシの身体はビクリと強張りました。

 怖い、怖い……逃げたい。ギルドマスター様も早く逃げろと言ってるんだから、早く逃げましょう。窓の外のアタシ!

 心からそう願いながら、アタシは起き上がって窓に近づくと、手でバシバシと窓ガラスを叩いた。

 だけど、窓の外のアタシはその光景に釘付けになり……恐怖と同時に、何か別の感情があることに気が付いたんです。

 動悸が早くなる……。その感情に気づいたらダメだと、言うようにドクンドクンと……窓の外のアタシも、此処にいるアタシも胸の鼓動が激しくなりました。

 死ぬかも知れない……そう思うと怖くなってくる。だけど、アタシには……窓の外に居るアタシには力がある。

 だからでしょうか、アタシは無意識に呟いていました。


「アタシには……助けることが出来る……?」


 口から出た呟きを否定するようにアタシは頭を振るう。

 いやだ、逃げたい。逃げて、柔らかなベッドでまっさらなシーツを被って縮こまりたい……。

 怖い、怖い怖い、怖い怖い怖い……でも、このままだと……誰も助からないかも知れない……。

 イヤだ、イヤだイヤだイヤだ……。此処で逃げたら、次は別の街を襲うかも知れない……。

 脚がガクガクと震える。でも、アタシには力がある。格下だけど、ゆうしゃとしての力が……。

 だけど、だけどアタシには無理だった……、怖くて脚がガクガク震えて、その場にしゃがみ込んで一歩も動けない。


「だから……だから、あなたが……あなたが戦って! みんなを、助けるために!!」


 震えながら、アタシはそう叫び、窓の外のアタシを奮い立たせた。

 すると、その願いが通じたのか……窓の外のアタシはフォード様から剣を抜いて、飛び立って行きました。

 窓の外のアタシが空を跳んだ瞬間、まるでアタシも空を飛んでいるような……窓の外に居る自分と一つになったような感覚を味わっていました。

 その感覚に逆らうこと無く、身を委ねて……迫り来る龍の形をしたモンスターを剣で倒して、死骸を空中で魔法を使って灰に変えました。

 魔法は初めて使ったはずなのに、自然と使い方も解っていて、それが変だともまったく思いません。


 そして、地上に降りたアタシはこのままだと正体がばれると思って、降りた場所にあった手短な物を羽織りました。

 ちなみに何で胸元にアップの実を2個入れたのかはまったく理解出来ません。理解できないけど……何故だか揺れる胸元に少しだけ誇らしく思えたのは何故でしょうか?

 とか、そんなことをしていると時間がかかりすぎていて、アタシはハガネの居る場所まで屋根伝いで移動しました。

 その途中で、兄弟がモンスターに襲われているのを見つけて、迷わず助けました。


「反対側の東門のほうに人は集まっているから、早く逃げなさい」


 端的にそう言うと、兄弟はアタシにお礼を言うと東門に向かって走り出して行きました。

 本当なら送ってあげたいけど、アタシにはやらないといけないことがあるのだから。そう思いながら、反対側から来るモンスターのほうに向いて駆け出して行きました。

 まるでこれは映画みたいだなと、アタシは思……映画? 映画って何ですか??

 初めて聞いた単語のはずなのに、自然と映画というのがどんなものなのか分かり、アタシの頭は混乱します。

 けれど混乱するアタシだったけど、時間は待ってくれず西門へと辿り着きました。


 西門に辿り着いたアタシが見たものは、恐怖でした。血がドクドクと地面に垂れて、人だったものがあったり、痛みに叫ぶ悲鳴が聞こえたりする中で、モンスターが暴れまわっていたのです。

 それを見たアタシは吐き気が込み上げて、脚がガクガク震えて動けなくなりそうになったけど……その思いは反映されず、アタシは周囲を見渡していました。

 するとそこで見つけたのは、4人組のパーティーが1体の人型のドラゴンと対峙する光景でした。もしかしなくても、あれがハガネなんだろうとアタシは直感しましたが、それよりも先にアタシの心を占める何かがありました。


 ――イケメン死すべし。


 イケメンという言葉はまったく分かりませんが、ハガネと戦うパーティーのリーダーだと思う綺麗な顔をした青年が剣を振り下ろしていました。

 その青年に素敵とか格好良いといった印象が何故だか生まれず、それどころか何故だかイライラとしてしまいました。

 ハガネに叩き潰された青年に清々しい気持ちを感じながら、アタシは2人の間に入るとハガネの攻撃を受けました。

 驚くハガネと周囲だったけど、アタシには出来るという確信があって、事実受け止めたのだから変だとも思いません。

 そして、誰かと問い掛けてくる青年を蹴り飛ばすとやっぱり清々しい気持ちを味わって、アタシはハガネと対峙したんです。

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