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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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番外編:アリス・1

もうひとりのアリス視点です。

「アリスはゆうしゃだから、大人になったら頑張るのよ」


 それが幼いころから、おかあさんがアタシに言い聞かせてきた言葉……。

 子供のころは良く解っていなかったけど、凄いことだと思って張り切っていたのを覚えてます。

 だけど、大人になるにつれて、アタシはゆうしゃとしての使命がどんな物かというのを知りました……。


 ゆうしゃの使命、それは近隣に現れるモンスターと戦って、街や周辺の村を護ることだったのです。

 それを知ったとき、アタシはゆうしゃになんかなりたくないと心から願いました。

 だけど、おかあさんはアタシがゆうしゃになると信じて疑わない……。

 だから、口に出して願うことなんて出来ませんでした。


 けど……その反抗の現われだったのか、アタシは11歳からの毎日を殆ど家の中で過ごして、本を読む毎日を続けました。

 だからでしょうか、一日の殆どを家の中で過ごすようになってから1年が過ぎた頃にはアタシは本を読むのが好きになりました。

 おかあさんはゆうしゃが強大なモンスターと戦って勝利する英雄譚のような本を勧めて来ていたけど、それよりもアタシはお姫様と王子様が困難の末に結ばれるような恋物語が好きでした。

 叶うことは無いけど、何時かは王子様と恋に落ちてみたいとも思いましたが、叶わない願いだと思うから諦めます。

 その他にも、家にある本は英雄譚以外の本は何でも読みました。

 万が一、野宿するときに必要な知識が書かれた本、食べることが出来る野草の種類が書かれた本、毒のある植物動物の見分けかたが書かれた図鑑、数学などの計算が書かれた本も読んだことはあるけど……良く解らりませんでした。

 アタシは商人には向かないなと思いました。だって、計算は解らないんだから。


 そんな感じに家にある本を読み尽くして、あと数日で14歳の誕生日が近づいてきました。

 そのころになるとおかあさんも大分諦めてくれたのか、諦めたように溜息を吐きつつ……「14歳の誕生日には王様のところに挨拶に行かないといけないから、せめて挨拶には行きなさい」とだけ言ってくれた。

 おかあさんに悪いことをしたとアタシは思った。けど、アタシは安心して14歳の誕生日までを穏やかに過ごせました。


 誕生日前日にはささやかだけど、おかあさんが祝ってくれて嬉しかったです。

 そのときに、明日の王様への挨拶に着なさいと、真新しい冒険者の服を渡してくれましたが、明日しか着ないだろうと思いました。

 そして、心もお腹もいっぱいになって、アタシは明日のために眠りにつきました。とてもとても幸せな気分です。


 けれど、その日見た夢は……悪夢でした。

 逃れることができない真っ黒な沼に、アタシの身体は段々と沈んで行き……「助けて、助けて」と叫ぶのにその声は誰にも届かなかったのです。

 恐怖に心が彩られて行く中で……、アタシの身体は沼の中へと沈んでいきました……。

 ああ、アタシは死ぬんだ……そう思ったとき、アタシはこれが夢だと言うことを思い出しました。


 そう思いながら目が覚めると、アタシはベッドに寝ていました。とりあえず、ああいう夢を見るのってもしかしたら……そう思いながらベッドを触るけど、何処も濡れていませんでした。

 ホッと溜息を吐いてから変な夢だったなぁ……と思いながら、アタシは窓の外を眺めました。

 けれど、そこに映っていたのは、毎日見ているホンニャラッカの街並みではなく……鏡を見るアタシの姿でした。


「え、ど……どういうこと?? アタシはここに居るのに、何でアタシが窓の向こうにいるの?? これも、夢??」


 頭の中が「?」で埋まる中で、窓の外に居るアタシはおかあさんに急かされて、服を着替えています。

 こういう夢を見ているのだから、きっと現実ではおかあさんが早く起きるようにアタシの身体を揺すってるに違いありません。

 そう思いながら、アタシは頬を抓るけど……普通に痛かった。じゃあ、もう一度眠れば目が覚めるはず。

 ベッドに寝転び、シーツを被るけど……眠気はまったく起きません。


「じゃあ、部屋の扉を開けたら……目が覚めるとか??」


 自分に問い掛けるように呟いて、アタシは……廊下に繋がる扉に手をかけます。

 ノブは回り、アタシは扉を押します。けれど扉は、まるで扉の形をした壁といわんばかりに押しても引いても動きません。

 夢を見ているはずなのに、アタシは目覚めることが出来ない……もしかして自分はこの扉が開かないと、ずっとこのままなのだろうか、そう思うと物凄く不安になってきて、扉を強く叩きました。


「開けてっ! 開けてよっ! おかあさん、開けて! 開けてよぉ!!」


 アタシは必死に叫びながら、ガンガンと扉を叩いておかあさんに助けを求めます。

 けれど、扉の向こうからは何の反応も無く……、叫び疲れたアタシは息絶え絶えになってその場に座り込みました。

 それでも、ちゃんとした場所に座ろうとベッドの縁まで向かって、ちらりと窓のほうを見ると……窓の外のアタシは自分よりも3つほど年上の冒険者らしき男の人の静止を無視して、街道から離れるのが見えました。

 直後、窓の外がぐにゃりと歪んで……1匹のスライムが姿を現しました。それを見て理解しました……魔物溜に窓の外のアタシは飛び込んだんだと!


「な、何を考えてるの……!? は、早く、早く逃げないと! 逃げてよっ!!」


 信じられないと心から思いながら、アタシは必死に逃げるように窓の外に声をかけます。けれど、窓の外には声が届かないらしく窓の外のアタシは意気揚々とスライムと退治しようとするのが見えました。

 でも、すぐに自分が丸腰だということに気づいたらしく……怯えています。


「馬鹿! 窓の外のアタシの馬鹿ッ!」


 多分、ここ数年まったく叫んでいなかったからかすれていると思うけど、アタシはそう叫ばずには居られませんでした。

 ちなみに魔物溜のことは本を読んで知っていたから、アタシは中へと飛び込んでしまった窓の外のアタシの死を覚悟したけど……信じられないものを見たんです……。

 怯えて、混乱する窓の外のアタシは近くにあった石やモンスターを掴み、モンスターが来ないようにと力いっぱい前へと投げ付けていました。

 普通は無意味で時間稼ぎになるはずも無い行為です。ですが窓の外のアタシが投げた石たちは、手から物凄い速さで放たれて……迫り来るモンスターたちを一瞬で倒していきました。

 そんな窓の外の光景に驚くアタシだったけど、当の本人である外のアタシは何が起きているのかさえ理解していないようでした。そして、混乱するままついさっき声をかけてくれた青年に助けられるのをアタシは見ていました。


 しばらくして窓の外のアタシはお城に辿り着いて、王様に謁見していました。

 王様を間近で見る機会なんて初めてだったけど、目の前の王様は年若く……何というか、威厳的なものが感じられません。

 少しだけそう思いながら、どんなことを言われるんだろうと思っていました。

 けれど、アタシが着ている服がボロボロになっているのを見て……まるで期待ハズレと言ったみたいな溜息を吐いて、馬鹿にするようなことを言ってました。

 ちなみに集中すると周りの声が聞こえることに気が付いて、集中して声を聞こうとした瞬間に周囲からの嘲笑う声が聞こえました。

 その嘲笑う声を聞いた途端に、アタシは恥かしくなったけど……もしも箱入り娘なんて呼ばれずに、勇猛果敢な性格だったりしたら、こんな王様のために働くことになっていたのかと思って、少しだけ清々しました。


「うん、お話も終わったし……あとは家に帰ってくれたら、多分夢から覚める……よね?」


 そう呟いて、窓の外のアタシがホンニャラッカの自宅に帰ることを期待していたけど……、その期待を裏切るように窓の外ではいろいろと話が進んでいました。

 ボロボロの格好だと恥かしいということに気が付いてくれた窓の外のアタシは冒険者の服を買い求めに商業区の辺りに行ったみたいですが、何故だか欲しい服だけが見当たりません。

 諦めかけたときに、魔物溜に飛び込もうとしていた窓の外のアタシを止めた冒険者の青年……フォード様の案内で冒険者ギルドに向かい、冒険者の服を手に入れることが出来ました。

 ですが、そこでもまた話がいろいろと進み始めて、熊みたいな体格をしたギルドマスターと話をして……大量のモンスターを撃退していたという事実が発覚して……そして、驚く間も無く事件が起きました。


 正直、ここまででもうアタシは数日間過ごしているような気分になっていたけど……、まだ1日も経っていないことに気が付きました……。

 ああ、何て濃密過ぎる1日なんだろう……。

ある朝、目が覚めると自分の身体が自分のもので無くなっているって怖いですよね。

ってことで、2、3回ほどアリスの独白をさせていただきます。

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