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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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「き、記憶喪失ぅっ!?」

「ほ、本当なんですか師匠!?」

「……ッ! そ、その……はい」

「落ち着いてください、サリー、フォードくん。アリスさんが怖がっているじゃないですか」


 しばらくして、再び彼女の部屋に入ってきた2人だったけどそう言われて、物凄く驚いたわ。

 そんな2人に彼女は少しだけ怯えたが、それでも返事をしようと頑張って恐る恐る……頷いたの。

 勿論、記憶喪失はウソなんだけど……幾らなんでも、今まであなたたちと一緒に居た自分は別の自分でした何て言われても困るだけだと思っての行動だったの。

 ちなみにハスキーが最初に言い出したことなの。余計な混乱を起こさないためってことみたいよ。

 ……って、記憶喪失の意味が知らなかったわよね。記憶喪失って言うのはね、なる理由は様々だけどね全てにこれまでのことを忘れるとか、都合の悪いところだけ忘れる……要するにこれまでのことを覚えていなかったりするのよ。

 ……え、デザートを食べた覚えが無いって? あんた今アップの実を食べてたでしょ、記憶喪失のマネをしないの。


「お、おお……悪い。怖がらせちまったみたいだな、すまんアリス」

「師匠……失礼と思いますけど、その……可愛いです」

「は、はぁ…………」


 謝るフォードと愛らしいものを見て眼を輝かせるサリーにどう返事を返せば良いのかわからずに、彼女は愛想笑いをしつつ返事を返したわ。

 それから3人は目覚めたばかりの彼女に何かを食べさせるべく下へと降りて、食堂に向かったわ。

 食堂で初めに出された食べ物は粥だったけど、彼女の身体はそれを食べることが出来なくて……別の物を出してもらったの。

 次に出された食べ物は、マゴーの実を食べやすくカットした物だったわ。濃厚なオレンジ色をしたその果肉を前に彼女は驚いた顔をしていたの。だって、ゆうしゃになってからの記憶は持っているし、彼女が見聞きした物は自分にも届いていたけど……ここまで濃厚な色をした果物は見たことが無いんですものね。


「あ、あの……これって、食べれるん……でしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ師匠。濃厚な色をしていますけど、味は凄く甘いですからね」

「んー、俺も食後に食べてみようかな」

「じゃあ……食べてみます……」


 サリーとフォードに見られながら、恥かしそうに彼女はマゴーを一欠けらフォークで刺すと恐る恐る……口に入れたわ。

 口に入れると、クニャリとした食感がしたと思うと口の中で溶けて、濃厚な果物独特の甘さが彼女の口いっぱいに広がってきたの。幼いころから良く食べた果物であるアップの実とは違った濃厚な味わいに驚きながら、彼女はもう一欠けら口に入れたわ。

 またも口に広がるその甘みに驚きながら、彼女は小動物のように一欠けら一欠けらと食べたわ。時折ピリッと塩辛い味がしたと思うけれど、塩を振られていたためだろう。

 気が付くと彼女は出されたマゴーを全部食べ終えていたの。そして、その様子を見られていたことに気づいて、彼女は頬を染めて俯いたわ。


「その……美味し、かった……です」

「な、なんですかこの師匠の可愛らしさわ! もう抱き締めたくなるくらいじゃないですかっ!!」

「え――きゃ!? あ、あの……その……」

「お、落ち着いてくださいよ、サリーさんっ。周りが見てるから! 周りが!」

「はっ、す……すみません。何時もの師匠と違いすぎてつい……」


 サリーに抱き締められて眼を白黒させる彼女だったけど、フォードの言葉でハッとして彼女を話すとサリーは謝ってきたわ。ちなみに女性特有の甘い匂いがして、少しドキドキしたわね。

 そして、解放された彼女はフォードに恥かしがりながらもお礼を言うと、彼も彼女の調子の悪さについていけないのか彼女を見ずに「き、気にすんなよ」と言うだけだったの。

 それから食事を終えた彼女たちは今後の予定を話すことにしたわ。とは言っても、彼女は見ているだけで2人でどうするかという話をしているだけだったけどね。


「しばらくは此処を拠点にして、依頼を行うべきですね」

「分かりました。でも、俺はこの国のことはまったく分かっていないので、サポートをお願いしますサリーさん」

「ええ、分かりました。フォード君……あとは、師匠ですが……」

「あ、あの……ア、アタシは……」

「大丈夫です、ハスキー叔父さんにお願いして此処の空き部屋でしばらく住まわせてもらうようにしてもらいます」

「だからそんな心配そうな顔をするなってっ」

「は、はい…………」


 笑顔で接してくれるサリーとフォードに対して、弱弱しく彼女は頷いて……下を向き続けたわ。

 そんな彼女を2人は不安なんだろうと感じながら、少しでも記憶が取り戻されてくれることを願いながら……もう一度笑ったの。

 でもね……、2人の優しさが彼女には……辛かったわ。だから、2人の顔を見ることが出来なかったの。


 ――っと、そろそろお昼ごはんの買い物に行かないとね。

 あんたは今日は何が食べたい? え、ホットケーキ?

 ダメよ、あれはおやつだからお腹いっぱいにならないでしょ。んー……とりあえず、春野菜のスープにでもしようか。玉葱はイヤだって? ワガママ言わないの。

 ほら、出かけるから準備なさい。ほーら、むくれないのっ。そんな子にはおやつにホットケーキを作ってあげないよ?

 ……うん、聞き分け良くならないとね。さ、それじゃあ、行きましょ。

 え、上に何を乗せるって? んー、ジャムか蜜だね。そんなにはしゃがないの。

 まあ、元気が一番ね。それじゃあ、行ってきますっと。

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