事情説明
視点はシターです。
暴走、ある意味初めて聞く言葉ですが……何となく理解が出来ます。
通常……魔法を使うと魔力を消費し、消費する魔力が尽きると枯渇状態となり気絶します。
ですが、もしも気絶している状態だと言うのに魔力が尽きず……魔法を放ち続けているとしたらどうなるか……。
つまりは地獄の始まりです。
要するに、暴走とは扱いきれない能力を無理矢理使った者が辿るもの……と考えるべきでしょう。
あれ? でも……。
「あの、アリス様? ヒカリ様は、何故暴走をしたのですか……? シターたちは神使の生まれ変わりですから、扱えないわけではないですよね?」
「ええ、シターさんとルーナさんはちゃんと神使の生まれ変わりですよ? ですが、ヒカリさんは……」
そう言って、アリス様は黙りました。いったいどういう意味ですか?
首を傾げていると、ルーナ様は何か思い至ったらしく「あ」と声を上げていました。
何に思い至ったのかをルーナ様に訊ねます。
「シターちゃん。わたしたちには、ヒカリちゃんに何があったのかはわたしには分からない。けれど、あの子は……この世界の人間じゃない……。それは知っているわよね?」
「は、はい……。それが……」
「だったら、何でこの世界の住人じゃないのに……ヒカリちゃんは神使の力を持っているの?」
「え……、あ……それは……??」
ルーナ様の言葉で、漸くシターも気づきました。
この世界の住人じゃないならば、生まれ変わりではないと考えたほうが良いはず。
それなのに、ヒカリ様の中には神使が宿っている。それはなぜかと言うこと……。
多分、事情を知ってるかもしれないアリス様を見ます。すると……。
「本当はね、アナタたちが一緒に行動するはずだったのはヒカリさんでは無かったんですよ。
思い出してみてください、島で別世界のアタシが言いましたよね? 別世界にはヒカリさんは居なかったと」
アリス様の言葉で、少し前のはずなのに随分前のように感じる会話を思い出し……そう言ってたことを思い出します。
そして、ルーナ様と2人で頷きました。
「本当だったら、神使なんて力にも頼るはずが無かった。だから、神使は遠く時空の歪みに眠っていたんだと思います。
ですが、この世界は狂いました。結果、アナタがたの中に神使は目覚めました。そして、太陽の神使も目覚めようとしていましたが……本来の宿主である人物は、邪族の国で苗床の状態でした。
そんな中で、引っ張られて行ったのは偶然にもこの世界に落ちるときに歪みの中で眠っていた太陽に触れてしまったヒカリさんでした」
「え、えっと……つまり、自分が知らないところで、勝手に違う人の中に入ってしまった。と言うことですか?」
「はい、しかも普通に死んでくれたなら、神使は再び歪みで眠りにつきますが……入ってしまったのは不死の存在」
「要するに出たくても出られない。しかも、上手く力を使えないことに苛立っていた。と考えたら良いのかしら?」
アリス様の言葉に、シターたちはそう解釈しながら言います。
そんなシターたちへとアリス様は、分かり易い例えを口にしました。
「例えばね、ルーナさんとシターさんの2人にアタシが上げた武器を、見ず知らずの一般人が落ちてるのを拾って自分の武器にしたら如何思う?」
「それは……」
「わたしたちの物だから、返してくれと言うわね」
「ですよね? けれど、今回は本来の宿主には意志は残っているかは分からない。そして、拾った武器は意思があって協力する気はなかった。だから、力はあまり出なかったんです」
……言われて見れば、ヒカリ様の神使の能力は……シターたちと比べると弱かったと思います。
それは、神使とひとつになれていなかったから……だったのですね。
しかも……ヒカリ様の身体は焼けていっていました。
「力は出ない、代償が大きい、そんな諸刃の剣にもならない神使の力を……少しでも使いこなせるようにと思って。というよりも心の中の神使と折り合いを付けることを望んで肉塊に呑み込ませたのですが……、太陽の神使は意固地過ぎるみたいですね。
少しだけ貸して制御してあげていた力を全てヒカリさんの中に注ぎこんだみたいです」
そう言って、アリス様は《土壁》の隙間から向こうを覗きますが……不味い食べ物を食べたような顔をしています。
シターたちも見ても良いのか、目線の高さに合わせた小さな隙間が形作られ……そこから向こうを覗くと、ヒカリ様だと思しき、人型の焔が雄叫びを上げていました。
「うがああああああああああああああああああっっ!!」
雄叫びと共にヒカリ様の身体からは真っ赤な焔が迸り、熱に耐え切れなくなった身体が炭となり崩れ落ちますが……すぐに再生し、再び炭と化して行きます。
そんな光景を、シターとルーナ様は顔を蒼ざめさせながら見ていました。
酷すぎる。そんな感情と同時に、胸の奥からは可哀想と言う気持ちが溢れてくるのを感じます。
多分、これはシターの中に居る神使の感情……かも知れません。
「アリス、さま……。ヒカリ様を……ヒカリ様を助けることは、出来ないのですか……?」
縋るように、シターはアリス様を見ます。
すると、アリス様は……。
「出来る。と言えば、出来ますよ?」
「だったら――」
「ですが、それをしたからといって、ヒカリさんが力を使いこなせるかは分かりません。それどころか、力が無くなる可能性だってありますが……それでも良いのですか?」
……アリス様の言葉に、シターは何も言えませんでした。
何か、何かを言わなければいけないのに……何を言えば良いのか、思い浮かびません。
そんなシターを見ていたアリス様でしたが……。
「まあ、今の内考えておいてください。とりあえず、アタシは一度ヒカリさんの動きを止めることにします。……あと、瘴気も消し去りますとしますか」
そう言うとアリス様は平然と歩きながら、ヒカリ様へと近づいていきました。