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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
494/496

神使の苦悩

 臭い……。

 凄く……臭い。

 それに……暑い。

 吐き気を催すような臭いに包み込まれ、蒸し暑い感覚を味わいながらボクは暗闇に慣れてきた目で周囲を見渡す。

 ……ドクン、ドクンと赤黒ピンク、そんな色とりどりで臭い肉に包み込まれた状態にボクは陥っていた。


「あー……これは、まずったかなぁ……」


 小さく呟きながらボクは両手に握りこんでいるはずのナイフを振ろうとするが……、肉塊に沈められているのか手足がまったく動こうとはしていなかった。

 どうにか出来ないかと思うけれど、まったく動くことは出来ない……。

 これは、2人が助けてくれるのを待つべき……かな? やれると思ったんだけどなぁ……。

 そう思いながら、みんなで力を合わせようと言ったのに、一人で突っ走ってしまった自分自身の馬鹿さ加減にウンザリする。


「助けられたら、2人に謝らないとね……」


 小さく呟き、ボクは助けられるまでの時間……目を閉じることにし、目を閉じた。

 ちなみに……肉塊はボクを溶かそうとしているらしく、手足……それと身体や顔辺りに熱を感じるところから胃液的なもので溶かそうとしているのだろう。

 まあ、溶かされても……結局は再生するから別に良いや。

 そう呟きながら、ボクはジッとし始めた。

 けれど、ジッとしていると不安なイメージが浮かぶものらしく……閉じた瞳の奥では、無数の黒い珠を顔や身体に埋め込んだ……? いや、生えているんだ。

 そんな奇妙な顔や身体となった者たちが、見慣れた街並みをフラフラと歩いていくのが見える。

 これは……いったい?


『夢、にしては……リアルすぎるよね?』


 そう思っていると、ボクが見ているのは誰かの視点らしく……その人物はフラフラと移動を開始していた。

 見慣れた街並み……。いや、言わなくても分かる。ここは、人間の国の王都だ……。

 久しぶりに見た懐かしさを感じると同時に、荒れ果ててしまった街並みと化け物みたいにされた人々を見ながらボクは胸が痛くなる。

 そして、ボクが見ている視界の持ち主である人物は、王都の大通りの奥から続く細い道をフラフラと歩き続ける。

 普通の人が見たら、迷子になっているような道だ。

 けれどボクはこの道に見覚えがあった。……確か、ここの角を曲がると……。


『……あった。盗賊、ギルド…………』


 久しぶりに見るその巧妙に隠された入口を前に、動いている人物が入口の中へと入っていく。

 もしかして、この視点の主は盗賊ギルド出身の人物?

 そう思っていると、盗賊ギルドの中は……悲惨だった。

 何故なら、地下のバーといった感じの内装に居る盗賊のメンバーたちは理性があるのかは分からないが、涎を垂れ流しながら身体のいたるところから黒い珠を出現させているのだから……。

 思わず吐き気を催すのだが、そんなことは知ったことではないと言うように視界の主は受け付けであるバーカウンターへと歩いていった。


「うー……」

「あー……」


 声にならない声を聞きながら、バーカウンターの奥にいる男性に話しかけるが男性は話しかけられた言葉を無視するように……鍵をひとつ渡した。

 鍵を受け取った持ち主は、フラフラと歩いていく……確か、あの場所は……小部屋?

 そう思いながら、見ていると視界の持ち主は小部屋に入った。

 ……中は小さめの小部屋で、そこにはバケツらしきものが置かれているだけだった。

 何を、するつもりなのだろう?

 そう思っていると、突如耳元でミシリッ、ミシリッという何かを剥がす音が聞こえ……しばらくするとベチャリとバケツの中へと何かが落とされる音を聞いた。


「KYAハ! ハハははは! HAHAHAHAHAははははは!!」


 直後、その笑い声を皮切りにするとでも言うように声の主は腕をガリガリと掻き始めた。

 ……今度は、ボクの目にも見えた。視界の主が何をしているのかと言うのを……。

 腕、腕に盛り上がるようにして出てきた黒い珠を掻き毟るようにして抉り出していたのだ。

 ガリガリと皮膚を抉り、血が垂れているにも拘らず……狂った笑いを放ちながら、声の主は珠を抉り取っていく。

 それを見ていたボクは徐々に込み上げる吐き気を抑えきれずに、口元を覆った。

 直後――、まるで何かに引き剥がされるようにしてボクは離れた位置からその視界の主だった人物を見ていた。


『あれは……、ボクの中に居る神使……? ううん、似てるけど、違う?』


 ということはアレって……。


『そうだ。アレは、私の……私が入るはずだった本当の生まれ変わりだ』

『きみ……。もしかして、これは……現実?』


 振り返ると、最近呼びかけても返事が無かった神使暗い表情で笑いながら自分の体を掻き毟る人物を見ていた。

 そして、ボクがそう言うと彼女は頷いた。


『ああ、現実らしい……。あの忌々しい裏切り者の狐が私に押し付けた記憶の一部だ。

 ……本当は、嘘だと思いたかった。だが、お前が実体化した瘴気に呑み込まれたために、本当の私が入るはずだった器の現状を見ることが出来た。出来てしまったのだ……』


 よくは分からないけれど、きっと……呑み込まれたら見たくないものが見えてしまったということだろうか?

 そう思いつつ神使を見ていると、今にも泣きそうな表情でボクを見ていた。

 何ていうか、孤独に……見えてしまった。


『ごめんね……。ボクの中に入ってしまって……。けど、ボクはきみを放すつもりは無いんだ』

『っ!? な、何でだよ……! 私は、私はお前に手を貸すつもりなんて無いんだ! だって、だってお前は、自分を大事にしない! だから、何時も私の焔に焼かれて死ぬ!!』

『そう、だね……。けど、ボクはその戦いかたを止める気はないし、手を貸さないつもりだとしてもきみの力を手放すつもりは無いんだ』


 ――だって、ライトを助けるために……この力は必要なのだから。

 ボクがそう告げると、神使は顔を歪ませた。

 そして、ボクの胸に手を押し付けると……、呟くように言った。


『だったら……、だったら、私の力を使いこなしてみてよ。その力で、この肉塊を今度こそ燃やし尽くしてよ』

『え――』


 神使がボクにそう告げた瞬間、身体が燃え上がるのを感じた。

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