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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
493/496

VS肉塊(居残り組)

ヒカリ視点です。

「ルーナ姉、前の触手は任せて! その間に重い一撃をお願いっ!! シターはボクを強化して!!」

「分かったわ! ヒカリちゃん!!」

「わ、分かりましたヒカリ様っ! 神よ、彼の者に力の祝福を……」


 シターの強化魔法を受けて能力値を底上げしたボクは肉塊から放たれた触手に狙いを定め、構えたナイフで触手を切り裂いていく。

 初めは色が弱く感じ……力が弱いだろうと思っていたナイフだったけれど、振るうことで実感した。

 刀身が触手とぶつかり合った瞬間、ジュウという音と共に焼ける臭いを周囲に撒き散らしながら、触手は切れた。

 これって……、威力は弱いけれど……刀身に熱が持っているっていうこと?

 そう思いながら、接近してくる触手を切り裂いていくと……ボトボトと地面へと落ちていった。

 そして、ある程度切り裂き続け……腐った肉が焼ける臭いが周囲に広がったころに肉塊もこのままでは埒が明かないと判断したのか触手を伸ばすのを躊躇し始めた。

 そんなとき――。


「ヒカリちゃん! 準備が出来たから、下がって!!」

「分かった!」

「受けなさい、《火重》!」


 ルーナ姉の言葉を聞いて、一気に背後に下がると同時にルーナ姉の杖からは魔法が解き放たれた。

 それは初めて見る魔法で……、肉塊を含んだ周囲の地面を押し潰しながら……その上から更に火の層が押し迫ってきた。

 ……何ていうか、紅茶の抽出を思い出すような感じだ……。

 そんな印象を抱いていると火の層は肉塊を燃やし、ジリジリと地面に留まっていた。

 そして、肉塊から放たれる肉が焦げる臭いにボクらは顔を歪ませていた。


「…………そろそろ、良いかしら?」


 効力が切れようとしているのか、ルーナ姉はそう言いながら肉塊を見ていた。

 一方でボクとシターもすぐに動けるように待機をしているのだが、これで終わったと思いたい。

 ……一度、アリスを見たけれど彼女は何も言わなかった。……多分、手を貸すつもりはないと言うことを暗に告げているのかも知れない。

 すると、火は消え……肉塊の周囲の重力が普通に戻ったのか圧迫感というものが無くなったのを感じた。

 そしてそこに残っているのは、真っ黒焦げになった……肉塊。

 どうなったのかと思いつつ、近づいていくと……案の定、黒焦げた肉塊からピンク色の触手が周囲へと無差別の飛び出してきた!


「くっ! やっぱり!?」

「ヒカリ様っ! 護れ、星の輝きよ――《星幕》!!」


 予想出来ていたとしても、ボクは驚きつつ一気に後ろへと跳ぶ。

 その間にも迫り来る触手をナイフで斬りおとし続けるが……、ヌルリとした触手に刀身が滑ってしまっていた。

 けれどある程度後ろまで下がるとシターが援護として発動状態にしていたのか、魔法を解き放った。

 すると、触手からボクらを阻むように星の幕が一気に落ち、触手を貫通させないように防いでいた。


「大丈夫ですか、ヒカリ様?!」

「あー、うん。大丈夫大丈夫……ありがとうシター。助かったよ」

「それは良かったです、けど……シターも初めて使ったので、これがどれだけ持つかは分かりません……」

「わたしのほうもごめんね、ヒカリちゃん……。初めてだったのに、力を過信し過ぎていたわ……」

「ううん、気にしないでルーナ姉。シターも無茶はしないで。それに……悩むよりも先に、今は倒すことに集中しないと」


 そう言って、ボクは薄いゴムシートのように触手の貫きを防ぐ星幕を見るけれど、何時破けるかは分からないという事実に息を呑む。

 このままだと、ボクらは触手に身体を貫かれる? ううん、その前にきっとアリスが助けてくれるに違いない。

 だけど……それで良いの? アリスに助けてもらうって思うだけで良いの?

 ボクはついさっき言ったはずだ。

 ライトを助けるために、ボクらは強くならなくちゃならないって……!

 ギリッと握り締めたナイフをより力強く握り締める……。


「ヒカリちゃん?」

「ヒカリ様?」


 すると、そんなボクの様子に違和感を感じたのか、2人が声をかけてきたけれど……それに返事をするよりも先に、ボクは星幕へと飛び出していた。

 突然の行動に驚く2人が止める声が聞こえたけれど、焦りすぎていたボクはその声に止まることは無かった。

 ……星幕は外からの攻撃は完全に防ぐようだったけれど、内側から外に出るときは何事も無く通ることが出来るようだった。


「はあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 叫びながら、星幕を抜け出し――触手を一閃すると、そのまま駆け出していく。

 接近してくるボクに気づいたのか、触手が一斉に襲い掛かってくる。

 そんな攻撃……効くわけが無い!!


「喰らええええええぇぇぇっ!!」


 叫ぶとボクは神使の力を解放すると、ナイフへと送り込んだ。

 通常のナイフだと簡単に熔けたりするけれど、アリスのナイフは神使の力を注ぎ込んでも大丈夫らしく、2色の刀身が真っ赤に赤熱し始めた。

 熱い……けど、まだ耐えられる熱さだ。

 そう思いながら、焼け始める掌の熱さを感じつつ……、ナイフを振るった。

 すると、刀身から紅炎の線が奔り――襲い掛かってきた触手を斬りおとしていった。

 その攻撃を受けた触手たちはジュワリと音を立てながら斬られ……次々と地面へと落ちて行き、燃え上がり灰となっていく。

 それで恐れてくれるならまだしも、肉塊は恐れを知らないのか……それともボクは敵じゃないと思っているのか幾度と無く触手を放ってくる。

 一振り、二振り、三振り、そんな感じに何度も振るっては触手を灰に変えて行く……が、いくらアリスの武器で腕が燃えるのが軽減されているからといって、幾度と無く振るった結果、ボクの腕は徐々に黒く炭化し始めていた。


「ヒカリちゃん! 無理しちゃダメよ! 後ろに戻って!! わたしが時間を稼ぐから!!」

「お願いです、ヒカリ様! 腕を、腕を治療してください……!」


 後ろからルーナ姉とシターの声が聞こえるけれど、聞こえない振りをしてしまう。

 何故なら、ボクは肉塊へと到達したからだ。そして、肉塊へとボクは構えて剥がせなくなったナイフにより力を込めると……腕を振り回し始めた。

 振り回す度に紅炎が奔り、肉塊を切り裂き続け――肉が燃える臭いすらも消し飛ばし、そして……。


「くらえ! <プロミネンス・フレア>!!」


 叫んだ直後、紅炎が肉塊を燃やし始めた。これなら倒すことが出来ただろう。

 そう勝利を確信した瞬間――。


「え――――」


 突如肉塊が弾け飛び、ボクの視界をピンクと黒の肉が包み込んだ。

 そして、呑み込まれると思った瞬間にはボクの身体は肉の中に閉じ込められていた。

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