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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
490/496

移動作業

前半はアリス視点。後半はシバ視点です。

 そんな残念そうな顔をしないでくださいよ。何だかまるでアタシが馬鹿みたいって思われるじゃないですか……。

 え? 馬鹿といえば馬鹿ですって? ひ、酷いですねー……。


 まあ、やり方ですけど……、簡単に言うと土地を入れ替える。と言った感じですね。

 え、アタシだから、一気に土地ごと浮かせて街の近くまで持って行って落とす。ッて感じに見えたですって?

 サリー……それは少し酷いですよ?

 というよりもそんなことをしてしまったら地脈が傷付いて、土地が可笑しくなっているのが更に悪化して完全に危険なことになるじゃないですか。

 ……どういう意味か分からない。ですか?

 ええっと、つまりですね。土地ごとには地脈ってあるんですけど……分かりますか?

 分からないなら、簡単に説明するとですね地面の下に無数の線が走ってるって思ってください。

 で、その線は至るところから広がっているわけです。

 要するに、土地が瘴気に汚染される原因にもなった。と考えてくれれば良いですね。


 そんな危険なものならば無いほうが良いですって? ハツカさん、それは違いますよ。

 地脈があるからこそ、神の恩恵は与えられて……果実も草や木もありとあらゆる生命が息づいているんです。

 ……まあ、今回は瘴気が影響する原因でしたが。


 それでですね、その地脈は無理矢理動かすと傷付いて、その土地とそこから続く地脈が影響を受けるようになるわけです。

 どんな風に悪化するかですか? そう、ですね……一番軽いもので、軽く数百年はその土地近辺には何も育たなくなる。とっいった感じですね。

 一番酷いものでは致死性の毒沼が湧き出す土地になります。

 ……まあ、そんなわけで移動するにしても準備も少しかかりますが、今この場にある地脈に近い物を交換しなければならないってことなんですよ。

 ちなみに入れ替えるための土地自体は街の近くにあったので問題はありませんよ?

 しかもそこに大量のライトアップを植えておけば浄化作用が働いて、地脈の瘴気にも良い効果が見られるかも知れませんし。

 ……で、どうしますか?

 言いかたは酷いかも知れませんが、瘴魔ぐらいならばこの旅館の浄化作用で何とかなると思いますよ? けれど、戦争が始まれば……瘴魔だけが襲い掛かってくるわけではないでしょう。

 それに、戦闘に長けたチュー族の皆さんがあの街の近くに居てくれたら街の人たちも安心すると思いますよ?

 ……はい、言いかたは酷いかも知れませんね。けど、アタシとしてはそう言わせていただきます。

 ――ありがとうございます。それでは準備に入らせていただきますね。

 準備が出来たら後はほぼ一瞬ですから、それまではこの土地からは出ないようにしてください。

 サリーもフォードも良いですか?


 それでは、またあとで――。


 ◆


 サリーさんたちが出かけてから、半日ほどが経過し……わたしは治療院の椅子に腰を下ろしながら、黒融病の患者たちの診察結果を紙に書いていました。

 昨日は大勢の人たちが楽しく笑い、幸せそうに久しぶりの甘味を味わい夜を過ごしました。

 そして、サリーたちを見送ってから診察を開始して、半日が経過したけれど……殆どの患者に見られていた黒融病の症状が無くなっており、薄っすらと黒く見えるぐらいとなっていました。

 しかも何があったのかは知りませんが……、死を覚悟しなければならないほどに黒くなってしまっていた重症の黒融病患者たちも、軽く……とは言いませんが人間らしい肌の色を持つようになっていました。

 ……その際、何とか喋れる患者に聞いた話だと……、ピョン族らしき少女に何か飲まされたと言っていました。

 もしかして……スペースさんが何かを?

 けど、彼女は昨日はサリーさんたちと一緒に居ましたし……、まさか他にも居る……とか? ま、まさかぁ……?

 そう思っていると――、


「ちょ、ちょっとちょっと! シバ、たいへんよシバ!!」

「そんなに慌てて、どうしたの? と言うよりも、今日の診察結果は書いたの?」

「うっ……ま、まだだけど……それよりも外! 外が大変なの!!」


 突然慌てながら同僚の1人が部屋に飛び込んできて、引っ張るようにしてわたしをある窓の近くへと連れて行った。

 その窓は街の外を見渡すのに便利……というよりも、ゴミゴミとした街並みを見るよりも遠くを見るために用意された窓であった。


「ほら、あそこあそこ!」


 その窓から、同僚が指差す方向を見ると……わたしも唖然とした。

 何故なら、わたしが見ている方向では大きく円形に土地が区切られており、その土地の上に大量の木が植えられていたのですから。

 それもただの木ではなく、わたしたちをこの地獄から救ってくれた果実をつける木であった。


「こ、これは……林?」

「というよりも、森に見えるわよね――って、そういうことじゃなくって!」

「そ、そうよね? ……けど、いったい何が……?」


 驚きながら見ていると、林の中にピョコンと動く2つの長い耳が見えた気がしましたが……遠すぎるため気のせい、だったかも知れませんね。

 そう思いながら、唖然としつつ見ていると……区切られた範囲に植えられていた木がぐんぐんと成長して行ったらしく、凄く密集しているのが見えました……。

 けど、そのままジッと見続けていても何も変わるわけではないので、そろそろ仕事に戻らないといけない。


「さ、そろそろ診察結果を書くことにしましょうか」

「は……はーい」


 眉を寄せる同僚にそう言い聞かせると、わたしも部屋へと戻り診察記録を書く続きを始めました。

 そして、陽が落ち……夜に差し込もうとした辺りで、まるで朝のように明るい光が街へと差し込まれました。


「っ!? な、なにっ!?」

「ふぇあ――? シバ、どうしたの?」

「何か今眩い光が――って、貴女……眠らずにちゃんと書類を書きなさいってば……」

「えっ!? お、起きてる。おきてたよ?」

「……頬に、インクが付いてますよ?」

「マジでっ!? うわー……、黙っといてよー!」


 頬にインクの染みが付いた同僚に軽く溜息を吐き、何があったのかを語り始めることにした。

 とは言っても、部屋に居たわたしたちに分かるのは、光があったことと……部屋の窓から反対側、つまりはあの林で何かがあったのだろうと言うことだ。

 わたしは驚きつつも、窓へと進んでいく。

 そして、わたしたちが見た物。

 それは、林ではなく……見たことも無い建物でした。

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