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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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サリーの3日間・前編

サリー視点です。

娘ちゃんは何時の間にか寝ちゃってたみたいですね。

 これは、チュー族の村で行商人を待つ3日間をワタシことサリーが見聞きしたものを書いたものです。

 正直な話、この3日間はある意味濃密すぎて、忘れたくても忘れられないような3日間だと始めに言わせていただきます。

 というか……師匠にも苦手な物があったんですね。

 そう、あれは師匠がこの村に住むゆうしゃドブに会いに行った日の夜のことです。


 師匠がまだ戻っていませんでしたが、ワタシたちはスナ族長主体の元ささやかながら楽しい宴会を行っていました。

 楽しそうに笑いながら、ココナの果汁を発酵させて作ったお酒のココナッシュを飲んでいました。ワタシとフォード君はパイナの実を絞ったジュースを飲みつつ、獣人にとって家庭の味であるマッキーを食べていました。

 少し酸っぱいけど、濃厚な甘さが癖になるジュースなので、正直何杯でも行けますね。

 ちなみにフォード君は未成年だからお酒は駄目です。あと2年ほど待ちましょうね。ワタシのほうはボルフ小父さんが絶対に飲むなと釘を刺されています。

 何ででしょうね? ワタシが初めてお酒を飲んだ夜の記憶が無いんですけど、小父さんはワタシを見て怯えていたのは気になります。

 そう思っていると、大分テンションが乗ってきたスナ族長がココナッシュが入ったココナの実で作った杯を持った手をフォード君に向けました。


「よし、フォード! 行商人が来るまで我がお前を鍛えてやる!」

「えっ!? ちょ、なんでそんなことになってるわけぇ!?」

「今聞いた話だとボルフの奴がお前を気にかけてるらしいじゃねぇか! だったら、見込みがあるってことだから強くなるための手助けをしてやろうってんだよ!」

「サ、サリーさん、助けてください!」

「うーん……。頑張ってねフォード君」


 そんなぁって、ちょっと情けない声を上げながらフォード君は翌日から行われるスナ族長の特訓に泣き声を上げていたわ。

 それを見てクスクスと笑ってから、スナ族長からワタシの知らなかった母さんのお話を聞きました。人間の村で一緒に暮らしていたころは、ニコニコと微笑んでとても優しかった母さんだったけど獣人の国で暮らしていたころはそんな伝説を作っていたなんて……。

 知らなかった母さんの新しい一面を感じながら、昔を懐かしんでいると飛び込むようにして師匠が帰ってきました。


「よぉ、その様子だとドブには会ったけど変なことを言われた口か?」

「……まあ、そんなところ。というか、もう絶対に関わりたくないあれには……」

「え、っと師匠。お疲れ様です? 良かったらこれをどうぞ」

「ありがと。とりあえず、あれにはあんたらも関わるべきじゃないわ……いろいろともう手遅れだったから」


 ウンザリとした表情で師匠はそう言って、パイナのジュースに口を付けてから山盛りに置かれたマッキーを食べました。最初に一口食べて気に入ったのか、黙々と食べています。

 ちなみにマッキーはマイスの実を粉々に砕いて粉上にした物を水で溶いて、熱湯茹る鍋の上に布を敷いた上で薄く引き延ばして蒸し上げた薄い皮に野菜と池エビを茹でた物や肉を焼いた物を巻いたものです。それを独特のすっぱ辛いソースに付けて食べると、味が落ち着いて以外に腹持ちが良かったりします。

 ある程度食べ終えると、師匠は満足したのか先に寝ると言って寝室へと向かいました。

 ワタシもフォード君ももう少し色んな話をしてから寝ようと考えながら、話の花を咲かせていました。

 でも、少しだけ身体が汗臭かったりするから、明日にでもハツカさんに身体を洗う場所が無いか聞いてみるべきだと思いました。


 翌朝、目が覚めると師匠が何か白色と水色の2色の布のような物……下着みたいな物を持って、それを燃やしているのが見えました。

 そのときに声をかけると、多分気のせいと言い張ったので気のせいにしておこうと考えましたが……少しだけ気になりますね。あと、気のせいだと思うんですけど……ワタシの替えの下着が1枚減ってる気がしたのは気のせいでしょうか?

 そのあとは、ハツカさんに身体を洗う場所が無いかを聞くと、村の敷地内の隅の隅にある小高い丘へと連れて行ってもらい、そこには温かい湧き水が流れていて自分たちチュー族はここで身体を清めていると言っていたのでワタシもそうさせてもらいました。


 温かい湧き水のある場所は藁で作られた生垣で囲むようにされていて、中に入るには簡単に作られた小屋を通るようになっていて、小屋の中で着替えを行うようになっているようです。

 ワタシが入るついでとして、ハツカさんも入るらしく着ていた服を脱いでました。

 ハツカさんの服は長い一枚の布の真ん中に開いた穴に頭から被って、腰辺りで紐を巻くといったつくりなので、本当に簡単に脱いでいました。でも、下着ぐらいは穿いたほうが良いのではと思ったけど……獣人の国ではあまり下着が広まっていないことを思い出し、口にするのはやめておきました。


「スナ族長から聞いたベリアも胸がでかいと聞いていたが、娘のサリー殿も大層な物を持っているな」

「な、何か女性同士でもそんな風に言われると恥かしいですね……でも、ハツカさんも大きいじゃないですか」

「そう謙遜をするな。さあ、早く服を脱いで身体を清めようではないか」

「はぁ……そうですか。……よし、準備完了。お待たせしましたハツカさん」

「うむ、では入ろうか」


 そう言ってハツカさんが湧き水側の扉を開けると、人が10人以上入っても十分な広さの泉が目の前に広がっていました。

 そしてその泉からはホカホカとした湯気が上がっています。

 意気揚々と歩いて行くハツカさんに続いて、ワタシも泉に足を入れるとほんわかとした温かさが伝わって……少し深い場所まで向かってから、身体を沈めました。

 なんでしょうか……この、身体の芯から温まるような、ホッとするような感じは……。

 一応、王都のほうでも家庭用にお風呂はありますけど、準備が手間取るというのにぬるくなるのが早くて冬場は寒いんですよね。でも、街の蒸し風呂は耳と尻尾がばれるので行く気が起きません。

 そう思いながら、泉に肩まで深く沈めるとワタシの口からは無意識にふぁああぁ……と気持ちが良い声が漏れ出しました。


「これは……良い場所ですね」

「そうだろう。この泉は疲れた者を癒してくれて、傷付いた者の治癒力を上げてくれるのだ」

「それは……いいですねぇ~~……」

「あとでアリス様やフォード殿にも勧めてみてはどうだろうか?」

「そうしてみましゅ~……」


 多分頭の耳がヘニョンとしているのを感じながら、ワタシは汗を落としました。

 そして十分に温まって、泉から上がり小屋の扉を開けると幻覚を見たんです。

 というか、普通に幻覚ですよね? そんなのが居たら笑えないですもの。

 だって――顔にパンツを被って、多分ワタシの胸元を締める帯を首に巻きつけているチュー族の太った男性がいるわけないんですから……。

 疲れているのかなと思いつつ、一度扉を閉めてからもう一度開けるとそこには誰も居ませんでした。


「どうしたんだ、サリー殿?」

「いえ、たぶん……気のせいです。というか、疲れてるんでしょうか、ワタシ……」

「そうか? だったら、早く休むべきだと思う」

「はい、そうします……」


 そう言って、着替えようとしたんですけどついさっきまでワタシが着ていた下着が無くなっていました。

 ほ、本当に幻覚……ですよね?

パイナの実 → パイナップルのような果実

マイスの実 → 炊けばふっくらする粒々の実だけど、味が薄いから獣人の国ではマッキーにしたり、麺にして食べるのが主流。

マッキー → 説明の通りです。

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