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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
489/496

事情説明(S&F)

サリー視点です。

「そして女性は自らをアリスと名乗り、脱衣所を発展させ……我らへとこのリョカン、なる建物を用意して見たことも無い食べ物も分けてくれたのだ」


 そう言い終えて、ハツカさんはワタシたちを見ます。

 ですが、ワタシたちは唖然としつつも……ギギギッと首を動かし、人型へと戻ったスペースちゃんを見ました。


「あの、スペースちゃん……ちょっと宜しいでしょうか?」

「何でしょうか、サリー殿? そして、フォード殿。我は武器ですが、今の見た目は少女ですから、そのようにガシッと肩の上に手を置いて拘束していては変質者のように思われますよ?」

「んなことはどうでも良いんだよ。と言うよりもオレたちが聞きたいのは……」

「師匠がこのことを黙っていたということです」


 ワタシたちがそう言うと、スペースちゃんは軽く溜息を吐きました。

 いや、溜息を吐きたいのはワタシたちのほうですよ!

 そして、静かに目を閉じ……ゆっくりと瞳を開けました。

 その瞬間、スペースちゃんの瞳の色は紅から碧へと変わりました。


「スペース? いきなり交代してくれってどういうことよ? って、サリー? それに……何でスペースを拘束しているのフォードは……」

「……師匠、ですか?」

「そうですよ? それで、いったいどうしたのですか?」


 スペースちゃんの口から聞こえる師匠の声に違和感を感じつつも、不思議そうにワタシたちを見る師匠へと……空気を読まないフォードくんが口を開きました。


「見た目はスペースなのに、喋りかたが完全にアリスだ……。何か気色悪い」

「気色悪いって何ですか気色悪いって? 後で痛い目を見せますよ? もしくは、アルトに頼んでフォードくんの衣装は肉って額に書かれたマスクと赤いパンツという井出達にしてもらいますよ?」

「何か凄く嫌な報復だっ!! 悪かった、オレが悪かった!!」

「……それで、師匠。これはいったいどういうことですか?」

「これ? …………あ、ス、スナさんとハツカさん……。ふ、ふつかぶりですねー……」


 ワタシがスナさんたちを見ると、釣られるように師匠も振り向き……2人に気づくと、汗を流しながら片手を挙げました。

 一方、2人も2人で戸惑いつつも師匠へと頭を下げていました。

 そして……片手を挙げたままの師匠をジーッと、ジーーーーッと見ていると……支障は観念したように溜息を吐いた。


「ええ、話します。話しますよ。あのとき、魚人の国で3時間留守にしていたじゃないですか」

「はい、覚えています。師匠がマイマイと呟いていたから特に……」

「それで、目的は向こうの聖地に生息するミスリルマイマイの乱獲だったんですよね。そこでは瘴気の影響かマイマイたちは変な異常進化を遂げていて、凶暴性とか腐食性とかかなりやばいことになっていたんです。

 まあその分、神気を込めた強烈な浄化の光を叩きつけて倒したら、手に入った鉱物は良質な物が多かったのですが……」


 ああ、それがハツカさんの話しにあった巨大な光……ですね、きっと。

 そう思っていると師匠は更に話を続けます。


「それで帰ろうかなーって、思ったんですけど……チュー族の集落が近くにあるじゃないですか? けど、サリーたちが行くだろうって分かってたので行かないでおこうかと思ってたのですが、遠目からでも様子をって思ってみたら……集落崩壊してるじゃないですか。

 当然、驚きますよね? ね?!」


 同意を求めるように師匠はワタシたちを見ます。

 その迫力に負けて、ワタシはつい頷きました。


「けど、温泉のほうに人がいっぱい居るじゃないですか。そしたら普通に見に行きますよね!? ね!!

 で、見に行ったら、集落に居たチュー族の人が生き残ってて、良く見ると近隣の集落の人たちも居る。だけど食料がもう尽きている上に、雑魚寝状態。

 だったら手を貸すに決まってるじゃないですか!」

「え、えっと……そ、それで……その結果が、これ……ですか?」

「そうです。脱衣所と覗き防止の衝立のみだった露天風呂状態に余っていた(世界樹の)木材と金属を使って、人が住むのに適した旅館を造ったわけですよ! ちなみに食べ物はライトアップと翼人の島で回収した物を大量に分けました」

「……えっと、そんな普通よりも遥かにグレードが高い住処となった状態の場所に、ワタシたちがやって来た……と言うわけですか?」


 ワタシが問い掛けると、師匠は首を縦に振って肯定しました。

 まるで自分は悪くない。そんな様子です。

 ……ええ、悪くはありません……。悪くはありませんが……。


「師匠……、出来ればこういうことをしたのならば、ワタシたちにも教えていただけないでしょうか?」

「え、ええ……と、その……サリーたちも結局見に行くのだから……言わなくても良いと思って……」

「出来れば言って欲しかったです! だって、叔父さんだけでなく……知り合いが亡くなっているのを知らないでいたくは無いです……」

「サリー……。そう、ですね……すみませんでした」


 大声を上げたワタシに驚いた様子の師匠ですが……すぐに、ワタシを見て謝ってきました。

 同時に、ワタシの言葉に反応したのは……スナ族長でした。


「サリーちゃん、今の言いかただと……ハスキーの奴が亡くなったように聞こえるんだけど、気のせいだろう?」

「……いえ、本当……です」


 そう言って、ワタシはスナ族長にハスキー叔父さんのことを話します。……しばらく振りだったので、さん付けしていましたけれど族長でしたよね。

 それを聞いていたスナ族長ですが……、表情を暗くして……。


「馬鹿野郎が、嫁を作ったくせに置いていくなんて……馬鹿野郎だ」


 涙を流しながら、空の上のハスキー叔父さんを叱り飛ばしました。

 そんなスナ族長を見ていると、ワタシも泣きたくなりましたが……何とか堪えます。

 同時に、その悲しい気持ちを紛らわせるために……ワタシはこの国がこうなった原因を語り始め、その原因の中にドブが居ることも告げました。


「………………サリー殿、フォード殿、そしてアリス殿……もし、もしドブに会ったときは、容赦なく斬ってやってくれ。もうアレはやりすぎたのだ……」


 鬼気迫る勢いで、スナ族長とハツカさんは呻くように言い。

 師匠は……。


「あー……はい」


 微妙そうな表情で返事を返しました。

 ちなみにワタシたちは何とも言えませんでした。

 そして、しばらく微妙な空気が流れ続けたころ……師匠が口を開きました。


「それで、あと数日で邪族が周囲の国に戦争を仕掛けると言う話なのですが……、人間の国に近いこの場所は危険なんですよね」

「……そうだな。場所が場所であるし、な……。だが、アリスが造ったこのリョカンを放って行くというのも勿体無いと思うのだが」


 そうスナ族長が言った瞬間、嫌な予感を感じました。

 主に、師匠が何かするって意味での。


「でしたら、冒険者ギルドがある街近くに温泉の土地ごと移しますか?」


 瞬間――、残念な物を見るような表情で、ワタシたちは師匠を見ていました。

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