見慣れぬ建物(S&F)
視点はサリーです。
かつてチュー族の集落があった土地、その近くの小高い丘の上には温泉と呼ばれる温かい水が湧き出る泉がありました。
その場所のことを思い出しながら、ワタシたちは荷馬車から降りてそこへと歩きます。
そして、その場所に辿り着いたとき、ワタシとフォードくんは……唖然としていました。
何故なら……。
「えっと、ここって……簡単な小屋と柵しかなかった……ですよね?」
「は、はい……一度スナ族長に連れられて入ったので、覚えています」
「じゃ、じゃあ……この建物は……?」
そう、今そこには……見たことも無い建物が立てられていたのです。
人間の国でも、この国でも、ましてや魚人の国でも見たことが無い形式の建物。
具体的に言うならば、こう……温泉を囲むようにして2階建ての建物となっているのですが、温泉には必ずこんな建物。と言って頷いてしまう。
そんな印象を抱かせるような建物でした。
そんな初めて見る建物の前に立っていると……、視線を感じ、その方向を見ると入口だと思われる場所からチュー族、ニャー族、グル族の子供が見ていました。
……え? チュ、チュー族の子は分かりますが……他の種族の子って?
驚きつつも、ワタシは子供たちへと声をかけてみることにしました。
「あ、あの、きみた――――」
「「「――ッ!!?」」」
「あ…………」
恐る恐る声をかけた結果、子供たちはピンと尻尾を立てて急いで建物の中へと入って行きました。
そんな子供たちをワタシたちは呆然と見送っていましたが……。
「サ、サリーさんっ! お、追いかけないとっ!!」
「そ――そうですねっ!!」
フォードくんの言葉にハッとして、急いで子供たちを追いかけるために建物の扉を開けました!
ちなみに前に押したり後ろに引いたりする扉ではなく、横に引いて開く扉でしたが……気が動転しているワタシたちは気づく余裕がありませんでした。
建物の中は見た目と違い、ある程度の広さを持って居るらしいうえに床は普通に板張りなのですが……、よく見かける板張りの床には何かが塗られているのかツルツルとしていました。
そして、この場所が建物の玄関であると言うのが何となく分かりましたが、兎に角子供たちを追って事情を聞かないといけないと考えながら、建物の中へと足を踏み入れました。
ちなみに玄関の両側には何か棚のような物がありましたが……気にしないでおきましょう。
キィキィと歩くたびに床が軋んでいるのか、鳴き声のような物が聞こえつつ……静かな廊下をワタシたちは歩いていました。
どの部屋からも人の気配が微かにあるように感じますが……、ガッチリと扉が閉まっているのか押しても引いても開きません。
いったい……ここはどうなっているのでしょうか?
しばらく歩いていくと、奥の部屋へと辿り着き……そこからは扉越しでも分かる強烈な威圧感を感じました。
「……サ、サリーさん……」
「フォードくん……分かっています。……そこの部屋に、強大な何かが……居ますね」
フォードくんと顔を見合わせ、ワタシは恐る恐る……フォードくんと共に扉へと手をかけます。
そして、覚悟を決め……一気に扉を引きました!
――ダァンッ!! と激しい音を立て、扉は開かれ中に居た者がこちらに視線を向けました。
「な、なんだぁっ!? ――って」
「は……はあ?!」
「え、ス……スナさん?」
驚きながらこちらを見た人物、チュー族の族長であるスナさんが驚いた顔でワタシたちを見つめ、ワタシたちも驚いた顔でスナさんを見ていました。
そして、ワタシたちが進んできた方向とは逆のほうからドタドタと駆ける音が聞こえ……。
「族長! この子供たちが不審な者たちが建物の入口に居たと報告が――って、サ、サリー殿!?」
「ハツカさんっ!」
「あ、この子供たちはっ!」
槍を片手に現れたハツカさんと彼女の後ろに隠れた3人の子供たちが姿を現し、ワタシたちは再び驚きました。
……が、ハツカさんが険しい顔でワタシたちを見始めました。……いえ、正確に言うとワタシたちの足を見て……ですね。
「サ、サリー殿、フォード殿……久方振りの再会を嬉しく思う。思うのだが…………入口で靴を脱いでから入って欲しいっ!! 見ろッ! 床が泥だらけではないかっ!!」
「え、え、え?」
「ど、どういう……ことだ……?」
カンカンに怒るハツカさんがどうして怒っているのか理解出来ないワタシたちは目が点になります。
そして、そんなワタシたちへと苦笑しながら、奥の部屋で座っていたスナ族長が助け舟を出してきました。
「あー……ハツカ、2人とも絶対に理解出来ていないからちゃんと説明をしたほうが良いぜ。あと、2人とも今からでも遅くないから靴は脱いでくれねーか?」
「「あ、はい……」」
心抜けたような返事を返しながら、ワタシたちは靴を脱ぎ……そのまま怒り心頭のハツカさんと共に玄関のほうへと歩きました。
そして、入口の両側に設置されていた棚へと靴を置くように指示され、ワタシたちは靴を置くと……差し出された布と水が入ったバケツを差し出され……。
「お二人とも、自分たちが汚したのですから……掃除をするのは当たり前ですよね?」
「「……はい」」
ハツカさんの言葉に頷き、ワタシたちは自分たちが汚した床を渡された布を濡らして拭き始めました……。
……そして、ある程度時間が経ち、掃除が終わると改めてスナさんの居た部屋へと案内されました。
「ごうろうさん2人とも。……で、突然どうしたんだ? アリスに聞いた話だと――「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」――ん?」
聞き慣れた名前に、ワタシはスナさんが話をしようとしているところを中断させました。
アリス? アリスって言いましたよね今!!
「あ、あの……スナさん。師匠が来たのは、何時……ですか?」
「何時って、……2日前、だな。突然、聖地のほうが光ってるのが見えたら、いきなりやって来てな。軽く話をして温泉を強化していった」
そう言って、スナさんはワタシたちにそのときの話を語り始めました……。
ここ最近、たまにですが別作品を投稿していますので、良かったら見てみてください。