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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
484/496

周りに絶望した者たちの末路

幕間的なものです。

 この門を潜れば、俺たちは……幸せになれる。

 そう思いながら……、幸せになれる未来を抱きながら俺たちは邪族と名乗った奴らが用意したと思われる門へと踏み出した。


 ……男が居た。……女が居た。

 そこは……獣人の国であったり、魚人の国であったり、魔族の国であったり、森の国であったりした。

 様々な人種であるが……彼らには共通することがあった。


 ある男は罵られ、ある女は馬鹿にされた。

 ある獣人の男は足の速い種族であるというのに……足が遅いことを馬鹿にされた。

 ある魚人の女は歌が上手い人魚のような種族で……しゃがれた声しか出せないことを馬鹿にされた。

 ある魔族の少年は、父親が村で罪を犯したために子供も同罪という風に罵られ、石を投げつけられた。

 ある妖精は、魔物に翅を千切られたため空を飛べなくなったが……仲間たちに飛べないことを馬鹿にされた。

 あるエルフはエルフであるというのに、ずんぐりムックリの生まれついての体型だというのに仲間に自分を否定された。

 ある獣人の女は愛する者を失い失意に堕ちていた。それなのに、それを知る男に心と身体を汚された。

 ある魚人の男は子供とともに出た漁で、事故に遭い子供を失った。


 彼らは憎んだ。

 世界を、仲間を、種族を……。

 生きとし、生ける者たちを……。


 そんな中、空に邪族を名乗る女が全ての種族に宣戦布告をした。

 その言葉を、村人……住民、全ての者たちがふざけるなと空に向けて罵声を放っていた。

 だが、全てを憎む彼らにはその言葉は届くことは無かった。

 ……しかし、女が最後に言った仲間への誘い……。それは彼らの耳に残り続けていた。

 そして、気づけば彼らは空から落ちてきた門へと駆け出していたのだ。

 ある街では一部の勢力が《土壁》で蔽ったりしていたらしいが、空から降ってきた門は数は多くその勢力が気づかない物も多く含まれていた。

 それらの門の前に、男は……女は立ち、この地獄のような生活を終わるべく……門を潜ったのだった。


 ズブリ、と身体中に纏わりつく泥のような感覚が潜った者の身体を襲う。

 ドロドロとした、この世の毒とでもいうべき何かが口を伝い……身体の内と外に侵食していく。

 焼け付くように熱く、凍てつくように寒い……そんな感じに身体が感じ、死に掛けそうになった瞬間――彼らの身体は門から吐き出されるように外へと押し出された。


 そこは、黒い空に覆われた街だった。

 歩く者たちは何処を見ているわけでもない瞳で、フラフラと街を歩き続け……。

 身体の所々には、光も通さないような黒い珠が生えていた。

 きっと彼らにはまともな精神は無いだろう。

 そして、中央広場であろうこの場所には巨大な門が置かれており、そこには自分以外には黒い塊が居るだけだった。

 そんなふうに門を抜けた彼らが思っていると、空に映し出されていた邪族を名乗る女が気味の悪い獣人を引き連れてやって来た。


「ようこそ、邪族の楽園へー♪ 邪神様に仕えるマーリアちゃんがアナタたちを歓迎するわー!

 この国に来たということは邪族となる覚悟があると言うことよね?

 もしそうじゃなくっても、この門を通った時点でアナタたちはもう邪族なの、だからマーリアちゃんたちの命令は絶対よー!」


 楽しそうに笑う女へと、門を潜った男は問い掛ける。

 自分たちはこれで幸せになることが出来るのかと。


『ウア――ああ、あああ…………?! ア”ッ!?』


 声が、出ない。まともな声が……。

 いったい、どういうことなのか。そう思いながら、男は混乱した。……が、男のまともでない声を皮切りに黒い塊たちが声を出し始めた。

 どの声も、男と同じような声であり……悲痛に満ちた声ばかりが周囲に木霊した。

 その声にならない声を聞いた瞬間、男は――女は、理解した。

 黒い塊、それは自分と同じ人間だった者たちなのだと……。


『ア”ア”ア”……!!』


 どうしてだ? 自分たちは幸せになれる。幸せになれると思ったのに。そう思いながら黒い塊たちは嗚咽を漏らすように叫ぶ。

 その声を聞きながらマーリアは笑みを浮かべる。


「幸せになれるって思ったの? そんな訳無いじゃない♪

 アナタたちはね、マーリアちゃんたち邪族のための奴隷なの。

 だから、アナタたちはマーリアちゃんたちのために働いてもらうわよー?」


 口が裂けるほどに歪んだ笑みを彼らに向けつつ、マーリアは微笑む。

 その笑みを目に焼き付けながら、彼らは絶望に心を溺れさせたまま……自我を消失させていった。


 ◆


 悲鳴染みた声を出さなくなった元がどの種族か分からない黒い塊を見ながら、マーリアは笑みを浮かべる。


「ほんとー、周りに絶望した者とか、欲に塗れた奴らって騙され易いわよねー♪」

「ブヒィ! そうでありますな、マーリア様ァァァッ!!」

「……本当、何でアンタはこうならないのか不思議で仕方ないわ……」

「ブヒヒッ、これもひとえに萌えの力でござる! ブヒィッ!!」


 汚らしい笑みを浮かべる豚……じゃなかった、ドブを見ながらマーリアは蔑んだ視線を向けるが、その視線も堪らなく心地良いのかドブはグネグネと身体をくねらせる。

 ……そんなドブを視線から外し、マーリアは懐から黒い仮面を門から現れた黒い塊と同じ枚数取り出した。

 それを投げつけて、黒い塊に貼り付けていくと……黒い塊に変化が起きた。

 黒い塊は徐々に人の形を取り戻し始め、最終的に同一の大きさの形へとなり……ただ人形のようにボーっと立っていた。

 これらは見る者が見たら分かるだろうが、ポーク将軍の街を襲いかかった黒い軍勢と同じものであった。

 そして、出来上がったそれらを満足そうに見つめると、マーリアはドブへと命令する。


「さ、ドブ。こいつらを倉庫のほうに連れて行きなさい」

「ブヒッ! 了解したでござるよぉ!!」


 そう言って、ドブは黒い軍勢を歩かせ、その場から立ち去って行った。

 そして、その場に一人になったマーリアは笑みを浮かべる。


「あぁ、早く戦争が起きないかしらー♪ 本当、楽しみだわー。マーリアちゃんのために動いてくれる黒い軍勢たちが、他種族を蹂躙する様を見るのが……♪」


 楽しそうに笑いながら、マーリアはまた門を潜ってやって来る駒を今か今かと待ち続けるのだった。

甘い話なんてあるはずがないってことですが、不幸な者には不幸しか待っていないとか……。

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