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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
472/496

スペースアタック(S&F)

視点は、スペードエースです。

「これで3本目。ますたー、あと2本ですが……今のところ効果はあるようです」

『ええ、アナタの目を通してアタシも見えているから、分かっているわ。……けど、魔族の村で見たことがあった瘴気が体内に蓄積される症状って、こうなるんですねー……』


 我の目を通して、獣人の街を見るますたーが呆れながら呟いているのが聞こえる。

 ……ついさっきまでは、我が生まれる前にこの街で世話になっていたというハスキー殿が死んだことに涙を流していたのに、変わり身が早いと思うが……我は知っている。

 きっとサリー殿のほうが悲しいはずだから、自分が悲しんでいたらいけない。そう考えたに違いないと……。

 ああ、本当にますたーは心優しいお方だ……。

 そんなますたーの元に武器として生まれた我……いや、我らは凄く幸せ者である。


「これで4本目です。ます――瘴気に汚染された魔物が近づいてくるようですね。……無粋な」


 地面に種を埋め、次の場所へと向かおうとする我だったが……近づいてくる存在に気づいた。

 地上を4体、空を……5体。

 強化した瞳で唸り声を上げながら地上を突進する猪型の瘴気に汚染された魔物。空には、鷲といった見た目をした真っ黒い魔物。


『長ったらしいので、アタシたちの間では……瘴魔(しょうま)とでも呼びましょうか?」

「それはいい考えですね、ますたー。それでは、一の太刀――スペードエース。瘴魔の撃退に参ります!!」

『頑張ってくださいね、スペース』


 ますたーの声援にやる気を出した我は、背中に背負っていた大剣を構えると一気に突進する猪瘴魔へと踏み込んだ。

 その一方で、近づいてくる瘴魔の存在に気づいたであろう衛兵が少し遅れて鐘を鳴らし始めるのが聞こえたが……多分、我が跳んできたときに呆気にとられていたのだろう。

 そう思いつつ、ほぼ一足で瘴魔との距離を縮めると……薙ぐように大剣を振るった。

 朱金色の光を纏った剣は、我が振るうとその光を放つようにして接近していた猪瘴魔の身体を切り裂いていった。

 そして、大剣を振るうと瘴魔の胴体を斬りつけた光はひと際大きく光、何が起きたのか分からないまま突進していた瘴魔は存在を消滅させた。

 その光景は、遠見のために望遠鏡を覗いていたであろう兵士と空を飛んでいた鷲瘴魔を動揺させる結果となった。


「まずは地上を殲滅完了。一番近いのは空ですが……、地上へと更に追加戦力の反応を確認」


 言いながら、脚に力を込めて一気に跳び上がると我は大剣を振り被り、自身の上空に影が生まれたのに気づいた鷲瘴魔の身体を真っ二つに斬り落とした。

 普通ならば、このまま斬りおとして地上へと自由落下するはず。そしてそれを見逃さずに鷲瘴魔たちは気を持ち直して一気に滑空しながら我へと突撃するだろう。だが……。


『『『PYUUUUUUUUUUUUUUUUUYYYYYY!!!』』』

「その考えは愚か過ぎる。ますたーの一の太刀である我が、そんなミスをするわけがないだろう?」


 呟くようにそう言うと、我は真っ二つにされて消え行く鷲瘴魔を踏み台にし再び空へと舞い戻った。

 その行動は、奴らには予想出来ていなかったらしく、信じられないとばかりに鳴く声が聞こえたけれどその声を無視し、我は身体を捻り、一気にその場で大剣を振り回した。

 振り回した大剣はブオンと音を立て、一気に集まっていた鷲瘴魔を一気に斬りおとしていき、落下しながら煙となって消えていくを我は見ていたが、すぐにそれを視界から外すと地上を見た。

 真っ黒い熊型の瘴魔が2頭地響きを上げながら近づいてくるのが見えた。


「モ、モンスベアー……モンスベアーだっ!!」

「モンスベアーだとっ!? 何でこんな所に来てるんだ!?」


 望遠鏡で地上を見ていた衛兵がその姿に気づき、恐怖を込めた声で叫び……その声に信じられないとばかりに別の衛兵が声を上げているのが聞こえる。

 ……初めて聞く名前だけれど、きっと厄介な魔物なのだろう。……で、それが瘴気を受けて瘴魔へと変貌を遂げたと。

 我やますたー、そして我が同胞でなければきっと苦戦を……いや、死ぬことは間違いなしな状況であろうことは何となくだが分かった。

 仕方ない、速くますたーに依頼された任務に就きたいのだが……無視するのもダメだろうし、やるとしよう。

 そう判断すると、我は落下していく身体を動かし――宙を駆けた。

 一歩、二歩、三歩!!

 跳ねるようにして、宙を舞うようにして跳び……最後に自身を弾丸とするようにして、宙で脚を踏みしめると一気に熊瘴魔に向けて飛び出した!

 対する熊瘴魔は情報を共有しているのか、空から一気に落ちてくる我の存在に気づき、丸太のように太い腕を両手で交差して攻撃を防ごうとしていた。


「たかが腕を交差しただけで、我の剣を止められると思っているのかっ!!」

『GAAAAA!!』


 だが、我の振り下ろした剣は熊瘴魔の腕を断ち切ることが出来ず、半ば辺りで肉と骨によって挟まったらしく動かなくなった。


「――くっ!? 踏み込みが足りなかったというのか!!」


 不甲斐ない、不甲斐無さ過ぎるではないか……!! ますたーであれば片手でも真っ二つに出来るはずだというのに……!!

 そして、動けない我へともう一体の熊瘴魔が腕を振り上げて襲い掛かってきたではないか!


「仕方ない……、ギミックを使わずに倒したかったが無理だったか……次の課題としようか!」

『GA!? GUUUURRUUUUAAAAAAAAAAAA!?』


 叫ぶと、我は握り締めた大剣の特性(・・)を変化させた。すると我が本体である大剣はその刀身を変化させ――鋸のようにギザギザとした刃を出現させた。

 そして、その刃は刀身の周りを自走し始め……血飛沫を上げながら、熊瘴魔の腕をズタズタにしながら斬り落とした。

 出来るはずが無いと思っていたであろう熊瘴魔から洩れる同様と痛みの声を聞きつつ、我はその勢いのまま襲い掛かってきたもう1体の胴体へと刀身を振るう。

 迫り来る刀身から我が身を護ろうと熊瘴魔は先程の者と同じように腕を交差するがそんな行為は無駄である。


『GAAAAAAA!? GAAAA!? GAAA!!』

「力を出した我が刃、防ごうとするのは無駄である!! その命、散らすが良いっ!!」


 我の叫びに呼応するように、刀身の外周を奔る刃の回転は速度を増し……ブシャッと熊瘴魔の腕を斬りおとすと、そのまま断末魔の悲鳴を上げること無く胴体までも斬り落とした。

 斬られた胴体は噴水のように血を噴出し、生身の人間であれば一瞬で重度の瘴気汚染を受けて身体が融けるだろうが、武器である我には意味が無かった。

 返り血に濡れながら、我はそのまま大剣を振るうと怯え始めていた両腕の無い熊瘴魔の胴体を刈り取った。

 そして、その一撃を受け、瘴気で構成された瘴魔の肉体は黒い煙となって蒸発していった。


「ふう……。さて、残りの作業に戻るとしましょう」


 呟きつつ、4本目の樹が成長し始めたのを見届け、急がなければと思い我は空を駆けることにし……その場から離れ、5本目を植える場所へと向かった。


 ●


 5本目の樹が成長し始めたのを見届けると、我はますたーに連絡を開始した。


「ますたー。5本目終わりましたので、お願いします」

『ご苦労様です、スペース。では、始めましょうか……。獣人の神の許可も貰っていますし』


 頭の中へと届くますたーの声を皮切りに、街を囲むようにして植えた樹を起点に、魔方陣が形成され始め……線が全ての樹に繋がった瞬間、街の地面が光り輝くのを我は見ていた。

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