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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
471/496

彼らを見る目(S&F)

 黒い魔物の黒い血がワタシの纏う白銀の雷によってバチバチ音を立てながら蒸発する中、ワタシは貫いた黒い魔物を見ました。

 黒い魔物は、ワタシが貫いてポッカリと空いた穴からジュワジュワと黒い煙を放ちつつ、徐々に消えていくのが分かりました。

 ちなみに動かないのだろうかと聞かれた場合は、多分動かないだろうとしか言いようがありません。


「お、終わったのか……?」

「多分、終わったと思いますよ?」


 恐る恐るワタシに近づいて訊ねてきた冒険者の1人に対してワタシは答えつつ、鎖を巻き取りながら手甲へと短剣を収めて行きました。

 これに近い武器は一度見たことはありますが、それは自動で巻き取ることも発射することも出来ない……所謂男の浪漫という物を追い求めた武器だったと思います。

 まあ、自分で巻き取るとか言う馬鹿みたいなことになるという理由で即効廃れていったというのを何となく聞いた気もします。

 そんな馬鹿みたいなことを考えていると、黒い魔物は完全に煙となって蒸発し……その場には何も残っていません。

 それを見届けて、ワタシは野生化を解除し白銀の光が散るのを見ました。


「あ、消えましたね。……どうしましたか?」

「い……いや、こんな現象、初めて見たから……な」


 その光景を唖然としている冒険者へと声を掛けると、戸惑いながらワタシにそう答えます。

 ……まあ、瘴気対策なんて出来るところ事態少ないですから、こんなのを見るのは初めてでしょうね。

 けど、もしも対策がしっかりと出来ていたなら……いえ、過ぎ去ったことを考えるのはやめておきましょう。

 そう思いつつ、ワタシはフォードくんたちのいるほうへと歩き出しました。

 ちなみに置いていかれていることに気づいた冒険者も急いで後を追いかけてきます。


「お疲れ様、サリーさん」

「そっちこそお疲れ様、フォードくん」


 フォードくんに返事をしつつ、ワタシは視線を感じ……そちらを見ると、防衛に参加していた人たちがワタシたちを見ていました。

 その瞳に込められた感情はワタシたちの持っている力が自分たちにもあればという羨望であり、助かったという安堵であり、この国は救われるという希望でありました。

 ですが同時に……、この力は危険ではないかと言う恐怖、ワタシたちが助けてくれないだろうという諦めといったものも感じられます。

 そんな彼らへと如何話しかければ良いだろうかと、言葉を選ぼうとしていると――上空から何かの気配を感じました。


「ッ!? 皆さん、下がってくださいっ!!」

『『『『え?』』』』


 唖然とする彼らでしたが、上空からの気配は待ってはくれません!

 そして、それは地上へと一気に落ちてきました。

 いったい何が来たのか、そう思いつつゴクリと息を呑んでいると……。


「――お二人とも、戦いは終わったのですか?」

「え? ス、スペースちゃん?」

「はい、我です。ますたーを護りしバニーナイツが一の太刀スペードエースことスペースです」


 緊迫していたワタシでしたが、そこに現れた人物に身体が脱力するのを感じます。

 隣のフォードくんも同じ様子ですが、冒険者や兵士たちは警戒を解いていません。


「えっと、彼女はワタシたちの連れですので、心配しないでください」

「そ、そう……か、分かった」

「それで、スペースちゃん。一体全体どうしたのですか?」


 いきなり上空から落ちてきた彼女にワタシは疑問をぶつけて見ました。

 すると……。


「はい、今現在ますたーからの指示で樹を植えている最中です」

「樹……ですか?」

「はい、これで2本目ですが外周に沿うようにして植えていきます」

「は、はあ……」


 彼女の言葉に呆気に取られつつ返事をするワタシでしたが、すぐに別のことに驚くことになりました。

 突如、彼女が落ちてきた場所から土煙を破るようにして太い樹の幹が姿を現し――それは瞬く間に一本の巨大な樹へと成長しました。

 師匠のおもいでテレビでその光景を見ていましたが、生で見ると本当に違いますね。

 そう思っていると、樹から光を放つ果実が実をつけ……一気に地面へと落ちてきました。

 驚くようにしつつも、落ちてくる果実をキャッチすべくワタシや他の人たちも手に取りました。

 手に取るとフワッと果実独特の甘い匂いが鼻に届き、久しぶりの果実だからか冒険者たちは我先にと落ちていた果実を掴むと、一気にそれに噛り付きました。


「ああ……、美味い……」

「久しぶりの果実だ……」

「甘い、甘いぜ……」

「口の中が、潤うぜ……」


 髭面の男性がうっとりする光景は何処か微妙な感覚を覚えますが、彼らが言いと思うのでそれで良いでしょう。

 そう思いながら、果実を食べる冒険者を見ているワタシへとスペースちゃんが話しかけてきました。


「しばらくしたら、体内に蓄積した瘴気を吐き出すと思いますが気にしないでくださいね。そうしたら黒融病にはかかりませんから。それじゃあ我は残りを植えに行ってくる――」

「え? 瘴気が蓄積――って、スペースちゃんちゃんと説明を……行っちゃいました」


 本物のピョン族以上に跳んで行くスペースちゃんを見送っていたワタシたちでしたが、突然果実を食べていた冒険者が吐き気を感じたのかその場に跪きました。

 それを見ていた兵士たちが驚いた様子で近づきましたが……、彼らは突然……黒い何かを吐き出し始めました。

 その光景に驚くワタシたちでしたが、冒険者たちが吐き出した黒い何かは地面をのた打ち回ると最終的に霧散しました。

 ……え、っと…………これは、何ですか?

 唖然としながら消え去った黒い何かがあった地面を見ますが、既にそこには何もありません。

 そして、蹲っていた冒険者たちは……。


「お、おい、大丈夫かよ……? なあ、おい?!」

「五月蝿い……。聞こえてるっての」

「ああ、良かった無事かよ。……それで、身体は何とも無いのかよ?」


 恐る恐る兵士たちは冒険者へと尋ねた。

 すると――。


「あ、ああ……それなんだけどよ……。あの果実を食べてしばらくしたら腹の中に溜まっていたような何かが込み上げてきて、迷うこと無く吐いたんだけどよ……妙に気分が良いんだよ」


 そう冒険者は口にし、同じことを他の冒険者たちも口にして行きました。

 あののた打ち回っていた黒い何か、きっとそれが黒融病の原因だった。ということでしょう。

 そして、師匠はそれが何であるかに気づいている。

 きっと……スペースちゃんが樹を植えてることにも関係あるんでしょうね。

 そう思いながら、向こうの大地が輝く様子をワタシは見ていました。

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