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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
470/496

輝く怒り(S&F)

 ワタシは自分を取り囲む黒い魔物と相対しつつ、眠っていた野生を解放すると同時に『雷』の属性を身体に纏わせました。

 直後、ワタシの耳は黒い魔物の一頭の鳴き声を捉え、目はワタシに向けて一気に突進した黒い魔物を確認しました。

 ……この突進してくる速度は、普通ならば数度の突進までは何とか回避出きるでしょうが……最終的に刎ね飛ばされるか、はたまた生えるようにして突き刺さった杭に穿たれることでしょう……。

 そう、普通ならば……です。

 事実ワタシの目に見えるものは……、こちらを殺そうとしてゆっくりと(・・・・・)突進する黒い魔物の包囲網でした。


「……遅いですね。遅すぎて、欠伸が出そうです」


 接近してくる黒い魔物にそう言いますが、きっとワタシの声は聞こえていないでしょう。というよりも、周りの人にも呟いている声は届かない筈です。

 まあもし聞こえていたとしても何言ってるか分からないでしょうけどね。

 そう思いながら、ワタシは師匠がワタシ専用に創ってくれた武器を握り締めます。

 どういう仕組みかは分かりませんが、こちらへと駆けつけるまでに球体だった物が今は別の形を取っています。

 殴るのに適した手甲と、朱金色に輝く刀身を持った2本の赤と金の鎖が付いた短剣。

 これが、ワタシ専用に変化をした武器でした。


「新しい武器の威力……試させてもらいますよ」


 そう言って、拳を握り締めると同時にワタシに向けて突進してくる黒い魔物の1体へと、先にこちらから接近すると握り締めた拳を横殴りで放ちました。

 強化された拳がバキッという良い音を立て、殴りつけた黒い魔物が殴られた箇所から黒い煙を放ちながら横倒しになるのを見届けると、次に短剣を構え……その近くに居た別の黒い魔物へと歩くように近づくと、そのまま通りすぎるようにして眉間へと短剣を突き立てました。


『――――BWO!?』


 黒い魔物から呻くような鳴き声が聞こえた直後――、ワタシの身体が感じている時間の流れは元の時間のものへと戻りました。


『『『――BOOO!? BWOOO!?』』』


 直後、ワタシを狙っていた3体の黒い魔物たちは突進した先にワタシがいないことに驚きつつも、急に止まれることが出来ずに同じように突進していた仲間たちへと激突しているのが見えます。

 そして、ワタシが殴り飛ばした黒い魔物は少しだけ浮きながらきりもみし、地面に叩きつけられるとそのまま、身体を擦り上げて行き……。

 もう1体は眉間に短剣を刺されたまま、自分が何をされたのかを分からないまま、突進しつつ黒い煙となって掻き消えて行きました。

 その周りにとっては一瞬の出来事のようなそれに周りは呆気に取られているのか、驚くような声が聞こえます。


「え? い、いま……何が?」

「お……おい、見えたか今の攻撃……」

「いや、見えていない……見えていなかった……よな?」

「しかも、狂犬のやつ……1体は殴りつけていなかったか? あ、あの拳で戦う姿は……まるで『微笑み』じゃねぇか……」


 そんな風に、遠くに居た冒険者や兵士たちが口々にそう言います。

 ……一応、お母さんのことを覚えている人も居るみたいですね。……というよりも、その年代の冒険者は知らないほうが可笑しいって話ですよね……。

 そう思いつつ、互いが互いに激突した黒い魔物をワタシは見ましたが……その様子に眉を潜めました。

 普通、ぶつかれば倒れたりグルグル目を回したりするのが当たり前だと思うのですけど……、ワタシの目の前で黒い魔物たちはまるでスライムのように混ざり合うようにひとつの身体に纏まり始めていました。


「……この様子、まるで翼人の島で戦った瘴気が溜まった人たちや、師匠の思い出にあったものみたいですね。…………なるほど」


 ワタシは自分自身で呟いた言葉で理解しました。

 目の前の黒い魔物。それは瘴気の汚染を受けた結果であること。

 そして、獣人の国は人間の国と隣接していること。

 そう考えると、異常な何かが地面に仕込み込んでいると考えるのが正しいでしょう。


「な、何だアレはッ!?」

「ま……混ざり合ってるよな? 見てて気持ちが悪くなりそうだ……」

「違う! あっちだあっち! 何か墓のほうから凄い光が見えるんだって!!」


 観客と化していた冒険者や兵士たちの言葉に釣られて、混ざり合う黒い魔物に意識を向けつつもワタシはついさっきまで居た墓地をチラリと見ます。

 すると、彼らが言ったように眩い光が見え……その光に呼応するように段々と成長していく、樹みたいな物が見えました。

 いえ、アレはきっと樹でしょう。……スペースちゃんを通して師匠が何かをしたんですよね?

 そう思っていると、黒い魔物に新たな変化が起きたのに気が付きました。

 それはまるで溜めようとしていた何かが途切れて戸惑っているといった感じです。


「残念ですが、地中の瘴気は当てにはならないと思いますよ? だって、ワタシの師匠が行動を起こしたのですから」


 それに言葉が分かるかは分かりません。ですが、そう言うと黒い魔物も行動を開始するのは早く、グジュグジュと混ざり合っていた身体を変化させ始めました。

 ついさっきまでの黒い魔物の身体をサイズと脚の数を倍にし、そこから生えるようにして3つの首が顔を出してきます。

 そして――、そこから空を飛ぶためと思われる翼が広げられました。


『『『BOOOOOOOOOOWOOOOOOOOOOO!!!』』』

「ひぃぃぃ――っ!?」

「あ……アレはヤバイ、絶対にヤバイだろっ!!」

「おれ……死ぬのかなぁ……」

「しかもあれって、空……飛ぶよな? ギルマスだって、空飛んでた魔物の血を浴びてやられたんだよな……」


 周囲に響き渡る嘶くような鳴き声に彼らは恐慌状態となり、死を覚悟したのか唖然としていました。

 ですが、それ以上にワタシは聞き捨てなら無い言葉を耳にしました。

 ……ハスキー叔父さん、空飛ぶ魔物にやられたんですか?

 そう思いながら、ワタシは黒い魔物を見ました。一方、魔物は魔物で……ワタシたちが恐怖していると思っているのか、翼を羽ばたかせてその巨体を宙に浮かせました。


『BOOO』『BWOOOOO』『BUUU』

「…………自分が優位に立ってる。そう思っているんでしょうね……。ですけどね、それはあなたの思い違いだって気づいていますか?」


 湧き上がってくる怒りに呼応するように、ワタシの身体を包み込む白銀の光は更に輝きを増し始め……。

 黒い魔物を見据えながら、ワタシは短剣を手甲へと当てました。

 頭の中で理解していた武器の使いかたであったもので、それは手甲に当てるとひとつの形を取り始めてひとつの武器へと変化しました。

 が、黒い魔物にとっては些細なことと思っていたらしく、上空から一気に落下してワタシへと突進すべく近づいて来ました。

 それに相対するようにワタシは手甲を構え――、勝利を確信していたであろう黒い魔物に向けて手甲から短剣を発射しました。

 眩いほどの白銀の光の帯を引きながら、短剣は黒い魔物へと向き――突然のことで驚いた黒い魔物でしたが、翼を羽ばたかせ回避したようです。

 ですが、それは意味が無いんですよ。だって、ワタシはあなたを倒すと決めたのですから……!

 直後、白銀の帯は方向を変えて――黒い魔物へと突き刺さりました。


『『『BWOOOOOOOOOOOOOOO!? BOOOOW!!!』』』


 突き刺さった短剣に痛みを感じているのか黒い魔物からは悲鳴が聞こえ、ワタシは次の行動に移ります。

 それに従うように短剣に着けられた鎖は一気に手甲へと戻るべく引かれます。……黒い魔物を伴って。


「今は――これで終わりです!!」


 覇気を込めた叫びと共にもう片手を突き出し、引っ張られてくる黒い魔物へとワタシは短剣付きの拳を突き出しました。

 バチバチと身体に纏う白銀の雷が黒い魔物の血を蒸発させ、ワタシの身体は融けること無く……黒い魔物を貫きました。

合体武器、いいですよね。

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