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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
460/496

試し切り

アルト視点です。

 あ~……! 胸が高鳴るよ~! 超胸が高鳴るよ~~!!

 鼻息を荒くしながら、わたしは山のように積まれた大量の布と糸を前に興奮していた。

 正直、今日一日で色々なことがありすぎて頭が未だ追いついていないかも知れないけど、これだけは言える……。

 ティアと再会して、好き勝手(・・・・)に服を創れるということだ!!


「あの子にはああいう感じの服が似合いそうだし~……! そっちの子には~~♪」


 楽しそうに歌いながら、わたしはアリスに紹介された子たちを見渡した。

 ワン族の獣人に、ティアにフィーン、人間の子が3人に、獣人にしか見えない魔族の子が2人……あぁ、なんて素敵なんだろう!!

 物凄く目を輝かせながらわたしは彼女たちを見ました。その視線を避けるように、一同は目を背けたり身体を隠したりした。……酷いね~……。

 そう思いながら、今度は男性陣に目を向ける。……1人子供っぽいのがいるけれど、全員身体がしっかりしていて筋肉も付いているように思えた。


「う~ん、男性が似合いそうな服で思いつくのって……ああ、そんな感じの服か~……」


 呟きながら、わたしは頭の中に浮かぶ服のイメージを形にしていく。

 そんなわたしに、再び嫌な予感を感じているのか、アリスが近づくと何処から持ってきたのか紙の束と細長い木炭を差し出してきた。


「えっと、アリス?」

「……アルト、アナタの場合はすぐに形にせずに出来ればデッサンを見せてからにしてください。とてつもなく嫌な予感しかしませんので……」

「え? うん、良いけど~……」


 神妙な顔をするアリスに首を傾げつつ、わたしはとりあえず男性陣に創る予定の服を2種類サラサラ~っとデザインし、それをアリスへと見せた。

 その絵を見た瞬間、アリスは神妙な顔に眉間に皺を寄せたような表情へと変わっていった。

 ……あれ~? デザイン変だったかな?

 そう思っていると、変な顔のままアリスはわたしに語りかけてきた。


「アルト……まさか、これ……背中にこれとかこれとかこれな絵柄があったりしますか?」

「え? ああ、うん。あるよあるよ~! 異界知識で浮かんだのがそんな感じなんだよね~……♪」

「……ヒカリさん、ちょっと来てください」

「えーっと、何だか嫌な予感がするんだけど……行かないとダメ?」

「ダメというよりも、アナタが一番分かると思いますから……」


 こちらに近づきたくなさそうだった人間の女の子がアリスに呼ばれて嫌々近づくと、わたしが描いた紙を覗いた。

 ……そして、同じように顔を顰めた。


「う、わぁ……。これって、アレだよね……? 子供も大人も結構な確率で知ってるあの作品の胴着だよね? 亀とか界とか龍とか背中に書かれてるしさぁ……」

「有名なあの先生が怒るくらいにそのままですし、こっちは野菜の王子様が着ていそうな戦闘服ですし……」


 ……? 何だか良く分からないことを口にしながら、2人は頭を抱えている。

 えっと、どういうことだろう??

 そう思っていると、2人が近づき……肩をポンと叩いてきた。


「……アルト、そのデザインはダメ。絶対にダメだから……」

「ふ、2人とも、どうしたの?」

「理由が分からなくても良いから、これだけはダメだって思ってくれたら良いよ。だから、気にしないで……」


 理由がまったく分からないけれど、2人の言葉に頷くことしかできず……わたしは男性用のデザインの作り直しを要求されたのだった。

 ……まあ、女性のほうを優先にするけどね~。

 そう思ってたわたしだったけれど、ふとあることを思い出した。


「って、そういえば……わたし、裁縫道具カーシに置いたままなんだけど~……」

「その心配は無用です。ワンダーランドッ!」

『『ブウ!』』


 アリスの言葉に呼ばれたのか、《異界》から大分前に見たワンダーランドという名の生きている武器が姿を現したのだけれど……。

 あれ? 何だか、数……増えていない?

 そう思っていると、アリスが何かを指示したのか、再びワンダーランドたちが鳴くと《異界》の中へと飛び込んでいった。

 そして、しばらくすると……一つ一つ、それとも一匹一匹? が《異界》から姿を現してきた。


「アリス、いったいどうしたの? というか、ワンダーランド増えていない?」

「えっと、色々とあったんですよ。本当、色々と……。それで、何をしてきたかというとですね」


 アリスは何をしてきたのかを語ろうとしつつ、《土壁》を使って地面を浮かすと作業台らしき物を作成し……その上にワンダーランドを整列させた。

 ……あれ? 今気づいたけど、ワンダーランドの一匹一匹、口の中でモゴモゴと動いていない?

 というか、凄く見覚えがあるんだけどこの光景……。


「まあ、こういうことです。ワンダーランドッ」


 そう言って、アリスはワンダーランドたちに指示を出した直後、ワンダーランドたちは口の中でモゴモゴとしてた物を吐き出した。

 ……それらは、朱金色に輝く球体であり……うん、見覚えある。凄く見覚えある。

 そう思っていると、球体はパカッと開かれ、中からわたしの裁縫道具であろう道具が姿を現した。


「うわぁ……、やっぱりこうやって運ぶんだ~……って、あの……また凄い感じに輝いて見えるんだけど、わたしの気のせい?」

「……気のせいじゃないみたいですね。多分、前のはメッキとかコーティング的な感じだったのが、今回は純正になっているみたいです」

「……え?」


 アリスの言葉に耳を疑いつつ、わたしは鋏を握ると手を開くようにして動かし……連動するように鋏は開かれた。

 キラキラと朱金に輝く刀身を見ながら、ゆっくりと鋏を閉じると……シャキンという音が周囲に響く。

 ……この音だけで、判った。これは……凄い物だということが。


「……アリス。道具を試してみても良い?」

「良いですよ。どの道、今は服のデザインを考えている最中でしょうしね」

「ありがとう~……、それじゃあ……行くよ~」


 アリスから許可を貰うと、わたしは鋏を手に取り金色に輝く布を手に取ると……鋏を入れた。

 鋏が閉じるに連れて、ゾリッという布が切れていく感触がわたしの手に伝わると同時に、わたしは驚いていた。

 何故なら、あまり力を込めなくてもこんなにも簡単に切れていったのだからだ。

 驚きつつも、ミスをしないように心掛けつつ……わたしは鋏でチョキチョキと布を裁断し、最終的に幾つかの部分に切り分けた。

 そして、鋏を置くと次に……糸を手に取り、そこに同じく金色の糸を通して寸断した部分をまとめていくようにして縫い合わせていく。

 ……おお~、スイスイと針が布の間を通っていく~!

 鼻歌交じりにスイスイと糸を通していくと、最終的に繋ぎ合せたパーツはひとつの人形に変わった。……けど、綿が無いからかしぼんだ状態で何だか物悲しいように思えた。


「……いります?」

「お~、さすがアリスだ。気が聞くね~……♪」


 何時の間にかわたしが創っている物を理解したアリスは透き通るようなのにふんだんに盛られた綿を差し出してきたので、喜びながら受け取り、人形の中へと詰め込んでいく。

 最終的にふっくらとした感じに綿を詰め終えると、今度は綿が飛び出さないように縫い止めて……完成~っ!


「可愛らしいクマの縫いぐるみですねー」

「へ~、これってクマって言うの~? 異界知識の衣装で持っているのが浮かんだから創ってみたんだけど、可愛らしい外見しているんだね~」

「か、かわ、いい……」

「な、何ていうか……愛らしい、わね」


 どうやら、可愛い物好きな人たちは多いらしく、縫いぐるみへと続々と群がっていく。

 それを見ながら満足な出来だとわたしは頷きながら、新しくなった裁縫道具の凄さを実感していた。

 ……これは、良い衣装が創れそうだよね~……!

 ひとりでに動き出すクマの縫いぐるみを見ながら、わたしは満面の笑みを浮かべた。…………ん?




クマ CV:ありよし(違

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