族長との話
スナ族長が挨拶をして、彼女たちを中に招き入れると囲炉裏を囲むようにして座らせたわ。
ふかふかというわけじゃないけど、地べたよりはマシな感じのモンスターの皮に座るとマジマジとスナ族長は彼女を見ていたわ。というか、ガン見していてサリーとフォードはとっても苦笑していたけど、気にしている様子は無かったわ。
ちなみにハツカのほうはまるで、また始まったかと言う感じに頭を抱えていたわ。
そして、スナ族長は口を開いたの。
「しかしハツカから話は聞いたが……、こんな子供がミスリルマイマイを倒したと言われても普通は信じられぬな」
「事実だから別に良いだろ?」
「しかも、その殻を全て溶かして何処かに消しただなんてな……」
「本当だって信じていない口か?」
「……いや、男みたいな態度をする小生意気な少女だと思うが、見ていれば分かる。お主は外見に見合わぬほどの強さを秘めているのだろう?」
そう言うスナ族長の瞳はギラギラと獣染みた闘志が宿っており、その視線に中てられたサリーとフォードからゴクリと唾を呑む音や手を握る仕草が伝わったわ。
多分、族長という役職はなのだから人一倍強かったりするんだろうと思っていると、強さ以上に戦闘狂だったみたいなのよね……。
何処吹く風のように中ててくる闘志を無視してたら、白い前歯を光らせてスナ族長は楽しそうに笑ったわ。それはもう楽しそうにね。
「なあ、お主の名前は何と言ったか?」
「アリスだけど?」
「アリスか……、アリスよ、我と血湧き肉踊るような一対一の楽しい楽しい戦いを繰り広げてみ――ほぶっ!?」
「スナ族長! また悪い癖が出てるぞっ! なんで貴方は強い相手を見るとすぐに戦いたくなるのだ!?」
「止めるなハツカ! これは戦闘好きの宿命だッ!!」
「そんな宿命捨てろ馬鹿!」
まるでお笑いのコンビのようにスナ族長がボケをかまして、ハツカがドツキありのツッコミを行っていたわ。
しばらくそれの繰り返しでようやくまともに話が出来るころには、スナ族長の頭には大きなタンコブが出来ていたわ……それはもう見事なタンコブよ。
まあ、話と言っても獣人の国の冒険者ギルドがある街まで向かいたいと言う話だから、話自体は早く終わったの。でも、その話をするサリーをジッと見ながらスナ族長が何かを思い出そうとしているのが気になったわ。
でもその疑問はすぐにスナ族長の口から解消されたわ。
「冒険者ギルド……ワン族……あぁっ!? そうか思いだしたぞ!! 誰かに似てると思ったら、あいつだあいつ!!」
「えっ!? あ、あの……ワタシの顔に何かついてますか?」
「スナ族長……また悪い癖が?」
「ちげぇって! このワン族の顔がベリアそっくりだって思い出したんだよ! お前も聞いたことはあるだろベリア姐さんの伝説を!」
「ベリア……って、まさか【微笑みの猟犬】ベリアかっ!? 宿場町を襲った魔族に食事の邪魔をされたからと、微笑みを浮かべながら馬乗りで殴り殺したというあの!?」
「そう、そのベリアだ! なあ、ワン族のお嬢さん。もしかしてお前さんはベリア姐さんの?」
「え、えーっと……その逸話は初めて聞きますけど……多分そのベリアは母です……」
目線を合わせないようにしながら、サリーが物凄く申し訳なさそうに言ったわ。というか、何か凄い伝説を築いてそうねサリーのお母さんは……。
一方で、フォードは目を丸くしながら驚きを隠せずに居たわ。ちなみにハツカも同じようだったけど、震えていたわね。
まあ、普通魔族に会ったら逃げるぐらいが当たり前のはずなのに、馬乗りになって微笑みながら殴り殺したなんて想像出来ないわよね……。
で、スナ族長は旧知の知り合いに会ったように嬉しそうな顔をして、昔を懐かしむような顔をしていたわ。
「そうかー、ベリア姐さんの娘さんだったかー……。ボルフのヤツからの手紙で姐さんの不幸は聞いてたけど――ってことは冒険者ギルドのハスキーの姪ってことか!?」
「はい……って、ボルフ小父さんとも知り合いですか!?」
「おう! ヤツとは戦いで生まれた絆を持っているッ!」
「そ……そうですか」
「ああ、言われてみたらおやっさんもギルドマスターの役職を持ってなかったらこんな感じだったな……」
豪快に笑うスナ族長を見ながら、サリーとフォードは王都のギルドマスターを思い出しているみたいだったわ。多分今頃クシャミでもしてるんじゃないかなって彼女は思ったわ。
そして、それからの話は早く進んだわ。
獣人の国の冒険者ギルドがあるのはワン族の街らしくって、今から3日後ぐらいに街に行く行商人がそこに行く傍らにこの村にも商品を売りに来るから、それに乗せて貰うように交渉することになったの。
ちなみにそれまでの間はスナ族長の家で寝泊りをすることになって、その日は小さいながらも楽しい祝いの席が開かれることになったの。けど、その前に彼女はやることがあってハツカに案内してもらってある家の前に立っていたわ。
「此処がドブの家だが、アリス様だけで大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。あとは少し離れててくれないかな? いろいろと話をしてみたいからさ」
「少し不安だが……アリス様の頼みなら仕方が無い。我は離れて見ていよう」
「ん、ありがとう」
ハツカに礼を言って、彼女はドブの家へと入って行ったわ。そしてドブを探したんだけど……すぐに見つかったわ。
何かボロ布を頭から被ってぶつぶつと呟いていたの……。
「ネットがしたいでござる。ゲームがしたいでござる。漫画が読みたいでござる。ょぅι゛ょとにゃんにゃんしたいでござる……」
「…………うわぁ、やばい……絶対関わりたくない」
小声でそう呟きながらも、彼女はがんばれがんばれと心で思いつつ、名前がドブだった男が名前だけでなく魂もドブになってしまった男に話しかけたわ。
「ここにはネットもないし、テレビゲームなんてあるわけが無いわ。漫画は自分で描け、あと警察にでも捕まっていろ」
や、つい毒を吐いちゃったのよね。彼女は……でも後悔なんてあるわけないのよ。
ちなみに、サリーママはマウントポジションで魔族をフルボッコしたあとに平然と食事を取っていましたとさ。