大量生産
「あの、師匠? 助けに行かなくて……良いのですか?」
ティアとその後を追いかけて飛び出して行ったフィーンが居なくなってしばらくしてから、アタシへとサリーが訊ねて来た。
そんな彼女へとアタシは優しく首を振ってから助けに行かない理由を説明し始めた。
「多分、アタシだったら……ティアたちに簡単に追いついて、連れ去られているアルトを意図も簡単に助けることが出来ると思いますよ?」
「だったら――」
「ですが、これはティアにとっての試練だと思います。……彼女は今の自分に対して恐怖を抱いています。親友に見られたとき、拒絶されるのではないかという……」
「あ……。だから、この国に来たくなかった。ということですか?」
サリーの言葉にアタシは肯定するために再び首を振ります。
「ですが、そう言ってるけれどティア自身は親友であるアルトのことが気になって仕方がないみたいですね。事実、連れ去られたといって躊躇していましたが、最終的に追いかけていったじゃないですか」
「……それは、師匠の言葉もあったからじゃないですか」
「いえ、アタシの言葉はただの切欠に過ぎません。最後に決めるのは自分自身なんですから」
アタシはそう言いながら、《土壁》を使用して地面に大きなタライを創り出します。
突如創られたそれに周りは驚いた顔で見ましたが、まあアリスだし……とでも言うようにすぐに興味を失ったようでした。
……アタシ、どんな目で見られているんでしょうね……。
そう思いながらも、アタシはタライの中へとアダマンタートルの欠片を入れます。……まあ、取ったのはアダマンタートルではなく、ミスリルマイマイからですけどね。
「……っと、とりあえずこれも用意しておきましょうか」
創るだけ創ってもアレを用意しておかないと意味が無いと考えたアタシは、タライの周りへと樹を細く加工した丸棒を突き刺していく。
それらがクルクルと地面の上を回るのを確認すると、アタシは大丈夫と判断し……行動に移った。
まず始めに、ほんの一分も掛からずにアダマンタートルの欠片を《創製》で溶かし終え……タライにと満たされた赤い液体を見てから、それらを糸にする作業を開始する。
とは言っても、初めに創り出す糸を周囲に突き刺した棒に巻き付ければ、後は簡単だ。
事実、アタシの創り出した金属糸はクルクルと回転をしていって、巻かれていくのだから。
その光景を、サリーは興奮したように見つめており、他のメンバーは……たまに見るぐらいだけれど、やっぱりアリスだしと言う視線を送ってきました。解せません。
そう思っていると、タライの中の液体は全て糸へと変化し……後には何も残っていません。
出来上がった糸を巻きつけた糸巻きを地面から抜くと、少し離れた場所にそれを置き……とりあえず、2巻ほど掴むと、それを《錬金術》で変化させた。
何度も何度も糸が紡がれ、線が面へと変化していくけれど……それは一瞬の出来事で他人が見れば、糸巻きに巻かれた糸が一瞬で布に変化したように見えるはずだ。
「な――っ!? い、一瞬で糸が布にっ!? 流石師匠っ!!」
事実そう見えていたらしく、サリーから驚きと歓喜に満ちた声が洩れていた。
その声を聞きつつ、アタシは同じ工程を繰り返すことにした。
……まあ、次に使用するのはアダマンタートルではなくオリハルコンタートルの欠片だったりするんだけどね。
そう思いながら、次にタライは金色の液体が並々と満たされ……同じように糸となり、巻きつき……、巻きつけ終えた糸を布へと変えて行った。
そんな作業を繰り返し行い、最終的に……各種金属で創り出した金属糸と、金属布が世界樹の前に大量に積まれていました。……やりすぎてしまったなぁ……。
そう思っていると、気配を感じ……その方向を見ていると、フィーンが緑色のカブトムシに乗って戻って来るのが見えました。
「おーいおーい、帰ってきたよー♪」
アタシが気づいているというのを知っているのか、立ち上がって元気良く手をブンブンと振っています。
……彼女の身体で上手く姿が見えませんが、ティアとアルト、そしてアンたちが居るのが気配で分かります。
とりあえず、彼女たちは仲直り……出来たのでしょうかねー?
カブトムシが地面に降りるのを見ながら、アタシはそう考えていた。
◆
「おかえりなさい、フィーン。そして、ティア……は凄い変わりようですね」
「ただいま、アリスー♪」
地上へと降りたカブトムシから、フィーンたちが降りたので出迎えたアタシは開口一番そう告げます。
その出迎えを嬉しそうにフィーンは受け取り、ブンブンと手を振りました。
そして、ティアはティアで……目に見えるほどの変化が起きていました。
……そう、身体に溜まっていた瘴気が浮き出て黒くなっていた箇所が殆ど無くなったのか、肌や髪の色が初めて出会ったときのようになっていたのです。……いえ、それよりも大分綺麗に見えますね。
そう思っていると、恥かしそうにしながらティアはアタシに頭を下げてきました。
「ああ、色々と変わった……。といったところだな。それと、アリス……ありがとう」
「感謝は別に良いですよ。それに、アタシが言わなくても最終的にはアナタは自分で動いたでしょうし……」
「いや、きみが背中を押してくれなかったら、あたしはきっと後悔していただろう。だから、本当にありがとう」
ティアはそう言って、アタシに向けて頭をもう一度下げました。
その反応にかなり気恥ずかしくなったアタシは、ティアから視線を反らすと……アルトと目が合った。
一方、アルトもアルトでアタシをまじまじと見ていたらしく、疑惑的な視線を向けていた。
……まあ、初めて会うはずの人間だというのに、自分が作っていた明赤夢を着ているのだから疑問に思いますよね。
そう思いながら、アタシはアルトへと声を掛けます。
「しばらくぶりですアルト」
「え、えっと~……?」
「ああ、この姿だと初めてでしたよね。だから混乱するのも無理はありませんが……アタシですアリスです」
「え……えぇ~~!?」
アタシの言葉に、アルトは目をパチクリさせてから両手を挙げる勢いで驚きを露わにした。
その反応を見ながら、アタシは苦笑したのだった。
……あ、頭が居たいデース。