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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
457/496

逃走

ティア視点です。

 あたしは剣の柄を握り締めながら、顔を下に向けているままプルプルと震え始めているマーリアを見た。

 対するあたしは、笑みも強張った表情も見せない……、ただ静かにマーリアを見つめるだけ……。

 そんな中、先に動いたのは――マーリアだった。

 一瞬、あたしを射殺さんばかりの鋭い瞳を向けた。と思ったら、まるでこの場に興味が無い。とでも言うように髪をかき上げた。

 ……来るか? あたしがそう思った瞬間――


「あぁ~あ! もぉ~、つまんなぁ~いっ!! マーリアちゃんもうやってらんないから帰る~っ!!」


 …………は?


 突然のその言葉に、あたしは呆然としてしまい、相手に隙を作ってしまった。

 マズいっ!? そう思って、マーリアを見据えようとしたが、奴はあたしの予想とは違い、踵を返して扉の向かって駆け出していた。

 その光景に呆気にとられてしまい、あたしは……いやあたしたちは呆然と立ち尽くしてしまっていた。

 そして、そんなあたしたちの心境なんて知る良しもなしに、マーリアは扉まで辿り着くとあたしたちを睨みつけた……いや、あたしのほうを……だろうか?


「あなた、名前はぁ?」

「…………ティアだ」

「そう……。今は引いてあげるわぁ~。けど、今度会ったら、あなたをズタズタに引き裂いて、瀕死ギリギリまでしてから、実験材料に使ってあげる」


 ――それまで、精々心して待っていなさい。

 そう言って、マーリアは扉の先へと消えて行き……、扉はバタンと音を立てて閉まった。

 そして、後に残されたのは……あたしたちと、兵士の死体だけだった。

 ……とりあえず、死体が再び動く可能性があると考えたあたしは、動かない彼らへと白銀の刀身を突き立て……彼らを救済した。

 そして……。


 ◆


 あたしをジッと見つめるアルトへと、あたしは恐る恐る振り返り……少しだけ気まずそうに声を掛ける。


「そ、その……久し、ぶり……元気、だったか……?」


 ついさっきまでは戦闘中だったというのもあって普通に喋ることが出来たけれど、冷静になった今は彼女の顔を見ることが出来ず……下を向いていた。

 そんな、あたしの視界に……アルトの足が見え……その足がゆっくりとこちらに近づいてくるのが見え、何か言われるのではないかとか、嫌われたりしないだろうかと恐怖を抱いていた。

 ……だが、あたしのその考えは杞憂だった。何故なら、彼女はあたしを包み込むように抱き締めたのだから。


「……え?」

「ティア、ティア……、会いたかった。会いたかったよぉ~……」


 驚くあたしの耳には涙混じりのアルトの声が届き、その声は段々とすすり泣くように変化していった。

 そして……その声を聞いたあたしも、気づけば目から涙が溢れ出し、声を押し殺して涙を流していた……。

 そんなあたしたちを見ているのは、フィーンだけだったが……彼女はそんなあたしたちを見ているだけだった。

 ……しばらく泣き続けていたあたしたちだったが、感情が落ち着いてきたのか徐々に泣くのを止め……あたしたちは恥かしそうに互いを見た。

 うん、今度は……アルトをちゃんと見ることが、できる。……きっと、泣いたことで蟠りが消えたのかも知れないな……。


「それにしても、ティア……。旅に出るって、アリスの様子から分かってたけど……ちゃんとあのとき、別れの挨拶ぐらいさせて欲しかったな~……?」

「う……っ! そ、その……す、すまない……。あのときは、その……みんなに会わせる顔が無いと思ってだな。……そ、それに、黒くなってしまったりとかして……」


 ジト目であたしを見るアルトに如何返事を返したら良いのかと、言葉に詰まり……ごにょごにょごにょ……と、あたしは段々と声が小さくなっていき、最終的に拗ねるアルトの前で指をモジモジさせてどう言うべきか困り果てていた。

 そんなあたしを見ていたアルトは、まるで我慢出来ないとでも言うように……プッと息を噴出し始めたではないか。

 そ、そんなにあたしが滑稽だったとでも言うのかキミはっ!?

 今にも泣きそうな顔をしているあたしに気づいたのか、アルトは両手を前に突き出して手を降り始めた。


「ごめんごめん。ティア~……! きみは気づいていると思ってたんだけど、まだ気づいていないの~……?」

「え? 気づいていないって、いったい何にだい?」

「えっとね~……、これだよこれ~……」


 そう言いながら、アルトは《水鏡》を使ったらしく、あたしの前に水の幕を作り出した。

 そこに映る自分の姿を見た瞬間、あたしは……固まった。

 何故なら……、そこに映るあたしは……くすんだ銀髪でも、黒に近い褐色の肌でも無かった……。


「あ、ああ…………っ」


 出し切ったはずの涙が、またも込み上げてくるのが分かる。

 だって、あたしの髪が……肌が……、もう戻らないと思ってたのに、キラキラと輝く銀髪が……真っ白な肌が……戻ってきたのだから……。

 ただ、片目のほうは若干色は薄くなったけれど、未だ黒くはあるけれど……あたし自身の姿だった。

 もど……った。戻ったんだ……っ。

 そう思うと、あたしはもう一度泣き始めた。

 そして、そんなあたしを慰めるように、アルトとフィーンが……優しく抱き締めてくれた。


「良かったね、ティアー……」

「本当に、良かったよ。ティア……」

「うん、うん……!」


 ……そんな風にワンワンと泣き続けるあたしと、慰める2人の声を聞きつけたのか……アンたちがようやく姿を見せ、あたしの姿に歓喜の声を上げた。

 そんな彼女たちへと、あたしは少し……いや、かなり気まずそうに挨拶をするのだった。

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