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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
454/496

天使な師匠

 こいつの、せいで……!

 あたしが……、父さんが……、カーシのみんなが…………!!

 怒りと怨みの炎が心の中に燃え上がるが、そんなあたしの心の中とは裏腹に……あたしの身体はピクリとも動こうとはしない……。

 くそっ、動いてくれ……! 動いてくれ……!! 今動けなくてどうしろというのだ、あたしはっ!!

 必死に心の中で叫ぶあたしだったが、不意に身体が自分の意思とは関係なくダラリと動き出すのを感じた。

 それはあたしがあたしで無いように感じられ……。まるで全身をぐるぐる巻きにされて拘束された状態で動かされてるとでも言うような気分だ。

 そう思っていると、マーリアはニヤニヤと笑みを浮かべながらあたしを見るのが見えた……。


「さ、それじゃあ、マーリアちゃんのための職人をあんたの手で連れて来なさい」

「あー……」

 ――――っ!?


 内心驚くあたしだったが、身体は返事を返すとゆっくりとフィーンたちのほうへと歩き始めた。

 一歩、二歩と進んで行き、フィーンのゴーレムの前へと近づいて行くが……ゴーレムはあたしを味方と認識しているのか大剣を振るおうともしてこない……。

 しかも、フィーンもまったく動こうとはしてくれない。……フィーンッ、どういう……ことなんだっ!?

 くそっ、止めてくれ……! フィーン、頼むっ! あたしを、あたしの足を切り落とすなりして動けなくしてくれ……!

 心で強く思うが、フィーンは何もしてこない……。そして、あたしはフィーンを越えて……アルト(親友)の前へと立っていた。

 あたしの目の前に立つ親友の表情は、信じられないといった感情が込められた表情であった……。


「ティ、ア……? うそ、だよね……?」


 震える声で、彼女はあたしの名前を呼ぶ。だが、あたしは何も言えず、そのまま彼女に手を伸ばす。

 伸ばされる手にアルトは怯えたらしく、身体を震わせたが……、すぐに目を閉じ頭を振るうのが見えた。

 く……っ、もう、だめなのか……? あたしも、アルトも……ダメなのか……?

 見ていることしか出来ない状況にあたしは諦めそうになり始める。

 だが、だがアルトは……。

 半ば諦めながらアルトを見ると、もう一度あたしの顔を正面から見据えており……その表情は怯えた表情ではなく、真剣な表情であたしを見つめていた。

 あたしを見つめるその瞳は、まるであたしに訴えかけるように見えた。

 弱いあたしを叱咤しているのか? いいや違う、その瞳に宿る感情。それは……!


「――――信じてる」


 ――信頼。

 ……そうだ。彼女は、まだあたしを……信じてくれているんだ……!

 だったら、あたしが諦めたら……、諦めるなんてしてしまったら……っ!!

 諦めていた気持ちを奮い立たせろ! 親友が信じてくれているのに、あたし自身が諦めるなんてありえないだろう!?

 動かせ、身体を動かせ……! あたしの身体はあたしのものだっ! 他の誰かに使われるものじゃないっ!!

 あたしは必死に、自分自身にそう言い聞かせ……アルトへと近づく腕を静止させるために心の中で全身全霊を込めて踏ん張った。

 ……が、悲しいけれど気力とかでどうこうできる問題では無いらしく、あたしの腕は時折ビクッと動きつつも最終的にはアルトの腕を掴み、マーリアの元へと連れて行くために歩き出そうとしていた。

 ……ダメじゃん!!

 心の底からツッコミを入れるあたしだったが、不意にアリスがあたしのために用意したと言う武器のことを思い出した。

 ただの柄にしか思えないけれど……きっと、何か意味があるはず。

 そう思いながら、あたしは身体を動かすのは無理だとしても、せめて口だけでも動かしてフィーンに意思を……!

 そう考えて、必死にあたしは力を込めた……が、声にはならず……パクパクと口が動くだけだった。

 だがあたしは諦めない、諦めてたまるものか。そう心で叫びながら、どうするべきかを考える。

 そんなあたしへと、引き摺られながらアルトは問い掛けてきた。


「…………ティア、何か……したいんだよね? わたしが、やるから……言って」


 ――アルトッ!?

 アルトの言葉に驚きつつ彼女を見ると、未だ彼女の瞳にはあたしが何とかしてくれると信頼している光が宿っているのが見えた。

 ……危険だと思う。だけど、今はアルトに託そう……。

 決意し、あたしはゆっくりと確実にパクパクと口を動かした。


 ――腰に、差した、柄を、あたしに……。


 そう告げたあたしの意思が伝わったのか、アルトは頷くと自分を引っ張り続けるあたしへと倒れ込むように突進した。

 対するあたしのほうは、突然のことで対処出来なかったのか、足を縺れさせてアルトに馬乗りされる形となっていた。

 そうだ。アルト! 速く、速くあたしにアリスから貰った武器をっ!!

 心でそう叫びながら、拘束を振り解こうとするあたしの腕を掻い潜り……アルトは腰に差した柄を両手で掴むと、あたしの胸元へと突き立てるように押しつけた。

 ――って、何でそうなるんだっ!? 驚くあたしだったが。どうやら、彼女は胸元に刺してくれと聞いたのだということに行き当たった。

 事実……。


「ティア、これで……何とか、なるんだよね……?」


 信じていると言わんばかりにアルトはあたしに告げる。

 ま、まあ……受け取った意味が少し違っていたけれど、何ともならないなんておかしいだろう?

 だから、信じているよ。アリス……!


『まあ、信じてくれる。というのは嬉しいですけれど、今度からはキチンと使いかたを聞いてからにしてくださいね?』

「え?」


 突然響いて来た声にあたしはキョトンとした顔をし、前を見た。

 するとそこには、アリス……だと思う人物が立っていた。

 だと思う。というのは、彼女にしては身長が小さく……背中に翼が生えているからだ。

 呆気に取られながら、彼女を見ていたあたしだったがようやく今現在の自分が居る場所に気がついた。


「此処は……何処だ?」


 そう、そこは森の中ではなく、更にはアルトに押し倒された状態ではなく……ただ、白と黒の配色がされた空間にポツンとあたしとアリス(?)が立っているだけだったのだ。

 目の前の状況に困惑していると、アリス(?)が説明をしてくれるのか口を開いた。


『此処はティア、アナタの心の中です。そしてアタシはこの武器に容れられたアリスの魔力と神力の塊……まあ、天使アリス。略して、てんししょうとでも呼んでください』

「は、はあ……」


 そう言って、アリス……いや、てんししょうはあたしに笑いかけたのだった。

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