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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
453/496

NDK

「うー」

「あー」


 まるで赤子のように、もしくは壊れた人間のように……そんな声を漏らしながら、邪族に変えられた兵士たちは死んだように濁りきった瞳をあたしに向けて、手からドロドロと垂れる瘴気を歩きながら変化させ始めた。

 ある兵士は槍、ある兵士は剣、ある兵士は斧、様々な武器が握られていく……そして、マーリアを護衛しているらしき兵士たちは盾を出現させたのが見える。

 そして、あたしも対抗するように細剣を両手に作り直し構えようとした瞬間、唐突に弾かれるようにして彼らはあたしへと襲いかかってきた。

 突き、斬り、振り下ろし、正面から側面から一斉に迫り来るそれらを見ながら、あたしはその一つ一つに対処を開始した。

 突きをギリギリの辺りで身体を回転させることで回避し、突き出された腕へと細剣を振り下ろし――。

 流れる動作のまま、もう片方の手に握り締めた細剣を軽く傾けることで、刃筋に沿うようにして相手の振り下ろされた剣はキャリキャリと音を立てて地面に向けて滑っていく。

 そのまま体勢を崩した相手の側面に回ると同時に、蹴りを与えて斧を振り上げているほうへと飛ばした。

 突然のことで相手は驚いたかは分からないが、僅かに動きが鈍ったのが見えた……が振り下ろされた斧は止まることは無く、よろけた兵士の首を胴体と別離させることとなった。


「――――シッ!!」


 だが、あたしはそこで満足するつもりは無い。こいつらはきっと相手をしなければフィーンやアルトを狙うに違いないのだから……!

 その決意のまま、斧を再び振り上げようとする兵士の首へと――あたしは軽く息を吐くと鋭い突きを放った。

 ズブリとした感触が手に伝わるのを感じながら、その命を狩るべく貫いた細剣を横へと振るう。


「ひ――ッ!?」


 首が半分になったソレはグラリと身体を揺らし、ばたりと倒れた。……そして、背後ではアルトの声を押し殺した悲鳴が聞こえ、刺激が強すぎたとあたしはこのやりかたを後悔した。

 けれど今は立ち止まって入られない。そう考えて、あたしは無くなった腕の変わりに瘴気で槍を作り出そうとする兵士の首を刎ねると起き上がらないのを確認した。

 ……万が一の可能性だが、起き上がったりしたら洒落にならないのだからな……。

 ホッと安堵しつつ、倒れていった仲間たちはどうでも良いとでも言うように兵士たちは「うー」とか「あー」を強調したりするだけで喋りながらあたしに向かって来た。

 一斉に突き出された槍衾を回避するために地面スレスレまでしゃがむと同時に、兵士たちも馬鹿ではないらしくあたしを捕えるために槍を下へと降ろした。

 けれどそれよりも先にあたしは地面を転がることで距離を取ると、細剣を変化させて投げナイフに近い形状に変えると共にこちらへと向き直った兵士たちの顔目掛けて投げつけた!


「あああーー……」

「ううーー……!」


 しかし、狙いは甘かったらしく……眉間に突き刺さる者も居れば、頬に突き刺さるのみであったり、はたまた目であったり、口だったり、喉だったりと様々だった。

 ……戻ったら、ナイフ投げの練習でもしてみるべきだな…………。


「ティアー、集中してー! こっちに来ちゃってるよー?!」

「う、うわっ!? す、すまないっ!! ――って、何だそれはっ!?」

「何ってー?」

「いや、それだよそれ! キミを護っているっぽいそれ!!」


 失敗したと恥じながら、ティアたちのほうを見ると……彼女たちへと接近しようとしていたであろう兵士たちが、彼女たちを護るように立ち塞がる存在に目が行っていた。

 多分、ゴーレムなのだろうが……アークと戦っていたさいに出していたのっぺりとした何の変哲も無いゴーレムとは違い、何というか……造形がしっかりしている、まるで美術品と言われても違和感が無い鎧の戦士がそこには居たのだ。

 そして、あたしが考えごとをしていた結果、通してしまった兵士たちを手に持っている巨大な大剣を振るうことで、周囲にある樹ごと彼らの胴体を真っ二つにしてしまっていた。

 ズズンと樹が倒れたのを見ながら、あたしは……というか、周囲に居た者たちは唖然としてしまっていたようで……空気が凍り付いていた。

 そんなあたしたちを無視するように、ゴーレムは大剣にこびり付いた血と瘴気を振ることで刀身から剥がし、再び憮然と立ち塞がる状態に戻った。

 近づけばやられる……そう判断したのか、周囲はティアたちに近づくのを恐れるような雰囲気が取れた。……が、王族気取りになっていたマーリアにはそれが許せないようで、金切り声をこちらに向けてきた。


「な、何なのよッ!? なんなのよそれぇ~!? やたらカッコイイ上に、強いってムカつくんですけどぉ~!! あなたたち! 速く根暗女を連れてきなさいよぉ~!!」

「そうは……、させるかっ!!」


 戸惑いながらも、進んでくることを決心したであろう兵士たちの足を止めるべく、あたしは瘴気を鞭のように伸ばすと歩みを進める兵士たちを拘束した。

 そして、動けないでいるこの隙を狙うようにあたしは体内の瘴気を手先に集め、握り締めた細剣の刀身を伸ばすと一気に拘束した兵士たちに向けて、振るった。


「くっ! 重……! けど、やれ……るっ!! うああああああっ!!」


 気合を入れるために雄叫びを上げ、腕に力を込めて……あたしは拘束した兵士たちを寸断した。

 ……けれど、少し、疲れた……。


「……ふぅ。さあ、次はお前たちの番だ!」

「凄いわねぇ~! アレだけいたマーリアちゃんの兵士たちが全滅してるわぁ~!?

 さすが、こいつらを作るための実験体の中でも最高で最低なだけあるわねぇ~」


 その言葉を聞いて、あたしは改めてマーリアを睨みつけるように見た。

 するとマーリアは聞いても居ないのに、楽しそうにあたしのことを語り始めた。


「マーリアちゃんはアーくんに聞いてたのよぉ~。邪族の身体となっているにも拘らず、前の精神を持っている奴が居るって恨めしそうに言ってたわぁ~。

 そんなのが居るなら、マーリアちゃんも会ってみたいって思ってたけど、こんな感じなのねぇ~」

「……そうか。ならば、望み通り見れたのならあ……これでお引取りを願おうかっ!!」


 楽しそうにあたしを見るマーリアへと、何時もの長さに戻した細剣を構えて一気に駆け出した。

 そんなあたしの攻撃からマーリアを護るように盾を持った邪族の兵士が間に立とうとするが、心配ないとでも言うように、マーリアは手で制した。

 そして、何かを呟いた瞬間――まるで、自分の身体が自分の身体ではないかのようにビクリと震え、地面へと倒れた。


 な、にが……、起き……た、んだ……?


 困惑するあたしへと脅威が無くなったと言わんばかりにマーリアが近づき、あたしの前へと立った。

 横目で見えるその表情は……、動けなくなった蝶を狙う蜘蛛のように見えた。


「どうして動けないか分からないって顔をしてるわよねぇ~?

 答えは簡単。あなたに埋め込まれた黒瘴珠、マーリアちゃんの言葉一つで支配下に置くことが出来るようになってるのよぉ~。

 本当は、戦っている最中にも出来たんだけどぉ、勝ってるって気にさせたほうが面白いじゃなぁ~い♪ ねえ、今どんな気持ちぃ? あ、喋れないかぁ~☆」


 最悪な気持ちだよ。心からそう思いながら、マーリアを睨みつけるあたしだったが、奴の一言であたしの心は怒りに燃えた……!

 何故なら……。


「しかし、試作品で数個しか作ってなかったけど、こんな風になるのねぇ~♪」

「は、あ…………」

「ああ、最後だから特別にマーリアちゃんが教えてあげるわぁ~☆ その胸の球を作ったのは、この超絶可愛いマーリアちゃん♪

 どう、びっくりした? とっても嬉しくって涙流して超ハッピー?」


 気がつけば、ケタケタと笑う、目の前の女を……あたしは血走らんばかりの瞳で睨み付けていた……!

 こいつの、せいで……!

製作者は、色々持っているのが常識。

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