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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
452/496

颯爽登場(ただし命がけ)

ティア視点です。

 フィーンのウインドゴーレムは木々の間を素早い速度で突き抜けていき、あたしは飛ばされないように必死にしがみ付いていた。

 ……ちなみにフィーンのほうは楽しそうに笑っているが、風で押し飛ばされている様子が無い。……もしかして、風魔法で何かしているのだろうか?

 もしくはしているに違いない……! というか、してると言ってくれっ!!

 心の底からそう思いながら、あたしは指の先から身体を走る瘴気の塊を出すとフィーンの背中を軽く叩いた。

 トントンと背中を叩かれたフィーンは首を傾げながらこっちを見ると……。


「わー? どうしたの、ティアー? すっごい顔してるよー? 変顔遊びー?」


 と、呑気にそう言ってきた。

 とりあえず、あたしは遊びではないことを口をパクパクさせながら告げるが……良く伝わっていないらしい。

 事実、フィーンはうんうん唸りながら頭を捻っている。

 同時にあたしは吹き飛ばされそうになっていた。けれどもう少しで吹き飛ばされそうになっていたとき、ようやくフィーンは気づいてくれたらしい……。


「あわわっ、ティアが落ちちゃうー!? あっ、魔法掛け忘れていたー!!」


 慌てながらフィーンはあたしに向けて、碧色の光を放った。

 その光はあたしの身体を包み込むように広がり、身体全体に行き渡ると……あたしの身体に変化が起きた。


「ぶはっ!? はぁ……はぁ……! し、死ぬかと思った……!」

「ごめんねティアー……、フィン初めてのことだから失敗しちゃったよぉ……」

「い、いや……次間違えなければ良いんだ……。本当、次間違えなければ……」


 眉をハの字にして落ち込むフィーンを慰めながら、あたしはそう言う。ただし、大事なことなので2度言った。

 あたしの言葉を理解してくれたのかは分からないけれど、フィーンは分かったと言わんばかりに笑顔となって、頷いてくれた。

 その笑顔を見てから、あたしはウインドゴーレムの移動に身を委ねた。

 すると、ウインドゴーレムは今以上の速度を出して、森の中を疾走していった。……どうやら、あたしを気遣って本気を出せなかったらしい……。

 素早く切り替わっていく景色を見ながら、あたしは手を握り締める。


「……待っていてくれ、アルト……!」


 そう呟くように口にした言葉に返事をするように、あたしの耳へと声が届いた。

 助けを求める、親友の声が――――っ!


『助けて…………っ。助けてっ、ティアーーーーッ!!』

「アルトッ!!」


 その声に弾かれるようにして、下を見るとそこには無駄に着飾った女に腕を引っ張られて、扉へと連れて行かれるアルトが見えた。

 あの扉に入れられたら、マズい……! 速く、速くアルトを助けなければ!!

 焦る心を抑えきれないまま、あたしはフィーンを見る。


「――フィーンッ!!」

「ウインドゴーレムが降りようとしてるけど……まだ時間が……」

「そ、そんな……。だったら、だったら、あたしだけでも行くっ!!」

「あっ、ティ――ティアーーーーッ!!」


 突き動かされるまま、あたしはウインドゴーレムから飛び降りると一気に地上に向けて落ちて行く。

 だが、その間に落下速度を緩めるべく、手から出した伸縮性のある瘴気の塊を樹に貼り付けて、衝撃を吸収させながら落ちて行き……アルトと女の間に落ちるように調整した。

 そして、予定通り両者の間に落ちるとあたしは素早く瘴気を細剣に変え、振るった。

 突然の攻撃で女は驚いたらしく、アルトの手を放し距離を取り……あたしが誰かと問い掛けてきた。

 だが、あたしは何者であるかを答えるつもりは無かった。

 ただ答えることがあるとすれば、それは――


『あたしの…………、あたしの親友を連れていかせはしないっ!!』


 ◆


 言った。言ってしまった。

 あたしがその言葉を口にした瞬間、あたしの背後にいるアルトがビクッとしたのを感じた。

 アルト……、キミは今、どんな表情であたしを見ているんだ?

 あたしは、キミの顔を見るのが……すごく、怖いよ。

 子供のように怯える心を奮い立たせながら、あたしは目の前の女を見る。

 一方、女は突然現れたあたしを警戒しつつ、マジマジと見つめてきた。

 そして……


「ふぅ~ん? ついさっきから、根暗女を誰も連れ戻しに来ないって思ってたけれど、あんたみたいなのがあの街には居たのねぇ~?」


 ……どうやら、勘違いをしたらしい。だが、その勘違い……利用させてもらうことにしよう。

 そう思いながら、あたしは呼吸を整えて女を見た。


「ああ、あたしは彼女を護るためにお前たちを追いかけてきた! もう彼女はあたしの手の内にある! 彼女に手を出さないと言うならば、そのまま帰そうっ……どうだっ!?」

「…………いやよぉ~。だって、マーリアちゃんは綺麗な服を着たいの、可愛い服を着たいの。だから、そんな服を作ってくれる僕が欲しいの。わかるぅ~?」

「……そうか。ならば、力づくで追い払うのみっ!!」

「やれるものなら、やってみなさぁ~い! けど、残念ねぇ~、扉を前にマーリアちゃんに戦いを挑むだなんてねぇ~」


 笑いながら、女……マーリアはあたしへと指を突きつけた。

 すると、ザッザッザという音と共にドロドロに融けかけた状態の兵士たちが、「うー」とか「あー」とか言いながら扉の中から続々と現れてきた。


「――ひぃっ!?」

「これは……、汚染されすぎている……?」

「そうよぉ~、こいつらは邪族第一参加者たちの一部。そんな素敵な僕たちに殺されるのを光栄に思いなさぁ~い♪

 うふふ、根暗女ぁ~。この女を殺したら、今度こそあんたは扉の先に招待してあげるからねぇ~♪」


 そうマーリアは楽しげに言う。……どうやら、あたしをあっさり殺す気でいるらしい。

 ……良いだろう。だったら、その顔を悔しがる様に変えてみせようじゃないか!!

 そして、アルトをそんな姿になんて、絶対にさせない……!!


「お待たせ、ティアー!」


 あたしが決意していると、フィーンの乗るウインドゴーレムが地面へと降り立るのが見えた。

 そして、フィーンがあたしの名前を口にした瞬間、アルトの口からは「やっぱり……」とか細い声が聞こえた。

 その声にあたしは唇を噛み締めるが、ショックを受けている場合じゃない……!


「フィーン! 彼女を、アルトを頼むっ!!」

「分かったよー! お願い、ゴーレムさーんっ!!」


 後ろは見ていないが、多分ウインドゴーレムから別のゴーレムを呼び出したのだろうと思う。

 その証拠に、あたしの背後では眩いほどの輝きが起きているのだから……。

 ……いったい、どんな形のゴーレムが出来上がるのだろうか? 少し気になるが……今はこいつらを相手に戦うときだっ!!

 心を奮い立たせ、あたしは両手に瘴気で細剣を作り出すと迫り来る邪族に変えられた兵たちへと駆け出した。

プロトタイプVS量産型を率いるボスクラス

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