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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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チュー族に村に到着

「お、おい……何で泣いてるんだよ?」

「ひっ!? こ、来ないで……っ! 来ないでよぉ……!」


 すすり泣いているアリスへと彼女は心配そうに近づいたの。けれど、アリスは化け物でも見るように彼女から床をするようにして後ろに逃げ始めたわ。

 その反応に少しばかり傷付いたけど、14年間生きていたのにいきなり自分の身体が自分の物じゃなくなったら普通に怖くなるよね。そして、話しかけたのが身体を奪った本人だと……ね。

 だけど、そのままだといけないような気がしたけど、どう言えば良いのか彼女にはまったく解らなかったの。それでも彼女と話をするべきだと考えた彼女はもう一度声を掛けようとしたわ。


「あのさ、少し話をさせて――」

「来ないで! アタシの中にこれ以上入ってこないでよぉぉーーっ!!」

「え――うわっ!?」


 アリスが叫んだ瞬間、彼女の身体は吹き飛ばされてアリスが居る部屋から追い出されたの。

 多分だけど、あの部屋はきっと……アリスに残された最後の心なのかも知れない。そう思いながら、追い出された何も無い空間から部屋の扉が閉まるのを彼女は見ていたわ。

 そして、バタン――と扉が完全に閉じられたと同時に、彼女の意識は覚醒したの。

 両目を開けて見えた空は青かったから朝なのだろうと考えつつ、彼女は身体を起こすとサリーたちが荷物の整理をしているのが見えたわ。


「あ、師匠。目が覚めたんですね、おはようございます」

「もうそろそろ起こそうと思ってたけど、お前って本当に寝付きいいよな」

「ああ、うん。寝起きが良いみたいね。おはよう」


 2人に挨拶をしてから彼女はベッド代わりにしていた石から降りると、軽く背伸びをしたわ。

 石の上で寝ていたからか身体が強張っていてポキポキと音を立てたけど、大分疲れが取れているのを彼女は感じたの。

 そして彼女が目覚めたのに気づいたハツカが近づいてくるのが見えたわ。


「おはよう、アリス様。よく眠れたか?」

「おはよう、まあ……一応眠れたといえば眠れたかな。それで今日はチュー族の村に移動するんだっけ?」

「ああ、ここからならゼブラホースの足で半日ほどで着く距離だから、途中で休憩を取りつつ向かおうと思う。アリス様たちには2頭貸すのでそれに乗っていただきたい」

「分かったけど……オレは馬になんて乗ったことが無いぞ?」

「大丈夫です、昨日ハツカさんと話をしてワタシと一緒に師匠が乗ることになりました!」


 お姉ちゃんに任せて的な感じに鼻息を荒くしつつ、サリーは言ったわ。なんだろう、任せて良いはずなのにあまり任せたくない気持ちになるのは……。

 けれど、自分で馬を乗りこなせるわけがないので彼女は諦めてサリーと一緒に乗ったわ。ちなみに後ろに乗ろうとしたら、尻尾があるので前に乗ってくださいと頑なに言われたから、前に乗ったの。

 全員で出発を始めると、サリーは物凄く嬉しそうで尻尾もブンブンと振られているのが分かったわ。……うん、後ろに乗せたくないわけよね。

 そのあとは、荒野をゼブラホースで駆け抜けただけだから、村までの道のりは特に話すような内容は無いわね。そして、陽が少し落ち始めたころに、ようやく彼女たちはチュー族の村に辿り着いたわ。


 辿り着いたチュー族の村はこじんまりとした家が10軒ほどあるだけで、家々に小さな畑があるのを見ていると個人個人に毎日を暮らしながら自給自足をしていると言う感じに思えたわ。そしてその殆どの家々が土と藁を練りこんで作ったと思う土壁と藁を被せて作られた造りをしていたの。

 そして、村に辿り着いた彼女たちに入口のすぐ近くに居た年若い村人が誰かというような表情をしたわ。だけど、ハツカに気づいた村人が一気に駆け寄ってきたの。


「ハツカ! 大丈夫だったのか!?」

「ああ、心配をかけたなルモット。我らは大丈夫だ」

「そ、それはよかった……ところで、この3人はいったい誰だ? 見たところ、そこの女はワン族みたいだが」

「いろいろとあって、連れて来た。スナ族長は居るか?」

「なるほど……、スナ族長は家のほうに居るはずだから行けば普通に居るはずだ」

「分かった。ありがとう」


 ルモットと呼ばれた青年と話をしたハツカだったけど、話を終えると彼女たちを連れてスナと呼ばれた族長の元へと移動し始めたの。

 辿り着いた族長の家は村の入口から見て一番奥にあって、他の家よりもひと際大きかったわ。

 家の入口になっている暖簾と言うか、藁で織られたカーテンのような物を軽く開けてハツカが中に居る人物に声をかけているのが見えたわ。

 何を話しているのか良く分からなかったけど、しばらくしてハツカがこっちを向いたの。


「待たせたな。家の中に入ってくれ、族長から話がある」

「オレは別に話は無いけど……まあ、いいか」

「分かりました。それでは失礼します」

「襲われたりはしないと思うけど、緊張するな」


 暖簾を潜ると中は土の上にモンスターから剥ぎ取ったと思われる毛皮がしかれていて、部屋の中央には囲炉裏のような物が設置されていたわ。

 その囲炉裏の上座……って言えばいいのよね。には筋骨隆々の肉体に無数の古傷をつけたチュー族の男が座っていたの。

 見たところ、ギルドマスターと同じぐらいの強さを秘めていると彼女は思ったわ。多分、この男性がスナ族長なのだろうって思ったの。

 そして……彼女の予感は正しかったわ。


「ようこそお客人。我はチュー族の族長スナ。ハツカたちが聖地のほうで世話になったみたいだな、我らは心から貴方がたを歓迎しようではないか」


 笑みを浮かべながら、スナ族長は彼女たちに言ったわ。ただし、その笑みは好戦的な感情を宿していたけどね……。

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