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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
449/496

大馬鹿者

ティア視点です。

 ――わたしはティアの銀色の髪、キラキラとしていてすごく綺麗で好きだなー……。


 初めての友達である彼女にそう言われたとき、あたしはとても嬉しかった。

 だから、あたしは周りとは違っていた自分の髪の色が好きになった。


 ――わたしはティアのその翠色の瞳、森の色で美しいって思うよー……?


 その言葉はあたしに、喜びを与えてくれた。

 父さんと違った翠色の瞳で、もういない母さんはどんな色をしていたのかは分からないが……似ていないことに違和感を感じていたあたしは誇りを持てるようになった。

 森の色、草の色、緑の色。それがあたしの眼の色なのだ。


 ――ティアの肌はすごく白くて、雪のようだよねー……。それに、日に焼けているはずなのにすべすべしてるー……。


 森の中での戦いの訓練をして、あたしの身体は日に焼けているはず。

 それなのに、あたしの身体は赤くなるどころか、日焼けもしない。真っ白なままだった。

 一緒に活動している仲間たちと同じように日に焼けてほんの少しだけでも日焼けをしてくれたらどんなに嬉しかったことだろう。

 そんな理由であまり好きになれていなかったあたしの肌は、その一言で救われた。


 フィーンが居て、アルトが居る。父さんだってカーシのみんなだっている。

 そんな日々があたしは嬉かった。けれど、それはもうあり得ないのだ。

 なぜなら、あたしの髪は、瞳は、肌は変わってしまった。

 フィーンも変わった。だけど共に居てくれる。

 父さんは死んだ……。カーシのみんなもどうなっているのは分からない。

 けれど、彼女……アルトは生きている。

 それだけで嬉しいし、会いたいとも思う。けれど、彼女が綺麗だと言ってくれていた髪はくすみ、瞳は黒く染まり、肌は小麦を跳び越えた黒に近い色となっていた。

 だから、だからあたしはこんな変わり果てたあたしを見たアルトがあたしから離れるのではないかと思って、身体が動かなかった。


「さっきだって、さっきだってそうだ……! あたしは、あたしの見た目だけを気にしていた!

 友が、友が危機だというのに、会ったときどう言われるか、引かれるのではないかと思って躊躇ったんだ!! 馬鹿だ、あたしは馬鹿だ!!」


 ――大馬鹿だっ!!


 一心不乱に駆け続けるあたしは何時の間にか、アンたちを置いていったらしく……森の中を駆け続けていた。

 だが、そこであたしは気づいた。気づいてしまったのだ……。

 …………邪族が落とした扉が何処にあるのか分からないと言うことにっ!!


「ほ、本当……あたし、馬鹿だろ……」


 泣き声になりかけながらあたしは呟くと、その場に崩れ落ちてしまった。

 アルト……、アルトはどうなっているんだ……!?

 焦りすぎて失敗したあたしは自分自身を叱咤しながら、どうするべきかと考え始めるが……まったく良案が思い浮かばない。

 くそっ……! どうしたら、どうしたら良いんだ……!!

 ギリリと拳を握り締めるあたしだったが……不意に、耳に聞き覚えのある声が聞こえた。


「!~~~~ア~~ィ」

「え――?」

「ティ~~ア~~~~!!」

「フィ、フィーン……?! いったい、いったいどこか――うわっ!?」


 聞こえてきた声が何処から聞こえるのかキョロキョロと見渡したあたしだったが、その姿はまったく見えなかった。

 だが、不意に激しい風が吹き荒れた瞬間――ヴヴヴという羽音と共に、碧色のそれ(・・)があたしの前へと降りてきた。

 それは、一見するとモンスターに居る虫タイプのモンスターにそっくりな見た目であった。だが、瞳は理性があることを示す色が備えられており、更に言うとその上には……。


「お待たせ、ティアー! はやく、アルトを助けに行こーっ!!」

「フィ、フィーン……。そ、それは……?」


 驚きながらも、あたしはフィーンへと今目の前にいるフィーンが乗るそれを指差しながら訊ねた。

 すると彼女からは驚くべき、けれど同時に予想すべき返事が返ってきた。


「フィンのゴーレムだよー♪ アリスがね、ゴーレムのコアを創ってくれたのっ♪」

「そ、そうなんだ……」

「これはね、移動するのに便利なウインドゴーレムだよ♪ だから、ティア。速く乗って乗ってー! アルトを助けに行くんでしょ?」

「――っ! そ、そうだったな……! ああ、行こう。ティア、頼んだぞっ!!」

「任せてよーっ♪ っと、そうだー、アリスがティアにだってー!」

「あ、あたしに……?」


 自信満々に返事をするフィーンだったが、突然思い出したように服の中から光り輝く珠を出してきた。

 それをあたしは恐る恐る掴み取ると、珠は脈打っているのが分かった。

 直後、脈打っていた珠は手にしたのがあたしだということが分かったとでも言うように、その形をグネグネと変化させ……驚くあたしを無視して、細剣の柄であろうと思うものへと変化を遂げていた。

 これは……どういうことだ?

 混乱する頭を必死に押さえながら、あたしは呆然としていたが――。


「速く乗ってティアー!」

「あ、ああっ!」


 そんなあたしへと、フィーンは元気良くそう言った。

 そうだった。今はこれよりもアルトだ! アルトの心配をせねば……!!

 そう考えたあたしは、急いでフィーンの乗るウインドゴーレムへと飛び乗った。

 すると、あたしが乗ったのを理解しているとでも言うように、ウインドゴーレムは翅を羽ばたかせて垂直に浮上し始めると……一気に飛び出した!

 って、な――なんだその速度はっ!?

 フィーン自体はあまり力を込めていないだろうし、妖精がゴーレムを創るのは力を貸してもらうだけと彼女は言っていた。

 つまりは……アリスの道具が原因かっ!!

 か、彼女は何て物を創りだしてしまったというんだーーっ!?


「~~~~~~っ!!?」


 巻き起こる風に煽られながら、あたしは心の底からそう叫んだが……風によって吹き消されてしまった。

ウインドゴーレムのイメージは、巨大な碧色のカブトムシといった感じです。

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