誘拐
慌てながら世界樹の元へとやって来た緑の光は、慌てながら何度も同じことを繰り返し続けていました。
そんな緑の光……フェーンに向けて、アタシは声を掛けます。
「どうしたのですか、フェーン?」
「たいへ――だ、だれだおまえっ!? はじめてみるやつがいっぱいい――フィ、フィンッ!?」
「フェーン、久しぶりー。元気にしてたー?」
「げんきげんきー――って、なんでいるんだってきいてるんだーーっ!!」
久しぶりにフィーンに会えて嬉しかったのか、フェーンは嬉しそうにバタバタ翅を羽ばたかせていましたがすぐにアタシたちが何故此処にいるのかとツッコんできました。
特に説明をする気も無いので、アタシはフェーンへと訊ねることにしました。
「あんなに慌てていたんですから、何かあったんですよね? 急ぎの用ならば早く言ったほうが良いですよ?」
「そうだった! たいへんなんだよっ! アルトがへんなやつらにつれてかれたんだーっ!!」
「「「「――――っ!!?」」」」
手足をバタバタと動かして、フェーンは事の重大さを語り始めました。
そして、アルトが誘拐されたという言葉に、3人のメイドとティアが驚く様子が見えました。
……ティアにいたっては、信じられないと言った表情が見て取れます。
「それで、フェーン。アルトは何処に連れて行かれたんですか?」
「わ、わかんねーよ! けど、あいつら……そらからおちてきたへんなとびらからでてきたのをみたやつがいるんだ!」
「扉、ですか……。ということは、連れて行った変な奴らというのは、邪族……ですね。
ですが、目的は……いったい何でしょうか?」
「わかんねーっていってるだろっ!! ……けど、なんかおーくみたいなやつが、ふくがどうとかいってたり……。わかりづらいあつげしょうは、まーりあちゃんとかいってたような……」
プンスコと怒るフェーンでしたが、何とか思い出して貰えたらしくそう言います。
って、如何考えてもそいつらって、あの2人……ですよねぇ。
そう思いながら、アタシはアルトを救うための騎士さまへと顔を向きます。
「……ティア。今現在、アルトは空に姿を映していた2人に連れ去られているようです。
ですから、早く助けに行かないと危ないとアタシは思います」
「あ、ああ……そう、だな……。だったら、早く行かないと……。アリス、頼めないか……?」
アタシの言葉に、ティアは歯切れ悪そうにそう応え……視線はアタシと向き合おうとはしません。
しかも、最終的には自分ではなくアタシに丸投げしようとしているようにも見えます。
アルトがピンチだというのに、何でしょうかその卑屈な態度は……。
「……それは、どういう意味ですか?」
「アタシには……アルトと会う資格なんて無いんだ。だって、彼女が褒めてくれた銀色の髪も、翠の眼も、白い肌も……もう無いんだ」
「だから、会う資格が無い。と言いたいのですか……?」
「ああ、あたしにはアルトに会う資格はな――」
――パァンッ!!
ティアが全てを言い終わる前に、周囲へと響くようにとても良い音が響き渡りました。
そして、その音の発生源は……ティアの頬であり、アタシの手でもありました。
突然叩かれたティアは驚いたように目を見開き、キョトンとした様子をしていましたが……しばらくすると叩かれた頬へと手を当て……、アタシを見てきました。
その目は、何故自分が叩かれたのかを問いたいというようにも見えました。
「……ティア、アナタ。何でアタシが叩いたかを気づいていますか?」
「分かっている。分かっては、いるんだ……けど、あたしは……」
アタシの視線から逃げるように目を背けたティアの襟首を掴むと、アタシはティアへと怒鳴りつけました。
「分かっているのに、アナタは何故動こうとしないのですかっ!? 今こうしている間にも、アルトは邪族の国に連れて行かれようとしているのですよっ!?
アナタはそれで良いのですかっ!! 会って、容姿をどうこう言われるのと、会えなくなるの……どちらが良いのですか!?」
「!? あ、あたしは……」
「その反応を見たら分かっているつもりですよっ! だったら……だったら、動けば良いじゃないですか!?
変わったアナタを見たアルトがどんな反応をするかだなんて、実際あってからじゃないと分かりませんよッ!?」
アタシの言葉に、ティアは唇を噛み締め……、クルリと踵を返しフェーンに声を掛けました。
「フェーンッ! あたしに、あたしに妖精の加護を掛けてくれっ!! アルトに、アルトに会いたいんだっ!!」
「わ、わかったっ!!」
「「「共に行かせてもらいますっ!!」」」
ティアの叫びに驚きながらも、フェーンは彼女の妖精の靴へと加護を掛けます。
すると、彼女の靴にほんのりと輝きが満たされ、飛ぶようにしてその場から駆け出しました。
その後を追うようにして、メイド3人も付いて行きました。
……、何処に扉があるのか知ってるのでしょうか……。
「……んー、やっぱり不安ですねー……。それに……」
ティア、創った物を持って行きませんでしたし……。
仕方ありません。フィーンのほうも創っておくことにしましょう。
「フィーン、アナタの武器を創るので、それが出来上がったらティアを追いかけてもらえませんか?」
「良いよー? けど、間に合うの??」
「大丈夫ですよ。アタシが創るのはほんの少しの時間ですし……、出来上がる子はきっとアナタの力になってくれますから」
そう言って、アタシは微笑みます。
すると、それに釣られたのかフィーンも笑顔になりました。
それを見ながら、アタシは水晶みたいに透き通った鉱物を取り出すと、それに魔力や神力を込めて行きました。
そして……最後に属性をぶち込み、フィーンの相棒は鼓動を開始し始めました。
「それじゃあ、行ってくるねー♪」
「はい、気をつけて行って来てください。……ご武運を」
ティアの武器をフィーンに手渡すと、彼女はティアを追いかけて行きました。
それを見届けてから、アタシは他の子の武器を創るための準備を始めることにしました……。
明日は少し遅れます。