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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
443/496

鮫の鰭

 中央広場の近くへと辿り着くと、街の住人たちはそれを遠目から見るようにして広場の外周に立っていました。

 その中を掻き分けるようにして、騒ぎの中心に向かおうと考えていたアタシでしたが――。


「おめぇら! 道を開けろッ!!」


 中央広場に響き渡るような声が前のほうから聞こえた瞬間、一斉に住人の視線がアタシたちへと向きました。

 間近に聞こえた咆哮に耳がキーンッとしたアタシでしたが、声を上げた主であるシャーグさんは堂々と立っていました。

 すると――。


「あ、シャーグさんだ!」

「ギルマスだ!」

「冒険者ギルドが来たぞーっ!! 道を開けろーーっ!!」


 そんな様々な声が周囲から響き渡ると、まるで海が割られるように住人たちは道を開けてアタシたちが通れるようにしてくれました。

 シャーグさんを先頭にアタシたちは中央広場の中へと進みました。

 ……ですが、1歩1歩進むごとに肌がピリピリとする感覚を覚え……、異常な何かがあることを知らしめるようでした。

 同じように前を進んでいくシャーグさんや他の方々も、それが分かっているのか表情が硬くなっているのが分かります。

 そして、中央広場の……空から降ってきた物をアタシは見ました。


「これは……扉、ですね……」

「ああ、扉……だな」

「それも、立派な……」

「ど、ど●で●ドア……?」


 ……何か言ってはいけない言葉が誰かの口から洩れたような気がしますが、今は気にしないでおきましょう。

 そう思いながら、アタシは扉を改めて見始めます。

 重厚な……まるで、城の中にでもありそうな立派な扉ですが、色は全てを飲み込むのではないかと思うほどに真っ黒い色をしており、上のほうに付けられた装飾も……禍々しいデザインをしていました。

 そう思っていると、ゆっくりと扉が開かれ……その奥には真っ黒な空間が見えるだけです。

 ですが、その空間に入ったら二度と元の場所には戻れそうに無い。そんな印象が胸の中に抱きました。

 そんなとき――。


「「おらぁ! どいたどいたぁっ!!」」


 アタシたちが来た方向とは別のほうから野太い声が幾つも聞こえ、同時に喧騒が聞こえ始めました。

 そして、やって来た人物を見て……シャーグさんは顔を顰めました。

 誰か知って居そうなので、聞いてみますか。


「……誰です?」

「あー……、しばらく前にあまりの素行の悪さと依頼の達成率の悪さを理由に除名した元冒険者たちだ」

「そんな彼らがどうしてここに……って、ああ……」


 言い終わろうとする直前に、彼らが此処に来た理由をアタシは察しました。

 シャーグさんを見ると……顔からして何故来たのかという理由には気づいているということですよね。

 そうしていると、彼らは門の前に近づきました。ですが、それを阻むようにシャーグさんが立ち塞がります。


「おめぇら、いったい何の真似だ?」

「あぁっ? んだよ、ギルマスか……。決まってるだろ? 俺たちは邪族の仲間入りをするんだよ!」

「テメェが除名したから、碌な仕事にも就けねぇからよぉ!!」

「だったら、邪族の仲間になって良い想いをいっぱい堪能したほうがいいだろぉ!!」

「此処じゃあ地獄、だったら向こうは酒池肉林の力が物を言う天国だ!」

「「ちげぇねぇ!!」」


 ……これは、本当に除名して良かったですね。

 何というか、荒くれ冒険者は何処にでも居るけれど……それに輪を掛けているように見えます。


「……おめぇら、いったいなんで除名されたか分かっているのか?」

「「はあ? 聞こえねぇなあ!! 知るわけが無いだろ?」」

「「だから、とっとと退きやがれ! 俺たちは扉を潜るんだからよぉ!!」」


 ……あの、シャーグさんかなり怒りかけてます?

 そう思っていると、舐めた口調でシャーグさんに退くように言っていた男が吹き飛ばされました。

 吹き飛ばされた男が噴水に頭を突っ込むのを見たところで、ようやく彼らは踏んではならない虎の尾に気づいたようでした。……此処は虎の尾と言うよりも、サメの鰭と言えばいいでしょうか?


「依頼品のピンはね……、依頼人の情報漏えい……、護衛依頼の途中放棄……かと思えば、護衛対象に手を出した……一応まともになってくれると思ってオラァ我慢してたんだぜ? けど、良くなるどころか悪化の一途を辿っていった。

 だから、オラァおめぇらを除名した。それなのに、全てオラァが悪いみたいに言いやがって……挙句、邪族になるだぁ?! 覚悟、出来てるんだろうなぁ!?」

「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」」


 そこから先は、中央広場に居た者たちの記憶に焼きつくほどの激しくも恐ろしい光景だった……とだけ言っておきましょう。

 そして、顔を膨らませてズタボロになった元冒険者の彼らは……噴水のオブジェとなりました。

 ……まあ、後で回復させるだけして、街の隅に放り投げておきますけどね。


「はあーー……! はあーー……!! …………ふう」


 そう思っていると、荒い息を整えていたシャーグさんが整ったらしく、周囲を見渡しました。

 当然、先程までの悲惨な光景を見ていた住人や冒険者たちはビクッと反応します。

 アタシですか? 当然、アタシもビクッとして直立しましたよ。

 そんなアタシたちへとシャーグさんが口を開きました。


「おめぇら! 現時点で中央広場の、この門がある場所を封鎖すんぞ!! わかったなぁ!?」

『『わ、わかりましたっ!!』』


 逆らうと怖い。そう判断したアタシたちは口を揃えて同じことを声高らかに叫びました。

 そして、その日のうちに門を囲むようにして《土壁》が張られ、邪族の仲間入りをしようと考えていた馬鹿どもを入れることは不可能となりました。

 ……ちなみに《土壁》を展開したのはアタシなので、壊すのは実質無理だろうと思います。

 それを見てホッと安堵する者が大半の中、残念そうな顔をする者が居たのも見逃しませんでした。

 ……まあ、行きたくても無理でしょうけどね。

 心でそう思いながら、アタシたちは話し合いをするために一度拠点に戻ることにしました。

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