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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
441/496

ボルとライ・5

 視界を覆いつくすほどの光と、ジュウジュウと焼ける音、そして腐った何かが充満する臭いが周囲を満たしていた。

 アタシが放った《浄化》の力が、ボルフさんとライトさんの2人の身体を浄化しているからでしょう。

 けれど肝心のボルフさんたちの声は聞こえません。悲鳴でも浄化されて安らぎに満ちた声でも良いのですが……まったく聞こえません。ですが……。


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

『かえれる……かえれるんだぁあああああ……!』

『融ける、溶けるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』

『アア……、とうさん、かあさん……いま、いまいくよ……!』

『いやだぁぁぁぁぁ! 消えるのはいやだぁぁぁぁぁぁ!!』

『ありがとう、ありがとう……』


 2人の身体に出来ていた口たちからは様々な感情が込められた声が洩れるのが聞こえました。

 苦痛、安堵、恐怖、希望、執着、感謝……そんな様々な感情が耳に届き、何ともいえない感情が心に圧し掛かってきます。

 けれど、まだです……まだだとアタシの本能が叫んでいます!

 全力を込めて……! 今、身体の中にあるある魔力が尽きても構わないから、やり遂げますっ!!

 断固たる想いと共に、浄化の光を更に輝かせながら力を込めます。


 十分が経ち……。


 一時間が経ち……。


 数時間が経過し……、辺りが夕暮れになり始めたころ……浄化の光が徐々に弱まるのをアタシは感じました。

 ……魔力が、尽きたのです……。

 薄れ始めていく光の中からボルフさんとライトさんの姿が見え始める中で、アタシは唇を噛みました。

 何故なら、2人の身体はやはり黒いまま……いえ、《浄化》の光を浴び続けていたからか身体の所々がドロドロと黒い瘴気が垂れているのが見えます。

 ただ、それだけでした……。


「はあ……はあ……はあ…………くっ……!」


 その姿を見て、アタシは歯を噛み締めながら地面を殴りつけました。

 力いっぱいに殴りつけたからか、拳はジンジンと痛みを放ち……血が滲んでいました。

 そんなアタシへと、ボルフさんが……慰めの言葉をかけてきました。


「……そう悲観するな、アリス……。お前にはわかっていないだろうが、俺たちの中に居た数多くの冒険者や兵士の魂が消えて行った……いや、浄化されていった。

 だから、お前は何も出来ていなかったわけじゃない」

「それでも……、それでも……! アタシの力で出来ると思ったのに……! 悔しい、悔しいです!!」


 ……悔しかった。転生ゆうしゃとなってから、何でも殆ど思い通り……とまでは行かなくても、それに近いことをほぼ力技で出来ていたのに、彼らを元に戻すことが出来ないだなんて……!

 悔しさを胸に抱きながら、もう一度とアタシはワンダーランドを握ろうとしましたが……それを拒否するようにワンダーランドは白兎型へと変化しアタシの手から離れました。


「そろそろ、街に戻らないと変に思われる。……少し休憩したら戻ろう」

「………………はい」


 ボルフさんの言葉に頷き、アタシは表情を暗くさせたまま……しばらく休憩を行いました。

 休憩を終え……アタシたちは来たときと同じように素早く移動を開始し、街へと戻りました。

 そして、2日間の休息を経て、報奨金の採算がついたとカラアゲさんの秘書さんから告げられ、報奨金を受け取り……彼らは街中へと消え、きっとこの日の間に出て行くことでしょう。

 そんな彼らの背中を見ながら、何も出来なかったことへの悔しさと共にボルフさんに言ったように諦めないことを誓いました。

 絶対に、また会ったら……今度こそ元に戻してみせます。


 …………まあ、その後いろいろあったので、今に至りますがね……。

 今なら、治すことが出来るかも知れませんが……2人は今頃どうしているでしょうか……。

 そう思いながら、アタシは彼女たちへと語り終えました……。


 ●


 その一方で、ボルとライ……ボルフとライトは魔族の国の山沿いにある洞窟の中に隠れるようにして暮らしていた。

 しばらく前までは、ある集落同士の戦いを止めるために行動していたが……彼らの行動空しく、その集落は族長が死に潰えてしまったのだった……。

 そして、それをやった人物の笑い声が忘れることが出来なかった……。


「……悔しい、ものだな……。歯車が噛み合わなくなっただけで、互いが互いを信じられなくなるだなんてな……」


 ボルフが呟くと、ライトは頷いた。

 本当は声を出して話したいだろうが……、今の彼には彼自身の口は存在していない。

 パチパチと、焚き火の中の木が小さく爆ぜる音が洞窟内に響き渡る中……、洞窟を満たすように笑い声が聞こえ始めた。


『『ハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハ!』』

「「――っ!?」」

「な、なんだっ!?」


 響き渡る笑い声に2人は驚き、ボルフは周囲を見渡した。

 しかし、声の主は何処にも居なかった。……だが、あることに気づいたライトがボルフの仮面を指差した。

 まさかと思いつつ、ボルフは仮面に触れると……仮面は震えており、そこから声が響いた。


『さ~ぁ、遊びの時間は此処までだ~ぁ。今まで自由にしていたんだから、今度はおれっちのために動いてもらうぜ~ぇ?』

「なっ!? い、いったいなにをす――――ぐああああああああああッッ!!?」


 わけが分からない。そう思いながら、喋り出す仮面にボルフは問い質そうとしたが……それよりも先に頭の中が掻き混ぜられるような感覚に襲われた。

 その彼の近くではライトも頭を押さえて居るのが見えることから、2人同時に何かが起きているのが間違い無かった。

 けれど、それに何とか抗おうと2人は必死に耐えようとしたが……、しばらく時間が経つと……ゆらりと立ち上がり、2人は何も言わずに出口に向けて歩き出した。

 そして、出口に待っていた存在へと頭を垂れると……、2人は主に忠誠を誓う騎士のように膝を突いたのだった。




黄色が赤色になったよ!(謎

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