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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
440/496

ボルとライ・4

「その後は何とか動けるようになるまでに半年のときが掛かり、動けるようになったとしても自分自身がどうなっているのかを知るために時間を要した。

 そうすることで時間は瞬く間に経ってしまい、気づけば2年半が経過していた。

 その後は、目覚めた場所から離れて、魔族の国を見て周りつつ村や街を襲うモンスターを倒したりして、お金を貰っていた。……まあ、お陰で今の身体の使い方が分かったがな……」


 そう言い終え、ボルフさんは黙りました。

 ……色々、あったんですね。波乱万丈……と言った感じでしょうか……。

 耐え難いまでの悲惨な苦労を感じつつ、アタシはボルフさんたちを見ますが……アタシはどんな風に彼らを見ているのでしょうね……。

 衝撃的過ぎて感覚が少し麻痺しているようです。

 ……こうなってしまったことに対する哀れみ? それとも、再会出来たことへの喜び? はたまた、気になることが多すぎるという意味での疑問?

 ううん、分かりませんね……。


「……そんな今にも泣きそうな顔をするな。確かに俺たちはこうなってしまったが……、お前も色々とあったんだろう?」


 ……どうやら、哀れみと悲しみが混ざり合っていたようですね。

 ほんの少ししか一緒に居なかったけれど、濃厚すぎる数日間でしたからボルフさんとの思い出は大事なものです。

 ……そういえば、アタシの母は今頃どうしてるでしょうか……。きっと無事である……と思いたいですね。


「それで、聞きたいこととかはあるか?」

「っ! え、っと……そう、ですね……。

 あ、着ている服ってどうしたんですか? 聞いた話だと、スッポンポンだったんですよね?」


 …………な、何を聞いてるんだアタシはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 とりあえず、何を如何聞いたら良いのかって思いつかなかったからって、それは無いでしょそれはぁぁぁぁっ!!

 心からアタシが思っていると、ボルフさんもアタシという人間を知っちゃってるからなのか微妙そうな……きっと仮面の下は苦笑してることでしょう。

 って、待ってください待ってくださいボルフさん! アタシ、アナタと過ごした日々はとっても痛々しい子供だったんですからぁぁぁっ!!


「……さすが、アリスだな」

「さすがってなんですかぁぁぁぁ!?」

「いや、すまない。……だが、久しぶりにこういうやり取りをしたな……。

 やはり、良いものだ……。っと、服だが、仮面を与えた人物が一緒に渡してきた。といったところだ」

「そう、ですか……。いったいどんな人物なんでしょうね、その人物は……」


 ボルフさんの返答に答えながら、アタシは彼が付けている仮面を鑑定しようとしましたが……。


 ――持ち主の意思により、弾かれました。


 その一文のみが出るだけでした。

 これは……どういうことでしょうか? 仮にもアタシの持つ鑑定は最大レベルのはずです。

 それなのに、まったく見えないなんて……。

 仮面をつけた人物……、油断なら無い相手のよう……ですね。

 心のメモ帳に、アタシは仮面をつけた人物に注意を払うことを書き込みますが……役に立って欲しいものです。


「他にはないか?」

「では……、次にその身体はどうやって食事をしているのですか?」


 ……もう聞けることが出来るところまで聞くことにしましょう。

 ……ぶっちゃけると自棄になりましょう!!


「お、お前というやつは……。まあ、いい。俺たちの食事だが……」


 ボルフさんも観念したのか、アタシの質問に次々と答えてくれました。

 ……ちなみに、食事は人の身体をしていたとしてもスライムのようなものなのだから、何処からでも食べることが出来るらしいですが、見えないところで行いたいらしいです。

 その一方でアタシもアタシ自身に何があったのかを、色々と話しましたが……予想通りと言うべきか呆れ返っていました。

 けれど、その様子はどこか嬉しそうに見え……アタシも微笑みます。

 そんな中、アタシは彼らへと尋ねました……。


「あの、もしも……もしもアタシがサリーたちに会うことが出来たら、ボルフさんたちのことはどう言えば良いでしょうか……?」

「…………、……すまないが、アリス……」

「はい」

「あいつらに会うことが出来たら、俺たちは死んだ。そう言って欲しい……。理由は、わかるよな?」


 理由は、分かります。

 再会を誓ったけれど、こうなってしまっては自分は死んだも同然。

 だから、サリーたちには悪いけれどボルフとライトは死んだ。そう言いたいのでしょう。


 ………………ふざけるな。


 沸々と心の中に苛立ちがこみ上げてくるのが分かります。

 何勝手に諦めてるんですか? 何勝手に言ってるんですか?

 本当は会いたいんですよね? けれど、変わり果てたその姿を見られたくないんですよね?

 愛ゆえの哀だと言うのは分かります。

 けどね……。


「ゆうしゃの前で、何勝手に諦めてるんですか!! 抗ったんでしょう!? 消えたくないって抗ったからこうなったんでしょうっ!? だったらアタシは諦めませんよっ!!」

「ア、アリス……。だが、もう――」

「黙っていてくださいっ!! 無理だなんてやってみないとわからないじゃないですかっ!?」


 そう叫び、アタシは声を上げます。


「来なさい、ワンダーランドッ!!」

「なっ――!?」


 直後、アタシの手には大扇型のワンダーランドが現れました。

 それを握り締めると、アタシは苛立ちを発散するかのごとく魔力を自分自身とワンダーランドとで巡回させます。

 よっぽど怒っていたのでしょう。アタシの感情のようにワンダーランドは紅く光り輝くとドクンドクンと脈打ち始めました。

 その脈打つほどの魔力を放つべく、アタシは大扇を開くとボルフさんとライトさんに向けて一気に『聖』の属性を与えた魔力を解き放ちました。


「――《浄化》!!」


 瞬間、アタシの視界……と言うか、周囲は眩い光に包まれました。

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