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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
439/496

ボルとライ・3

 ドラゴンモドキが融けた黒い水のような物が迫りくるのをようやく頭が認識をし、俺は内心焦るのを必死に抑えつつ……周囲へと叫んだ。


「オメェら! どこか高台に逃げろっ!! 何かヤベェ……絶対に触れるんじゃねぇぞっ!!」

『『『お、おうっ!!』』』


 周囲から聞こえた声に頷くと、俺はライトを抱えたまま……急いで黒い水から逃げるために駆け出した。

 さっき、周りにヤバイと言ったが……それは本能が危険を告げたからだ。

 たかが本能と言われても仕方ないかも知れないが、冒険者は本能に従って動くのが生き残る秘訣だと思う。

 事実、逃げ遅れた冒険者が黒い水に呑み込まれたのを見た瞬間――、それは確信に変わったのだ。


「う、うわっ!? た、助けてくれっ! 助け――」

「お、おいっ! 大丈夫か、しっかりし――ひぃっ!?」


 呑み込まれた仲間を救うために近づいた冒険者だったが、そいつは見たんだ……目の前で呑み込まれた冒険者の身体がドロリと融け始め、黒い水と同じような物体に変わるのを。

 そして……。


「や、やめろ……く、くるな! 来るんじゃ――ぎゃああ……あ……あ……A」


 変わり果てた冒険者が助けようとしていた冒険者を襲い、呑み込まれていくのを俺は見た。

 一瞬、俺を見る瞳が恐怖に彩られながらも、助けを求めるように感じたが……俺には出来なかった。

 逃げるしかないのだ、俺は逃げるしか……!


「くそっ! くそっ! ちくしょうがっっ!!」


 周りから悲鳴と共に徐々に声が聞こえなくなり、更には足音が少なくなっていくのを感じながら……俺は何も出来ないであろう自身の不甲斐なさに唇を噛み締める。

 口の中に鉄の味……いや、血の味が溢れるのを感じるところから、多分切ったのだろう。

 そして、逃げ続けた俺は、ついに八方ふさがりな状況に追い込まれてしまったのだった……。


 山に面した辺りに立つ俺の視界は、黒。黒。黒。黒い水……いや、元は冒険者や兵士たちだった化け物に埋め尽くされていた。

 奴らには意思があるのか、呻くように声にならない声を上げながら徐々に徐々に俺たちに近づく。

 ジリジリと俺たちの距離は詰められて行き……、ついに黒い水は俺の足に貼り付いた。

 直後、俺の足の感覚が無くなり――支えが無くなった身体は片膝を突き、片手が黒い水に付いた。


「ぐ――っ!! が、ああああああああああああっっ!!?」


 その瞬間、俺の身体の中に侵食するように黒い水は身体の中へと入り込んできた。

 そう……か、あいつらは呑み込まれたのではなく……、侵食、されたのか……。

 手の中に黒い水が浸み込んだ瞬間、人の形を保てなくなったのか手はドロリと黒い水の中へと消えた。

 ああ……これはもう、助からない……。……ダメ、なのか? 俺たちはもう……だめなのか?

 冒険者になってから何度も絶体絶命の状況は味わった。けれど、これは……もう無理だろうか?

 そう心が絶望し始めたとき、俺の耳元で囁く声が聞こえた。


「あき、らめたら……だめ、です……ボルフ、さん……!」

「っ!! ライト、気が付いたのかっ!! 大丈夫……じゃあ、なさそうだな……お互いに」


 首を動かし、俺はライトを見た。……ライトも、俺と同じように黒い水に呑み込まれようとしていた……。


「は……い……。まったく……動けませんね……」

「そう……か。どうにか、出来るかと思ったが、無理そう……だな?」

「は、い……。身体が……、融けていく感覚が……あるだけ、です…………」


 ライトの言葉に、俺は何も言えなかった。……事実、俺も身体が融けていく感覚があり、俺という存在が消える。

 そんな感じがしてたまらなかった。

 ……怖い。これは、どうしようもなく、怖かった……。

 この世界から、自分が消える。こんな、簡単に……消えるのだ。

 身体が震える。今にも叫び声を上げて助けを求めたい……! けれど、ライトは泣き叫んでも居ない。

 ……ただただ、目を閉じているように見えた。


「……怖く、無いのか?」

「……怖い、ですよ? もう、ルーナにもシターにも……会えない。そして、ヒカリには……もう絶対に会えない……。その上、ぼくがぼくじゃなくなっていくのが分かるんです……。

 だけど、ぼくはぼくなんだって……必死に抗ってみようと思っているんです……」

「抗う……だと?」

「はい。ぼくたちがどうなるかは分かりません。けれど、ぼくがぼくである。そう信じ続けていれば……何かが起きると、信じているんです」

「自分が、自分……か……。そう、だな……」


 信じて、みるべきだよな……。

 ライトにそう言い終わる前に、俺の顔はついに融けてしまい……人の形ではなくなっていった。

 ライトも……黒い水になったのを見たのを最後に、俺の意識も黒い水の中へと融け込んでいった……。


 ◆


 ぐるぐる、ぐるぐると。黒い水の中で、俺の意識は回り続けていた。

 おれは、だれだ? にんげん、にんげんだ……! にんげん、って……なんだ……?

 にんげってのは……なんだ……?

 おれのなまえは、なんだ……? おれのなまえは、ボルフ……だ。

 わす、れるな……おれのなまえ、ボルフというなまえを……わすれるな……!


 消えそうになる、自分という存在を必死に繋ぎ止めつつ……黒い水に溶け込んだおれは、何日が経ったのだろうか……?

 数年? 数十年? 数百年……?

 あいつらは、げんきにしているのだろうか……? あいつらって、だれだった……?

 あいつらは……あい、つらだ…………。

 様々な人間の顔が浮かぶ。男だったり、女だったり、見覚えがある人物、無い人物……。

 これは、おれの……きおく、なのか……?

 わからない、わからない、わからない……。


 ――そんなある日、俺たちの前に気配が感じられた。


『は~ぁ。め~ぇずらし~ぃですね~ぇ。未だ意思を保っている存在が居ますね~ぇ。

 おれっちの予想外の出来事だ~ぁ』


 だれだ、だれだ、だれだだれだ。

 初めて聞く声に、最近動かすことが出来るようになった目を動かすと……仮面を被った者が居た。


「お~ぅ、おれっちの気配を読んだので~ぇすか?

 これは良い素材になりそうで~ぇすね~ぇ」


 楽しそうに仮面の人物が言うと、懐からそいつが付けている物そっくりな仮面が2枚取り出された。

 それを……おれたちの身体に貼り付けた。

 その瞬間――、仮面に群がるようにして俺ともうひとりが集まっていくのを感じた。

 ……そして、俺たちが纏まり、黒い水が人の形を2つ取ったときには……俺と、ライトだったモノがそこに居たのだった。

あらま、今回のメンテナンスで色々設定画面変わっていますね。

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