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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
創製の章
438/496

ボルとライ・2

「――――ッッ!!? こ、これは……」

「これが、今の俺の身体だ……」


 仮面を外し、上半身を露わにしたボルフさんを見た瞬間――、アタシは息を呑みました。

 何故なら、肉体は人が出せるような色ではないほどに……夜の闇よりも黒くなっており、黒い肌はブヨブヨとした……まるでスライムのような質感に見え、その肌に浮き出るようにして……無数の目、目、目。鼻、鼻、鼻。口、口、口。顔、顔、顔。

 きっと、その姿を見たら……悲鳴を上げることでしょう。

 そして……、ボルフさん自身の顔も歪んでおり……ボルフさんだと微かに解るぐらいで……何とか人の形を保とうとしてる。

 そんな風に見えました。

 隣ではライさん……いえ、ライトさんが仮面を外していましたが……その顔には口は無く、鼻も無く……ただ、無数の眼が動いているだけでした。

 そんな時、空気に触れたボルフさんの身体に生えた鼻のひとつがピクリと動いた途端……無数の鼻が動き始め、パクパクと無数の口が動き、ギョロギョロと無数の目が動きました。

 そして、無数の眼がアタシを捉えると、パクパクとした口が声にならない声を発し始めました。

 けれど……アタシにはその声が聞こえてしまったのです。


『助けて助けて助けて怖い怖い怖い女女女けけけけけけクヒヒヒヒヒヒ犯せ犯せ犯せ身体身体身体はどこだどこだどこだなんでこんなめになんでこんなめになんでこんなめにとうさんかあさんあヴぁえみrんごあ』


 怨み、恨み、憾み、助け、恐怖、性欲、後悔、家族や恋人の名前、そんな様々な感情が込められた声にならない声はアタシに重く圧し掛かりました。

 な、なん……ですか? これは……ひとりじゃない、ふたりでもない……数十人? 数百人? いえ、それ以上……そんな視線と声を感じ、アタシの身体が恐怖を感じ始めたのか……ガクガクと震えます。

 ……そんなアタシの様子に気づいたのか、2人は何も言わずに服を着込み直し、仮面をつけました。

 それによって、視線の重圧は消え……声は聞こえなくなり、気配は……2人だけのように感じられます。

 失礼な態度をしたアタシは謝るべき、なのかも知れませんが……そのタイミングをアタシは外してしまいました。

 だから、アタシは震える声で……2人に訊ねます。


「……それで、何が……あったのですか……?」


 アタシの問い掛けに、感覚を置き……ゆっくりとボルフさんは口を開きました。


「……アレは、3年前のことだ」

「3年前……、聞いた話だと人間の国が魔族の国に戦争を仕掛けたとき……ですね?」

「そうだ。あのとき、俺たちは戦争の最前線に居た……」


 そう言って、ボルフさんは3年前を昨日のことのように思い出しながら喋りました。

 ……その話は、あまりにも人間の王の馬鹿らしさが伝わる話だったとしか言いようがありません。

 そして、サリーたちが崖から落ちたのを聞いて、アタシは驚きを隠せませんでしたが……生きていると信じることにしました。

 多分、ボルフさんたちもそう信じていることでしょう。

 そして、そこから彼らに何が起きたのかが語られ始めました。


 ●


「小父さん! フォードくん!! 聞こえていたら、ライトさんをお願い、します……っっ!!」

「サリーッ!!」

「サリーさんっ!!」


 崖から落ちたサリーが必死に叫んだであろう声が俺の耳に届き、直後ライトが空中に飛ばされてきた。

 きっとサリーがやったのだろう。

 けれど、このままだとライトの奴は再び崖に落ちてしまう! ……サリーの頑張りを無駄には出来ねぇ!!

 俺は駆け出すと、ライトを抱き抱えて地面が崩れていない場所へと駆けた。

 だが、それとは逆に崩れた崖へと駆け出す馬鹿が居た。


「ッ!? フォード! 何やってるっ、戻れっ!!」

「すんません、おやっさんっ! オレ、オレ行かないと……!」

「何を言ってやがる! 死にたいのかっ!!」

「死にたくないですよっ! けど、サリーさんが居なくなるほうがもっと辛いんですッ!!」


 俺の声に負けない大きさでフォードは叫ぶと、崖へと駆けて行く。

 そんな馬鹿を見つつ、俺は叫んだ。


「だったら、生きろっ!! 生きて、サリーと共にもう一度俺の前に来いよっ!!」

「――はいっ! 絶対、おやっさんのところに帰ってきますッ!!」


 そう叫びフォードは崖下へと飛び込んでいった。――へっ、大きくなりやがって。


「生きて帰って来いよ……」


 ポツリと呟き、俺は急いで気を失ったライトを抱えてその場から離れることを決意した。だが……。

 俺は目の前の光景に、頭を抱えたくなりつつ、自分たちを見ているであろう神様へと恨み言を呟く。


「……くそっ、神様……恨むぜ!」


 何故なら、俺の目線の先ではあれほど苦戦していた巨大なドラゴンモドキと呼ぶべきモンスターが、迫ってくるのが見えたのだから……。

 これは、諦めるべき……だろうか? 周りから聞こえる悲鳴に俺の心は折れそうになる。

 フォード……、サリー……ッ!

 そう……だよな。生きて帰って来いと言った本人が、諦めて……どうするってんだよ!

 俺は息を吸い込むと……、混乱している冒険者たちに声をかけた。


「落ち着けオメェらーーーーッッ!! 俺たちは何だ? 冒険者だろう!?

 冒険者ってのは死ぬのが仕事じゃねぇ?! 生きて帰って、ギルドに報告してこそ冒険者ってもんだ!!

 だから、オメェら! 死ぬ気で生きろっ!!

 それに兵士ども、お前らもだ!! 怯えるだけなら逃げろ! 逃げて逃げて逃げ延びて、今を生きろ!!」

「そ、そうだ……、おれは……生きる! 生き延びてみせるっ!!」

「妻と子供が待ってるんだ! 私の帰りを……!!」

「逃げ延びてやる! 逃げ延びてやるぞぉぉぉぉぉっ!!」


 混乱していた奴らの心に火が付くのを感じ、俺たちは逃げることを決意し駆け出そうとした。

 だが、そんな俺たちを嘲笑うかのように……ドラゴンモドキの身体が突如震えると、黒い水のように融けだしたのだ。

 突然のことに驚き、身動きを取れなかった。

 多分、その時点で俺たちは終わっていたのだろう。




……ヤバイ、またもスランプなりかけてる。

頑張れ、頑張れ私のなけなしの想像力……!

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