教えて、アリス先生(後編)
ギリギリと痛むと同時に、じんわりと治癒の効果が効いているのか痛みが無くなってきているのですが……やはりまたサリーの抱きつきで痛みが治まりません。
……無理矢理引き剥がせば良いと思います。けれど、すごく嬉しそうに腕にすりすりと頬をつけて、獣人特有の尻尾をブンブン振っている彼女を見たら引き剥がそうにも出来ませんでした。
そう思っていると、逸早く呆けていた顔から立ち直ることが出来たらしいヒカリさんがバンッ! と机を叩いて立ち上がるとアタシを見ます。
「ちょっ! ちょっと待ってよ!? あ、あにきが神様!? それってどういうことなのっ!?」
「……その前に、ヒカリさん。アタシのことはアリスと呼んでください。アタシはアナタのお兄さんでもありますが、アナタにとってのお兄さんは彼だけですから……ね?」
「…………よ、良く分からないけど……、それが良いってのは、分かった。……アリ、ス……」
「はい、それでアタシが神様だと言いましたが……、正直なところ何が原因でそうなったのかは分かりませんが……ワンダーランドは神様と言っているんですよね」
納得し切れていないヒカリさんにアタシはそう言いつつも、自身の身体はもう人の姿をしているけれど人では無くなっていることに気づいているので、とやかくは言えません。
アタシ自身説明し難いことなので、そう言うと納得していない様子ながらもヒカリさんは椅子に座りなおしました。
っと、トールの知りたがっていたことをキチンと話ししないといけませんね。
「それで、トールの聞きたかったことですが……何でしょうか?」
「う……ん。あの、ね……。あの、人に……つい、てた仮面。……じゅしんき、って言ってたんだけど……どういう、こと……だったの、かなぁ……って?」
……そんなことを言ってたのですか、あの仮面……。
そうですね。とりあえず、戦うことになるんですし……言っておいたほうが良いですよね。
「じゅしんき、ですか……たぶん、それは遠くのものを受け取ることに特化した物だと思います。
そして、それが受信と言っており、アタシが見たアークの様子からして……あの仮面によって、アークは邪神の力の一部を貰ったのだと思います。それが急に強くなったわけ……でしょうね」
「邪神……だと? アレで一部だというのかっ!?」
信じられなかったらしく、ロンにしては珍しく大声で叫びながら立ち上がりました。
そして、神域の心地良さに何時の間にか転寝をしていたタイガがビクッとして目覚めました。
「――――ッ!!? な、なんだっ!? て、敵かっ!? ……あ、あれ?」
「タ、タイガ……あんたって奴はぁ…………っ」
「フェ、フェニ? な、なんで怒ってるんだ……? ――って、痛っ! 痛い、痛いから!!」
「あんたが怒らせるようなことをしたからでしょうがーーーーっ!!」
怒り狂ったフェニに掴み掛かられたタイガを見ながら、アタシはとりあえず……休憩を挟むことを考えました。
そして、それを提案するとほぼ全員が賛成すると、シターさんがお茶を淹れるために席を立ちました。
ちなみにタイガはフェニに顔面を掴まれており、それをトールが止めようとしているのですが……上手く行かないようです。
……とりあえず、ご愁傷様と思っておきましょう。
「――――ふう」
差し出されたお茶で口の中を潤しつつ、アタシはあることを考えていました。
……それはドウケの仮面、受信機、そして……キュウビの身体を借りていたときに出会った2人のことです。
ボルとライ……、彼らには仮面が付けられていた。
あのときは、顔を隠すために付けている物だと思っていましたが……多分、違いますよね。
……正直、気のせいなら良いのですが…………アタシの勘が嫌な予感を告げています。
妙な不安を抱きつつ、アタシはヒカリさんたち3人を見ました……。
彼女たちはお茶を飲んでリラックスしたのか、落ち着いた様子でした。
「はあ……本当に良かったわ、ヒカリちゃん。ヒカリちゃんまで居なくなったら……わたし……」
「大丈夫だってば、ルーナ姉。ボクは死なないし、たとえ死んだとしても無事だったんだからさあ。ほら、この通り身体のほうもピンピンしてるしっ」
「け、けど、身体は無事でも……心が無事じゃなかったりするって、思いますっ! 本当に……無茶だけは――」
「本当に大丈夫だってばぁ! まったく、ルーナ姉もシターも心配しすぎだよ!」
自身を心配してくれる。それは嬉しいようでしたが……何度も言われ続けて、些か困っている。そんな風にアタシはヒカリさんの様子を見て、そう感じました。
そんな彼女たちには、少し酷かも知れませんが……話をするなら今だと思うので、話すことにしましょうか……。
「ヒカリさん、ルーナさん、シターさん。3人に話しておきたいことがあるのですが……」
「「「話しておきたいこと??」」」
「はい、ボルフさんと……ゆうしゃライトさんのことで――」
言い終わる前に、長机に身を乗り出して3人は詰め寄ってきました。
「ライくんのっ!?」
「ライトを知ってるのっ!? 答えてよ、アリスッ!!」
「おっ、教えてくださいっ!!」
「お、落ち着いてください3人とも……、話します。話しますから……!」
その鬼気迫る気配にアタシは驚きつつも、彼女たちを宥めようとします。
けれど、それでも3人はアタシにますます掴み掛かり、ゆうしゃライトさんのことを訊ねようとします。
……数分後、フォードたちに取り押さえられ、ようやく暴走していたことに気づいた3人は気まずそうに席に座りました。
「……ふう。た、助かりました」
「いや、別にかまわねぇけど……、おやっさんのことも話してくれるんだよな?」
「ええ、……というよりも、おもいでテレビを見ていたなら分かると思いますが……」
そう呟いてから、アタシは話をすることにしました。