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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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絶望を打ち砕く者・1

前半サリー、後半アリスです。

 朦朧とした意識の中、ワタシは再び立ち上がろうとします。

 ですが、何度も受け続けたアークの一撃はダメージを身体全体へと浸透させ続け……立ち上がろうとした脚から力が抜けて崩れ落ちます。

 立ち……上がらないと……、そうしないと……師匠が、師匠が…………。

 そんなボロボロでも立ち上がろうとするワタシを嘲笑うようにアークは気味の悪い笑い声を放ちながら、喋ります。


『アヒャHYA、どうした如何シタ? ATOはテメェだけダゼェ? ほらHORA、立ち上がってミロッテ』

「……い、言われなくても……立ち、あがり……ぐっ」


 後はワタシだけ……良く見えませんが、きっとワタシ以外はもう倒れているのでしょう。

 だったら、だったら尚更倒れるわけにはいきません。ですが……身体はもう動かず、意識がより混濁とし始めているのか……目の前がグニャリと歪んでいくのが分かります。

 けど、だけど……倒れるわけには……いかないんです……!


『OH~、立った立ッタ。んJAア、何処まで飛ぶかNA~ぁ?』


 殆ど気力だけで立ち上がったワタシですが、そんなワタシの身体を吹き飛ばそうとアークは腕を振り上げました。

 それに対して防御する体力も無く、ワタシはふらふらと揺れながら迫り来る死に恐怖します……ですが、絶対……絶対に目の前の敵には弱みを見せたくない。

 そう思いながら、相手を睨みつけます。そして、アークはそんなワタシを嘲笑うと……腕を横から力いっぱいに振るって来ました。


『さあ、吹っ飛べYO~!』


 ……ああ、これは…………本当に、マズいかも知れません……。

 師匠……ごめん……なさ…………。


 ――そのとき、ワタシへと……風が吹きました…………。


 そして、ワタシの視界には――吹き飛ばされたアークの腕が見えました。その直後、ワタシの身体は誰かに抱き抱えられ……そのまま視界は夕焼け空へと変わりました。


「…………え? ……え?」


 いったい何が起きたのか、それが分からないまま動き始めた周囲にワタシは戸惑いつつも、こんな馬鹿げたことが出来る人物に心当たりがあったために、ゆっくりと自分を抱き抱える人物を見ます。

 その人物は、アリスさんに近い顔立ちをしていますが……彼女よりも幼く、少女と呼んでも差支えが無いように思え、けれどアリスちゃんのように獣人の耳が頭に生えていません。

 だから、ワタシは……理解しました。ああ、帰ってきた……帰って、来てくれたんだ……!

 ワタシの視線に気づいた彼女は、ワタシを見ると……優しく微笑みます。


「久しぶり、サリー……。ただいま」

「しっ……っしょう……!」


 師匠だ……師匠です……! 師匠が、師匠が帰ってきてくれたんだ……!!


 ◆


 ……ふう、間に合って良かった。

 そう思いながら、アタシは泣き崩れるサリーを見ていた。

 ……顔も、身体も…………すごく傷付いており、酷いところでは骨が折れてたりしているように思えた。

 ああ、この人は……ううん、彼らはアタシが目覚めるのを信じて……戦ってくれていたんだ。

 地面に倒れ伏して動く様子が無いフォードやロン、シターたちを見ながら、アタシはありがたいと言う気持ちと同時にもう少し目覚めるのが速ければという気持ちが溢れるのを感じた。


「けど……けど、今なら何とか出来る……ううん、やってみせる!」

「師匠……」


 アタシの言葉が聞こえたのか、サリーは意識が混濁としているようだけれど心配そうにアタシを見ていた。

 そんな彼女へとアタシは優しく頭を撫でる。


「サリー、お疲れ様……。今は少し休んでて」

「いや……です。だって……師匠、また……いなく…………」

「……大丈夫。今度はアタシは居なくならないから、約束だってするわ。だから、安心して休んでて」


 甘えるように胸元に顔を沈めるサリーを宥めつつ、アタシはクソ虫を見た。


『ぎゃAAAAAAアアアアああああああっ!!? う、腕が! オレ様のUDEがあああぁぁぁぁぁあぁっ!!』


 どうやら、腕が斬られると思っていなかったらしく、痛みに悶え苦しんでいた。ざまぁみろ。

 そして、サリーはアタシの言葉を信じてくれたのか、それとも限界だったところにアタシが現れて緊張の糸が切れたのかアタシの胸の中で眠っていた。

 そんな彼女に《回復》と《治癒》をかけると……痣が出来ていた箇所が血色を取り戻し始め、血が流れていた傷は塞がれ皮膚が再生し……、更に折れていた腕が綺麗に繋がり、負っていた傷が全て消えて彼女の身体を元通りへと変化させた。


「……良かった。さて、次はフォードたちですね。ワンダーランドッ!」

『ブウッ!』


 アタシの言葉にワンダーランドは鳴くと、自身の身体を白兎型からしばらくぶりに見たクロスボウの形へと変化しました。

 それにアタシは魔力を注ぎ込むと一瞬で全ての珠は光を溜め込み、その速度に驚きつつもすぐに『聖』の属性を込め……。


「お願い、皆を癒して! 【トランプナイツ】!!」


 無尽蔵に溢れてくる魔力を使い、アタシは《回復》と《治癒》の魔法が込められた癒しの魔力矢を撃ち出すとそれらは仲間たちに向けて放たれた。

 癒しの魔力矢はフォードやロンたちに突き刺さると、彼らの身体の中へと吸い込まれていき……傷付いた身体を癒して行きます。……まあ、栄養とかスタミナとかは回復していないので、休まないといけませんがね。

 癒されていった彼らを見つつ、バラバラの場所……それも大きな戦闘を行うだろう場所に置いているわけにはいかない。そう思いつつ、アタシは今なら出来るであろう魔法を使います。


「……とりあえず、場所は……魚人の国? なるほど、そんな場所が……」


 ワンダーランドに教えられて、アタシはまずはサリーを送り届けます。

 場所は、サリーたちが魚人の国のギルドに貸して貰っているというアパートみたいな家。


「終わったら、会いに行きますから……安心してくださいね。……《転移》!」


 アタシの言葉を皮切りに、サリーの身体はその場から消えました。

 そして、そのまま他の人たちも一気に送り届けましょう。


「そこの転生ゆうしゃのかたたちっ! 今から《転移》を行いますので、気絶した彼らをお願いします! あと、文句は受け付けませんから!!」


 何かを叫んでいる彼らを無視して、アタシはそう叫ぶとワンダーランドから転移の魔法矢を放ちました。

 魔法矢が刺さったフォードたちや転生ゆうしゃが消えていくのを見てから、アタシは地面に降り立ちます。

 ……そういえば、光が居なかったような……。でも、大丈夫だと思っておこう。

 そう思いながら、アタシは気持ちを切り替えてクソ虫を見ます。

 クソ虫は、腕を再生させたのか変な液体を地面に流しており……、ヌメヌメとした腕が見えました。

 そして、アタシを憎々しそうに見ています。


「さてと、害虫駆除といきますか……!」


 そう呟いて、アタシはやる気を出しました。むろん、殺す気である殺る気も出しますよ?

 だって、サリーたちをあんな目に合わせたのですからね…………!

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