絶望を晴らす者たち・15
※視点は、アリスの中の人
パリン、パリン……と何かが砕け散る音が響き渡り、まどろみに浸っていたオレの意識は段々と覚醒へと導かれた……。
「んっ……、あ……あれ?」
目を開けると、オレの視界には真っ暗闇が広がっていた。
何も無い、真っ暗な……いや、ひび割れを起こしたような地面とガラスみたいな欠片らしき物が空から降って来ているのが見える。そんな場所だった。
「何だか、長い時間……眠っていたような気がするな…………」
ポツリと呟きながら、オレは眠る前までの記憶を掘り起こそうとした。……けれど、まるで記憶という物が霧状になっているとでも言うように、掴もうとするとオレの手の中から消えて行った。
くそ……っ! いったい、如何いうことだ……?!
「思い出せない……何も、何も思い出せない……! ダメだ……忘れちゃいけないことがあったような気がする……それなのに、思い出せない……!」
っ!! そ、そうだ。忘れちゃいけないこと。それは確かにオレの中にあったはずなんだ……いや、オレの中というよりも……隣に……、そうだっ!
隣に……、オレの隣に何時も誰かが居たはず。居たはずなんだ……!
でも、誰だ……? 誰が居たんだ……?
「女の子……だった気がする。けど、どんな顔でどんな声だったのか……思い出せない」
呟きながら、オレはいまだ空から地面へと落ちてくる欠片を見た。
何故だか分からない。分からないけれど……、その欠片はオレから彼女を引き離し……オレと彼女の命を奪い取るように思えた。
そして、一度思ってしまったが最後、オレにはその欠片がそういう風に見えて仕方なくなってしまっていた。
だからオレは、そんな欠片が降る場所に居たくは無く……気がつくとその場から逃げるように駆け出していた。
「はあ……はあ……はあ……ッ!」
走って走って走り続けたオレだったが、100メートルを全力で走ったか走らなかった辺りで、息切れを起こし……心臓はバクバクと激しく音を立てていた。
お、おかしい……。前までなら、たった100メートル一瞬で移動できたはずなのに……如何いうことだ?
いや、それともあっちのほうが変だったのか……?
モヤモヤとした感覚を感じながら、オレは自身に感じる違和感に首を傾げながら、立ち止まった。
「いったい、どういうことだ……? それに、ここはいったい……え?」
オレは、確かに100メートルは走った。そのはずだ……、事実少し落ち着いてはきたけれどまだ息が整っていないのだから。
それなのに、オレ自身一歩も動いていなかったとでも言うみたいに、オレはついさっき目覚めた場所だと思う場所に立っていた。
ど、どういうことだっ!? オレは、動いていなかった……というのか? それとも、ここに戻ってきてしまうとかなのか?
……いや、多分違う。何となくな勘だけれど……それは違うような気がした。
というよりも、今ここにある世界はここしかない。何故だか……そんな気がしたんだ。
「じゃあ……、オレはずっとこのままここに居ないといけないのか……?」
この、真っ暗で何も無い世界で……自分が何なのか、隣に居た少女が誰なのか分からないまま、居続けないと行けないのか……?
いや、それはダメだ。ダメな気がするんだ……!
オレにはやらないといけないことがあるはず。あるはずなんだ……!
けど、それはいったいなんだった……? オレは、何をしないといけなかったんだ……?
そんな悶々と悩み続けるオレの袖が不意に引っ張られる感覚を覚え……その方向を見ると、狐の耳を生やした幼女が立っていた。
『こ、っちぃ……』
「え? キ、キミは……?」
『ついて、きてぇ?』
舌足らずの口調でそう言うと、幼女はオレを案内するように駆け出した。
すると、幼女が踏んだ地面が光り始め……まるでオレに道を示しているように見え、この場所に居たくなかったオレは幼女の後に続くように足を光る場所へと踏み出した。
その瞬間、オレの頭の中へと記憶が甦った。
「そう、だ……オレ……は、彼女と一緒に、戦っていたんだ……」
また一歩光りを踏み、記憶が甦り……、幼女の後を追うと同時にオレの記憶は徐々に鮮明になっていった。
彼女の身体を奪い取っていたこと。
彼女と共に旅をしたこと。
彼女と対話を行い、共に歩むことを決めたこと。
人間の国、獣人の国、森の国、そして魔族の国……。
サリー、フォード、ティア、フィーン、キュウビ、ロン、フェニ、トール、タイガ、ルーナ、シター、ヒカリ……。
……ヒカリ、いや……光。
あのときは、オレ自身記憶が無かったからイケメンゆうしゃのパーティーメンバーとしか思っていなかった。
けど、今なら分かる。あれは、オレの妹だった……。
「でも、何でこの世界に居るんだ……? と言うか、オレってあのハガネの戦いのときに見ただけだったよな? だったら、名前も知らないはずなのに……なんで詳しいんだ?」
浮かび上がった疑問にオレは首を傾げつつ、幼女の後を追いかけていく。
……そういえば、何時の間にか周囲に聞こえていたひび割れの音も、ガラスの欠片も空から落ちてこなくなったな……。
そう思っていると、幼女が立ち止まり……オレを見ていた。
いったいどうしたのかと思っていると、幼女は指を指した。
『ここぉ……』
「ここ? ここに、いったい何があ――扉?」
扉、そう……扉だ。幼女が指差した先に、何時現れたのかは分からないが……扉が現れていた。
これは……開けろ、ということなのだろうか? そう思いながら、幼女を見ると……こくりと頷いていた。
それを見ながら、オレは扉に手をかけた。すると、扉には鍵は掛かっていないようで……ギィと音を立てて開かれた。
扉の先は、部屋であり……その部屋の中を見た瞬間、オレの心臓がドクンと脈を打ったのを感じた。
この部屋は……見覚えがあった。そして……部屋の中には、見覚えのある少女が……立っていた。
その瞬間、オレの中の記憶が完全に合わさり、気づけば俺は部屋の中へと駆け込み……彼女の名前を大声で呼んだ。
「アリスッ!!」
オレの声に気づいたのか、アリスは振り返り……そして、互いの存在を確かめ合うように互いを抱きしめた。
そして、オレとアリスを中心に光が起こり、オレとアリス……そしてこの世界を包み込み、オレたちはひとつになった。