表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
424/496

絶望を晴らす者たち・14

 ズリズリ、ズリズリと……地面を這うようにして、アタシはゆっくりだが確実に目的地へと向かっていた。

 背後のほうでは、サリーたちがアークと思しき魔族と戦っている声が聞こえるが……如何考えても劣勢なようだった。

 はやく……早く向かわないと…………。

 そう思いながら、アタシは腕に力を込めて……膝に走る激痛を堪えながら、這い進んでいく……が、間に合わない。

 早く……速く……、そう思いながら進んでいくと……不意に身体が前に引かれる感覚を覚え、どうしたのかと向くと……狐アリスが一生懸命アタシの身体を引っ張っていた。


「え……? な、んで……来ちゃったの……?!」

「い、っしょぉ……!」


 一緒がいい。そうこの子は言っているのだろう。

 ……本当ならば、すぐに逃げるように言いたい。だけど、今のアタシは動こうにも無理が掛かる。……だったら、付いて行ってもらうしか、無いだろう。

 そう考えると、アタシは狐アリスに優しく頷いた。


「分かった……。それじゃあ……行こう。アリスのところへ」

「う……んっ!」


 頷き笑顔となる狐アリスと共に、アタシはアリスが居るであろう地下へと向かう……幸い、アークが開けた大穴があるのだから、降りるのは簡単だろう……。

 事実、アタシと狐アリスはアークが開けた大穴から転がるようにして、地下へと降りることに成功した。

 ……そして、アタシたちはアリスを発見することが出来た……。

 けれど…………。


「そ、そんな…………」

「われ、てるぅ……」


 身体が擦れて、腹や腕や太股に擦り傷が出来上がり、そこから血が滲み始めたころ……アタシが見つけたアリスは……アークの攻撃の余波を受けたのか、身体の所々にヒビが入り……今にも割れそうになっていた。

 しかも、そのヒビは徐々に広がっていて……数時間もしないうちにアリスの器となる身体は砕け散るように思えた。

 何とか……何とかして、アリスが目覚めるまで器を保持させないと……! い、いや、でも……保持させて目が覚めたとしても割れるのではないだろうか?

 じゃあ、じゃあ……どうする? どうすれば良いの……?!

 どうにも出来ない上に、地上ではサリーたちが蹂躙されている……もう、死ぬしか……無いのだろうか?


「……いや、何か……何かあるはず……あるはずなんだ……けど、どうやって……」


 ……ううん、どうやって、じゃ無くて……どうにかしないと……!

 何か、何か手はないのっ!? このままじゃ、このままじゃあ……この世界のアリスは今度こそ死んで、サリーたちも、世界もダメになる……!

 そう思っていると、狐アリスがアリスに近づこうとしているのに気づいた。


「ど、どうかしたの……?」

「手で、接着ぅ……?」

「手で接着? ああ、割れるのを広げさせないために手で塞ぐっていうこ……と……――そうだっ!!」


 アタシはある方法を思いついた。……だけど、それは…………。

 アタシの声に驚いたのか尻尾をピンと立てる狐アリスへとアタシは顔を向ける。


「……アリス。アンタとはここでお別れになると思うわ……」

「え、……?」

「アタシは、このアリスを護るためにひとつになる。砕け散りそうになっているのなら、外部から補強してやれば何とかなるはずだろうし……それに、そもそもアタシの世界は終わっているんだから、ここに居るのはおかしいんだよ」


 それでも、死んだ世界から引き上げられて、この島で思い出が貰えた。

 だから、アタシはもう十分なんだ。


「だから、ごめんねアリス。アタシはもう消える……アタシはアリスに溶けてひとつになる」


 そう決意をして、アタシは身体に残る魂を気力を振り絞り、アリスに全てを差し出そうとする。

 けれど、そんなアタシの腕を狐アリスは引っ張った。……もしかして、止めるつもりなのだろうか……?

 そう思いながら、アタシは狐アリスを見た……だが、彼女の表情は止める者の表情ではなかった……。じゃあ、いったい……?

 疑問に思ったアタシだったが、狐アリスはアタシに告げた。


「アタ、シも……行く」

「え?」

「アタ、シも……、アリ、スとひとつに、なる……」


 その言葉に、アタシは戸惑いを隠せなかった。けれど、その言葉をアタシは理解出来ていた。

 何故なら、この子もアタシと同じようにアリスなのだから。

 それを納得し、アタシは狐アリスを止めることはせず……ただ、ゆっくりと頷いた。


「……わかったよ。それじゃあ、行こうか?」

「う、ん……っ!」

「良い返事だ。本当、アンタとの毎日……楽しかったよ」

「アタ、シも……楽し、かった」


 子供らしい笑顔を浮かべる狐アリスとアタシの身体が光を放ち始め、魂だけの存在へと変わるのを感じながら……アタシはアリスを見る。


『アタシたちが、力を貸すんだから……必ず、アンタはこの世界を救いなさいよ……? 頼んだわよ、この世界のアタシ(アリス)

『がん、ばって……』


 アタシたちはそう眠るアリスへと告げると……そのまま、完全な光の塊となり……アリスの中へと吸い込まれていった。

 そして、アタシたちを吸い込んだアリスの器は……割れることを止め、段々と形を創りだして行ったらしい。


 それを感じながら、アタシたちの意識は……薄れて――い――――た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ