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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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絶望を晴らす者たち・11

『うおぉぉォォOOOO----ッ!!』


 虫のような外見とは裏腹に、妙に獣染みたような雄叫びをアークが上げた瞬間――自分たちの本能と呼ぶべきなにかが警鐘を鳴らした。

 い、いったい……、どうしたと言うのだ……?

 身体が竦むのを感じながら、自分はアークを見たが……吠え始めたアークの身体は、徐々に膨れ上がり……最終的には闘士と言っても差支えが無いほどに筋肉が不自然なほどに盛り上がった胴体となっていた。

 だが、ちゃんと鍛錬をして創られた筋肉などではないそれは、自分の目からしても不自然な感情を抱かせた。

 けれど、自身の身体の変化に気づいたらしきアークは、喜々としながら聞き取り難くなった声で喋り始めた。


『KUヒッ! すGEエ……、SUゲえぜぇ……。身体KAラ、力GA湧き出TEきYAガる……!』


 そう言いながら、アークは自身の力を実感しているのか、手を閉じて開いてを繰り返していた。

 ……が、不意にこちらを見ると…………口が裂けるほどの笑みを浮かべた。


『そぉイYAァ、てMEェらが居タんだッタYOナァ? いTAメTUけてKUレタ礼GAまだだった。YOナぁ?』

「――――トール! 防御を――ッ!! トールッ!!」

「……ぁ……ぁ……、ッッ!! わ、か……っ!!」


 闇色の光を身体から放ち始めたアークが近づいてくるのに気づき、自分は身体が震えるのを堪えつつトールに叫んだ。

 声を掛けられたトールは初めの内はアークの気にやられていたのか、反応が無かったが二度目に声を掛けるとようやく反応したようで、動揺しているようだがトールは急いで自分たちの前面へと物理攻撃に絶対の自信がある甲羅を展開し出した。

 ……動揺していたが、これは硬いだろうから……壊すのは無理だろう。

 展開されたそれを見て、タイガとフェニも少し気が落ち着いてきたらしくアークを見ることが出来たようだった。

 だが……、それは失敗だったと言えよう。何故なら……。


『おーオー……、さっきHA、コレを壊せNAかったンだYOなァ。本当、何DEこんなNOヲ、壊SEナカったんだろうNAァ?』


 ――――パリンッ!

 ガラスが割れるような音が聞こえ、喋りながら甲羅に手を当てていたアークを見ると……自分たちを護っていた甲羅にヒビが入り、音を立てて割れてしまった。


「う……そ、……?! な、んで――ぁく……ぅぅっ!!」

「――ッ!? ト、トール!! お、おいっ、どうしたんだよしっかりし……な、何だよコレ!?」


 背後では、信じられないと言ったトールの声が聞こえたと思ったら、倒れる音が聞こえ……タイガが駆け寄ったらしい音が聞こえた。

 ちなみに自分はアークから目を放さないようにしつつ、耳でトールの様子を聞いていた。


「フェニ! トールが……トールから血がこんなに……! 攻撃を喰らっていないはずなのに、どうしてだっ!?」

「落ち着きなさいよタイガッ!! トール、しっかり……っ! 意識は無い、それに傷だらけ……これって……反動?

 じゃあ……あの虫の攻撃力は、トールの甲羅を砕いただけでなくトール自身にまで影響を及ぼすほどにあるって言うの……?」


 ……反動、確か防御に属するスキルを使う物が、自身の防御力を上回る攻撃を受けた場合に防御スキルを通して自身に帰ってくるという物だったはずだ。

 実際は如何なのかは良くは知らないが、師匠はそう大雑把ながらに言っていたな。

 つまりは……、少しでもアークの攻撃を受けたら自分たちは危険だということか……。

 それに納得しながら、自分は槍をアークに向ける。


『おイオい、てMEェらには、オRE様は、倒せNEぇって分かッタんだROウ? だっタRA、大人しKU、殺SAレろYO』

「…………断る。貴様が殺すというからには、自分が彼らを護る」

「ロンッ!?」

「タイガ、お前はトールを見ていろ……。フェニ、自分が時間を稼ぐからまたあの火の魔法を頼む」

「わ、分かったわ……」


 そう言うと、自分はアークを見据えた。

 自分は命を懸ける覚悟を決めて、アークを見た。だが、アークはそんな自分の覚悟を侮辱するように……両手を広げて来た。


「どういう、つもりだ……?」

『どう言Uツモリ、KAって? KIまッテるDAろ? 受けTEヤルって、言ってRUンだよ。ほら、YAってミろYO? テメェのSAIKOUの一撃をYOォ?』

「ッ!! ロン……ッ! 乗せられちゃダメよ……!」

「……いや、それはお前のほうだろう? だが、アーク……ひとつ聞く。もし、それを拒否したら……貴様は自分たちをどうするつもりだ?」


 挑発に乗りかけているが、理知的っぽいことを口にするフェニを嗜めつつ、自分はアークに尋ねる。

 嘲るように奴は言っているが、それは命令に聞こえて仕方が無いのだ。

 そう思っていると、予想は当たっていたらしく……。


『クHIッ! 決まTTEルだロ? 受けなKAっタラ、皆殺SHIダ』


 アークがそう口にした瞬間、奴は自分たちを威圧するように闇色の光を滲み出させた。

 ……その光を見ると、何故か自分たちの気分は悪くなってしまっていた。

 事実、後ろに軽く目をやると……気丈に振舞っているフェニたちは顔色を悪くしているのが見えた。

 ……仕方が無い、その挑発に…………乗ってやろう。


「分かった。貴様に自分の最高の一撃を打ち込んでやろう」

「ロンッ!? どういうつもりよ……っ!?」

「……どの道、断れば何も出来ないまま殺されてしまうだろう。だったら、少しでも足掻いてみるほうを自分は選んだだけだ。……フェニ、後は頼んだ」


 そう言って自分は、アークが射程へと入る……。だが、アークは攻撃をしてこなかった。

 …………本当に、一撃を受けるつもりらしい。

 力が上になってしまった者が陥りやすい現象だが、自分はならないようにしよう……。

 そう考えながら、自分は槍を構えると……後ろへとゆっくりと引いた。

 そこへ更に回転を加え、更に回転を……全身をひとつの槍とするように身体を回転させ続けていく。

 …………魔族の身体であれば曲がり難いところもあるが、この身体はこういう身体の柔軟性は高いようで素早い動きや技術を要する戦いかたを行うときには便利だ。

 ……今から放つ技は柔軟性が高くなければ失敗する物なのだ。だから、正直なところ……自分はこの身体は嫌いではないと感じていた。


『お~ぉ~、いI感ジに力を溜MEテやがるNAァ? ケヒャHYA!』

「喰らえ……、これが……自分の出せる最高の技だ――ッ! うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 叫びながら、自分は一気に身体の回転を解くようにして解き放ち、目の前のアーク目掛けて音よりも速い速度の回転突きが放たれた!!

 そうだ。これが、コレこそが! 師匠との特訓の末に手に入れた<オーバーブレイク>を超えた技――<バーストブレイク>!!

 この一撃、耐えれるものならば――耐えてみるが良い!!


 気魄を込めた自分の一撃は、アークへと放たれ……そして…………。

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