表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
42/496

ちょろチュー

「お、お前はいったい何なんだ……?」

「オレ? いちおう、人間の国のゆうしゃだけど?」

「ゆっ――ゆうしゃだと!? だが、あの強さは我らチュー族のゆうしゃドブよりも遥かに強い――いや、強すぎる……」

「なんか酷い名前ね……ドブって、――っと忘れてたけど、そろそろ取りに行っても良い?」


 ゆうしゃだと言った彼女に対してハツカは物凄く驚いたみたいだけど、彼女はチュー族のゆうしゃの名前を聞いて不憫だと思ってたわ。だって、ドブよドブネズミよ。そのネズミは彼の世界だと汚いネズミなのよ。

 まあ、不憫と思ったのはほんの一瞬だけだったけど、彼女はすぐに考えを切り替えて目の前のミスリルを採取することにしたわ。けれど、勝手に動いたらまた騒動の元になると思ったから、一応ハツカに訊ねたわ。

 その言葉でハッとしたのかハツカは彼女に視線を向けてきたの。その視線にはついさっきの様な馬鹿を見るようなとか侮蔑な感情がまったく含まれておらず、どちらかというと……敬意を宿した視線になっていたわ。


「あ、ああ……し、失礼し――ました。あのミスリルはゆうしゃ殿の物ですので、ご自由にお取りください」

「……なーんか、態度が一気に変わったけど……まあいっか。あと、採り終わったら話し合いをしてもらうわ」

「わ、分かりましたっ! ゆうしゃ殿!」

「それじゃあ、ちょっと行ってくるわ」

「え、えっと……いってらっしゃい師匠」

「あー、うん。何も言わない。何も言わないぞ……」


 サリーとフォードが何とも言えないような表情をしながら見送る中、やっぱり敬意を示した視線を送るチュー族に疑問を抱きつつ、彼女はミスリル鉱山となっている殻の前に立ったわ。

 そして殻の表面に軽く手を当て、少しだけ魔力を循環させて『土』の属性を手に宿して見ると、軽く当てていた殻がぐにゃりと押し込まれたの。それを見ながら、彼女は少し考えて……一々中に潜るのも面倒くさいという結論に至ったわ。

 それからの行動は早かったわ。魔力を循環させて『土』の属性を加えるとミスリルの殻を囲むようにして≪土壁≫を使ったの。ちなみにそのときに現れた壁は土じゃなくて、金属になっていたことに彼女は首を傾げたけど……今は気にしないでおくことにしたみたい。

 殻を囲むと、激しく魔力を循環させて≪創製≫を使って殻を何時ものようにドロドロに溶かしたの。ドロドロに溶け始めた殻は周囲に広がり始めたけど、≪土壁≫で周りを囲っていたからバケツみたいに中に溜まり始めたわ。

 そして全てをドロドロにし終えると≪土壁≫ギリギリまで溢れそうになっていたわ。想像していた以上に金属が出てきて彼女は満足そうにしつつ、その中に手を入れると≪合成≫を使って虹のような色彩になっているミスリルを分離させ始めたの。

 ≪合成≫って魔法は、金属を合成させる以外にもね、混ざりすぎて良く分からないようになってる金属の分離も出来るみたいなのよ。虹みたいな色彩はしているんだけどね、綺麗に混ざっていなかったからか黒ずんでいて汚い感じがしたのよね。それが彼女が≪合成≫の分離を行うとグネグネと動き出して、ひとりでに変化を始めたのよ。

 赤、青、黒、金、紅、橙、緑に分かれて、最後に……透き通るような透明な金属が出来たわ。ちなみに分離した状況を判りやすく言うとね、丸いケーキを八人分で切ったみたいになったの。

 そして、透き通るような透明な金属が純粋なミスリルだと彼女は本能的に分かったみたい。


「よしっ、あとは持ち運びし易いように成形しておこうか……30キロほどで延べ棒1本と考えて……」


 彼女は静かに目を閉じて、頭の中で持ち運び易い大きさに変えて行くことをイメージしたわ。すると、液体のようになっている8色の金属はグネグネと自ら動き出し始めたわ。

 そして、イメージを固めるとともに瞳を開き――一気に魔力を解き放ったの。直後、ゴトゴトゴトと地面に重い物が落ちる音が響いたわ。

 彼女は確信を得ながら、下を見るとそこには山積みにされた8色の金属がごろごろと転がっていたの。

 手短にあった1本を掴んで持ち上げ……納得したように頷くと、彼女はその延べ棒全てを≪異界≫に送りつけたわ。


「お待たせ。それじゃあ話し合いをぉぉっ!?」


 ≪土壁≫を消してサリーたちの下に戻った彼女だったけど、突然突進するようにして彼女を押し倒す人物が居たの。その人物は、ハツカだったわ。


「た、頼むっ! いや、頼みますっ! あなた様の力で我らの村のゆうしゃの目を覚ましていただけませんかっ!?」

「え、ええぇ? ど、どういうことなの??」


 懇願するハツカに彼女は混乱するばかりだったわ。

 っと、おやつも食べ終わったし……晩御飯の買い物に行こうかな。いっしょに行く? ……うん、じゃあ行こうか。

 お話は寝るときに続きを話すよ。で、今日は何を食べたい? うん、川魚も良いよね。え、たまには海の魚を食べてみたい? んー、まあ機会があったら……かな。

 まあ、何にするかは行ってから決めようか。じゃあ出発ー。

チュー族がチョロイのかハツカがチョロイのか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ