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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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絶望を晴らす者たち・9

 ドウケアークへと指を指すタイガへと、開かれた空間の穴から出てくるように残りの魔族組3人が姿を現す。

 そして、姿を現した……ロンが口を開くと……。


「タイガ、勝手に突っ走るんじゃない」

「へへっ、わりぃなロン……けど、あの野郎の姿を見るといてもたっても居られなくなったんだよ」

「それは分かるが、お前一人ではないのだからな?」

「う……わ、悪かったって……。そ、それより! 全員強くなったのかよ!?」


 耳をヘチョンと垂らしながら謝るタイガだったが、話題を無理矢理変えるように彼はそう口にした。

 その言葉に反応したのは、ロン……ではなく、フェニであった。


「そう言うタイガはどうなのかしらっ? ウチの特訓して強くなった実力……戦いの中で見せてあげるわっ!!」

「フェニ、おねー……ちゃん。タイ、ガも……敵から、目を放しちゃ……だめ……!」

「そうだ。2人とも、そう言うことを口にするのはまず目の前の敵を倒してからだ」

「ああ、そうだな」

「ええ、そうね」


 そう言って、ロンの言葉に納得した2人はそれぞれ武器を構え、ドウケアークへと視線を合わせた。

 一方、ドウケアークは彼らを観察するように壁に止まったままだった。

 更に……何時の間にか、仮面にはギョロリとした眼が無数に出ており、その視線が妙に不快であった。


『四天王になれなかった4人だってのは~ぁ、あの裏切り者さまから教えて貰っていたけれど~ぉ……随分可愛らしくなったじゃね~ぇかよ』

「……そういう貴様は、変わっていないな……。だが、何だそのふざけた仮面は?」

「そうね。ウチらをあんな目に遭わせたときはそんな仮面してなかったわね?」

「気色……悪、い……」

「しかも、嫌いだって言ってた虫の身体を見せるようにしているぞ?」

『クヒヒッ、酷い言われようで~ぇすね。まあ、今はおれっち様はアークであり、ドウケなのだから仕方がな~ぁいね~ぇ!』


 ドウケアークはそう言うのだが、4人はいまいち理解出来ていないらしく……顔を顰めた。

 だが、タイガが次に言った一言で納得することにした。


「……良くわからねぇが、どっちにしろクソ野郎であることに変わりは無いんだろ? だったら、ぶっ潰すまでだ!」

「そうだな。自分たちは出来ることだけをする……ただそれだけだ。……ただし、彼女が護ろうとしていたものは護らせてもらうがな」


 蹲るようにして絶命してしまっているヒカリを哀れむように一度見てから、ロンはすぐにドウケアークを睨みつけた。

 そして、そんな彼らを嘲笑うかのごとく、ドウケアークは仮面越しに笑い始めた。


『クヒヒヒッ、そうかよそうか~ぁよ。だったら、テメェらを今度こそこ~ぉろしてから、このクソガキを壊してやるよ~ぉ』

「やれるものならば――」

「――やってみなさいっ!!」


 その言葉を皮切りに、戦いは始まった。


 ◆


『さてと~ぉ、それじゃあ……このクソどもを殺すとするかね~ぇ! 唸れ、おれっち様の魔法~ぅ!!』


 その言葉と共に、ウチらに向かってあの虫は魔法を放つために手に魔力を集め始めた。

 ……って、左右別々の魔法!? 片方は『火』だって分かるけど……もう片方は安定していないみたいだけど……、でも2つの属性を使おうとしている?

 虫の力に驚きつつ、ウチもそれに対処すべく杖を構えた。

 そんなウチの服の裾が引っ張られる感覚を感じ、その方向を見るとトールがウチを見ていた。


「トール? どうしたの?」

「フェニ、おねー……ちゃん。防御は、任せ……て」

「…………良いの?」

「う、ん……。だい、じょうぶ……!」

「フェニ、本当に大丈夫なのか?」

「……タイガ、ここはトールを信じよう。トール、防御は任せた」


 ウチと同じように心配するタイガへと、ロンがそう言ってきた。

 ……そうよね。ウチらと同じようにトールも強くなっているはずだし、この子を信じましょう。


「よろしくね、トール。ウチ、信じてる。だから……ウチは全力で魔法で攻撃する!」

「任せたぞ、トール。では、いくぞタイガ!」

「ああ、わかったぜ! 頑張れよ、トール!!」

「まか、せて……! わた、しが……護る……からっ!」


 たどたどしいながらも、自信に満ちた言葉で返事を返すトールを見てから、ロンとタイガは魔法を仕掛けようとする虫目掛けて駆け出して行った。

 それを見ながら、ウチも行動を開始することにした。

 ……とりあえず、あの虫の動きを止めたほうが良いわね?


「……水よ、火よ。ウチに力を貸して……! 《蒸気》ッ!」

『は~ぁ? んな、ちんけな魔法。おれっち様の炎で消し飛ばしてやるよ!!』


 身体の中にある魔力を杖へと送り、それに属性を与えて解放するようにしてウチは魔法を唱えた。

 直後――杖の先端が光を放ち、虫に向けて高温の蒸気が放たれた。

 アリスの杖の助けもあって、虫よりも早く魔法は完成したけれど……その魔法を見てあの虫は馬鹿にしくさりながら、詠唱途中だった火の魔法を放ってきた。

 そして、ウチの放った魔法はあっさりと虫の放った直線状に走る火魔法に飲み込まれた。


『ケヒャヒャ、バッカじゃね~ぇの? おれっち様の魔法にあっさりと消し飛ばされているじゃね~ぇかよ! ってことで、死にやがれ~ぇ!!』

「ふんっ、馬鹿はあんたよ」

『あん? そりゃどういう意味だ~ぁよ?』

「こういう……意味よっ!!」

『は――――ぐぎゃああああああああっ!!?』


 わかっていない虫へと、ウチは虫が直線状に放っている火魔法の外周を巻きつくようにして移動し、高温になった《蒸気》を虫に叩き付けた。

 叩きつけられた瞬間、虫は何かを行おうとしていたようだが、上手く行かなかったようでもがくようにして蒸気を振り解こうとする。けれど、それはウチの魔法で制御しているのだから、逃がすわけが無い!

 しかも、虫の火魔法はトールが展開した透明な甲羅によって防がれているのだ。


「うひゃあ、トールにフェニ……すごいことになってるなー!?」

「余所見をするな、タイガ。自分たちも行くぞ?」

「わ、分かってるよ。ロン! じゃあ、行くぜーーーーっ!!」


 もがく虫に向けて、ロンとタイガが飛び込んでいく。

 だからウチは彼らが蒸気の被害を受けないようにその辺りを調整する。

 そして、2人の接近戦が始まった。

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