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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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絶望を晴らす者たち・7

 空に月と太陽と星が煌く草原に、一筋の焔が走り――人形の胴体を上下真っ二つに切り裂いた。


「はあ……はあ……はあ……――――っくぅぅぅ……っ!!」


 切り口が焦げて上下に分かれた人形を見ていたボクだったが、握り締めた右手から燃えるような熱さを感じ――握り締めた物を手放そうとする。

 けれど、それは肌を焼き肉を焼いたために、腕に張り付いて取れることは無かった。

 右腕が熱い……、手首から先の感覚が無い……、肉が焦げる臭いが鼻を突く……。

 吐き気を催すような臭いを感じながら、ボクは歯を食い縛ると……無事な左腕にただのナイフを掴むと、意を決して右腕に刃を突きたてた。

 こんがりと焼かれた腕は肉をあっさりと切り裂き、骨も硬さを失っていたらしく簡単に切り落とすことが出来た。

 そして……斬り落とされた腕は、握り締めたそれが燃え広がり……白い灰へと姿を変えて、風に飛んで行った。

 そんなボクへと、頭の中に響くようにしてそれは焦ったように語りかけてきた。


『ば、ばかっ!! いくら、力が使えない。そして全身に浸透させるように使ったらあっさりと死んでしまうという状況だからと言って……それはないだろッ!?』

「で、も……そう、しないと……強く、なれない……から」


 そう言いながら、ボクは脂汗を額に滲ませながら笑みを浮かべた。

 それに……あまりの痛みは度が過ぎれば、痛みを感じなくなるらしく……ボクは、腕が再生するまでの時間を別のことを考えることにした。

 色々と考えることはあると思うけど……とりあえず、今はこれだな。


「へへ……っ」

『…………何が可笑しい?』


 焦げて燃え始めた人形から這い出るようにして出てきたそれに対して、ボクが笑うとそれは不機嫌そうにボクに問い掛けてきた。

 だから、ボクは素直に答えることにした。


「ごめんごめん。だってさあ、きみってボクに興味は無いどころか早く抜け出したがってたでしょ? なのに、今ボクが行った戦いかたを見たときにボクを心配してくれた。だから、嫌われていないって思ってさ……」

『ッ!! う、五月蝿い! 私を元々の持ち主のところに連れて行かなかったお前を心配するわけがないだろっ!!』

「そう? だったらごめんね。……けど、何だかボクはきみと上手くやっていけそうな気がしたよ」

『私はやっていける気なんてサラサラ無いッ! 良いから早く――っと、神様から? 何?』


 単調な感じだと思ってたけど、情熱的だったりしたんだなー……とか思っていると、それへと神様から連絡が入ったらしく話をする声が聞こえた。

 そして、しばらくすると連絡は終了したらしく……、嫌そうな感じにというか……何というか悩むような感じの気配を感じた。

 どうしたのかと思っていると……、それはボクに語りかけてきた。


 ●


「はあああああああっ!!」

「お~ぉう、危ない危な~ぁい。当たったら危ないな~ぁ? 当たったら、ね~ぇ?」


 気合を込めて叫ぶと、ボクは離れた場所に立っているピエロみたいな格好をした魔族へと一気に駆け出した。

 けれどあと一歩という所で、そのピエロは《転移》の魔法を使っているのか、ナイフが振るわれた瞬間に掻き消えるようにしてその場には立っては居らず、離れた場所に立っていた。


「はあ……はあ……っ、くっ!! ア、アンタ! ちゃんと戦いなさいよ!!」

「嫌だ~ぁよ。おれっち、戦うのは苦手なんでこうやって攻撃を回避してユーを消耗させてもらうことにす~ぅるよ」

「うわ、何コイツ! すごくいやらしいんだけど!?」

「そうは言っても、これがおれっちの戦いかただから、仕方ないんだ~ぁよね」


 これは数年前に会ったドブとは違った方向で嫌な奴だ。ボクは目の前の敵に対してそう感じた。

 けれど、このままでは先に消耗するのが明白なので……勝負に出るしかないと思う。

 避け続けるのなら、避けられるよりも早く……もしくは、逃げ場が無いして戦えば良いんだ。


「そう……だったら、逃げ場が無い攻撃を放てば良いってことでしょっ!?」


 そう叫ぶと、ボクは握り締めていたナイフに神使の力をより注ぎ込んだ。

 その瞬間――握り締めたナイフの刀身は赤熱し、握り締めていた部分も燃えるように熱くなった。


「ぐ――――っ! ぎ、ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「お、お~ぅ? 何をしてるので~ぇすか? 馬鹿な行為で~ぇすね」

「馬鹿で……結構! それが、ボクの……やりかただぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 焼け付く痛みを感じながら、ボクは握り締め……徐々に肘まで焼き始めるナイフを周囲に向けて振るった。

 すると、赤熱したナイフの刀身から紅い焔が吹き上がり、周囲を紅く燃え上がらせた。

 ボクの放った攻撃が危険な物と判断したのか、ピエロの格好をした魔族はまたも姿を掻き消した。

 だから、ボクは手早く解け始めた腕を無事なほうで切り落とすと、無事な片方の手でナイフを構えると再び神使の力を注ぎ込んだ。

 直後、漂ってくる肉が焼かれる嫌な臭い……、首を掻き毟りたくなるほど感じる熱い痛み。

 それらを感じながら、ボクは全神経を瞳に集中させて、変化が起きる場所を探った。

 そうしなければ、ボクが見つけることは出来ないのだから……。


「そ――こだああああぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そして――揺らめきを感じた瞬間、ボクは赤熱したナイフを突き出した。

 すると突き出されたナイフから赤い焔が線状で放たれて揺らめいた場所を貫いた。

 けれど、その一撃だけでやめること無く、ボクは貫いた場所から何度も紅い焔を走らせるように持ち手を振り回した。

 持ち手が振るわれると同時に、延長線上に突き出された紅い焔はゆらゆらと揺らめき……まるで太陽のプロミネンスのように揺れ動いた。

 ……そういえば、名前をつけていなかったな。……よし、つけよう。

 そう思いながら、ボクは思いついた名前をそのままつけるように……技名を口にした。


「燃え上がれ! <プロミネンス・フレア>!!」


 技名を叫び、最後の一撃を加えた瞬間――、攻撃を与えていた場所が紅焔に包まれるのをボクは見た。

 ……これで、倒れたはずだ……。

 それを見ながら、ボクは……息を吐き、どうやって燃え始めている腕を切るべきかを考えるのだった。

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