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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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絶望を晴らす者たち・3

「サリーさんっ!?」


 驚くフォードくんの声が聞こえましたが、ワタシは返事をすること無く一直線にアークへと目指して駆けて行きます。

 そんな駆けて来るワタシに気づいたのか、外套野郎……いえ、虫臭い魔族はワタシに向けて叫び声を上げてきました。


「テメェ、何もんだ!?」

「教える必要があると思いますか?」

「そうかよ! じゃあ、死ねッッ!!」


 短い問答を終えると、虫臭い魔族……あ、今思い出しましたけれどもしかしてこの鼻を摘みたくなるほどに虫臭い……トイレとかに居そうな雰囲気のする魔族がアークでしょうか?

 まあ、今は別に良いです。兎に角、そのアークと思しき魔族はワタシに手を向けると、魔法で創られた大きな火の玉を撃ちだして来ました。

 ……普通に魔法使いが見たら発動も、威力も高いと思います。ですが、ワタシはそれ以上に凄いものを知っているので、如何とも思いません。

 だから、ワタシは特訓のときにはまったく使っていなかった短剣をしばらくぶりに抜くと、駆けたまま迫り来る火の玉へと短剣を振りました。

 するとまるでチーズを切るようにスパッと火の玉は真っ二つに斬れて、駆けるワタシの左右に分かれてから霧散しました。

 そしてそれを見たアークらしき魔族が驚きの声を上げるのを聞きました。


「んなっ!? ッテ、テメェ……あのクソガキの仲間だろっ!!」

「そんなの、当たり前じゃないですか! はあっ!!」


 罵声を聞きながら、そんな当たり前のことを言ったアークらしき……もうアークで良いです。それに短剣を振るいました。

 けれど、ワタシの行動が読まれていたのかそれとも偶然なのかは分かりませんが、アークはまるで背中を何かに引かれるように短剣の軌跡を避けました。


「くっ!! くそっ! くそっ!! テメェ、殺す。ぶっ殺してやる!!」

「やれるものなら、やってみてください……やれるものならばですが……ね?」


 そう言って、ワタシは不敵に笑いました。……一応挑発ですよ?

 それに……虫臭いって思っていましたが、別のにおいもしますし……試してみるべき、ですよね。


「~~~~~~っっ!! テ、テンメェ……、死んで後悔しやがれっ!!」


 そう思っていると、挑発に見事に引っ掛かってくれたアークはワタシに向かって飛び掛ってきました。

 これは……明らかに殺してくださいとでも言わんばかりに隙が多すぎますね。

 そう思いながら、ワタシはついさっき感じた違和感の正体を確かめるために行動に移りました。


「隙だらけです。さようなら、あなたのほうが死んで後悔してください」

「ッ!? しま――」


 正面から見える虫顔を見ながら、ワタシはアークの身体を短剣で四方八方から斬り付けました。

 これが当たれば、死んでいなくても致命傷にはなっているはずです。

 それに……防御しようとしても、師匠が創った短剣なので同等の物ではない限り防ぐことは不可能でしょう。

 一回、二回、三回、四回、五回と両手に掴んだ短剣を一瞬の内に何度も振り続けましたが……、短剣が弾かれる音が巧妙に隠されながらもワタシの敏感になった耳には届いていました。

 その結果、アークの身体は斬れること無く無事でした。その様子に、アークはワタシの攻撃がミスしたと思ったようですが……馬鹿ですねコイツ。

 そして、最後にある行動を行ってから、ワタシはアークから距離を取りました。


「へ、へへ……っ! あれだけ大見得切ったっていうのに、テメェの攻撃などオレ様には効かな――ぐげっ!?」


 ニチャッとした笑みを浮かべるアークでしたが、全て言い終わる前にワタシが直前に投げたヨーヨーが即頭部に当たって昏倒したのか、倒れました。

 それを見て、ワタシはアークが立っていた場所を睨みつけます。


「どういう方法なのかは分かりませんが……、そこに居ますよね?」

『…………カカッ、見事見事。よく気づいたのう。ドウケよ、わしもそろそろ始めることにするから、お主も始めるがよい』

『え~ぇ、わかりま~ぁしたよ。それじゃ~ぁ、足止めお願いしますね~ぇ』


 声が聞こえたと思った瞬間、《転移》を行ってきたのかアークが消えた代わりにワタシの前へとある人物が姿を現しました。

 師匠が着ていたキモノに良く似たデザインをした真っ黒な服、ドロドロとした感情を窺わせるような濁った瞳、黒い髪から生える狐耳……そして背後に見える尻尾。

 ワタシはその人物の名前を呟くように、口にしました。


「…………キュウビ」

「さん。もしくは様を付けよ。元でもお主ら獣人の神使だったのじゃからな」

「邪神に操られたのを見たのに、そんな風に恭しく相手をするはずがありません」

「ふむ、それもそうじゃのう。……で、そんな邪神の従僕となったわしをどうするつもりかえ?」


 そう言って、キュウビはまるで私を小馬鹿にするように笑みを浮かべました。

 元々そんな笑みが得意なのかは分かりませんが……、そんな笑みを向けられたら血の気の多い人は即座に殴りかかるでしょうね。

 事実、ワタシも一瞬イラッとしましたが……、どういうわけか冷静に保てました。

 そんなワタシを見て、キュウビは不思議そうな顔をしていたけれど……すぐに納得したのか頷いています。


「これは精神に作用する効果があったのじゃが、効きが悪いようじゃな……いや、こやつが同格に近づこうとしてるからかのう」

「……何を言ってるんです?」

「いや、こっちの話じゃから、お主が知る必要は無いのう。……と言うことならば仕方あるまい」


 一人で納得したキュウビは、ワタシに対峙すると……その手に、道具をひとつ取り出しました。

 アレは確か……、オウギ。でしたよね?


「言っておくが、扇ではなく扇子じゃからな」

「……そうですか。それで、ワタシの攻撃を捌いていたのですね?」

「見えておったのか?」

「初めは音だけでしたが、慣れれば見えましたよ」

「そうかそうか! あの馬鹿はお主の攻撃が外れたと思っておったのう。本当はわしが防御してやらねば死んでおったというのにのう」


 カカッと笑いながら、キュウビはワタシを見つめます。……まるで、久しぶりに本気を出せるといったような印象が…………。


「お主が思ったとおりじゃよ。さて、わしの猛攻にお主は付いてこれるじゃろうかのう? では――行くぞ」


 そう言った瞬間、キュウビの姿はその場から掻き消えるように移動すると一瞬でワタシの前へと現れ、閉じた扇子を喉元に突きつけようと――ッ!!


「くっ!!」

「さあ、ドンドン行くぞ?」


 雨霰のように放たれる攻撃を、見極めながら……ワタシはキュウビと戦いを始めることになりました。

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