動く鉱山
「あれがここを聖地と呼んで誰も近づけさせないようにしていた理由のモンスター、ミスリルマイマイ! ヤツは攻撃を受けそうになると、背中の硬い殻に閉じ篭って攻撃を防ぐ! そして、奴が進んだ道は……」
「み、見ろよアリス! 何かあいつが進んだ道がドロドロに溶けてるぞ!?」
「まさか……特殊な粘液を体中に纏って、近づいた相手や武器を溶かすタイプのモンスターですか!? だったら、普通の攻撃は効きませんよ!!」
「そう言うことだ! 本当ならここからすぐにでも逃げたいところだが……ここまででかいと我らの集落にも危険が及ぶ! だから、あいつを引き付けながら逃げるぞ!!」
焦るハツカに従って、サリーとフォードは方向転換して走り出そうとしたわ。けれど、彼女はそのまま真っ直ぐにミスリルマイマイを見つめたの。ちなみにカタツムリって言うのはね、彼の世界に居たそのマイマイを小さくした大きさの生物よ。
そして動かない彼女に気がついたハツカが大声を上げたわ。きっと、目の前の馬鹿でかいモンスターに恐怖して動けないとでも思ったのね。
だから、ゼブラホースで駆けて彼女の側まで近づくと怒鳴るような大声で言ったの。
「おい! 早くこっちに来い! お前は死ぬ気かっ!?」
「……ねえ、ミスリルマイマイってことはさ。背中の殻って全部ミスリルなの?」
「いったい何を言って……そうだ。それに中にはミスリル鉱山が眠っていたりすると言われて――って、どうして今そんなことを聞く!? 早く逃げろっ!!」
「もしかしたらだけど……あんたらの出そうとした条件って、こいつをどうにかしろってことだったりしたんだよね?」
「その通りだ。しかし、ここまで大きいミスリルマイマイは我らでもどうにも出来ない! だからこのまま断崖のほうまで誘い込んで谷底に落とすしかない! 犠牲は出るかも知れないがな……」
「んー。仮にさ、オレがこいつを倒した場合……ミスリルはオレのもので良いか? あと、サリーの話しもちゃんと聞いてくれるか?」
「――っ!! そ、そんなことを今聞いてる場合じゃないだろう!? 早くこっちに来い! このままだと溶かされて死ぬぞ!!」
必死に叫ぶハツカを見ると、真剣な表情で彼女を心配しているのが分かったわ。多分だけど、血の気が多いが実はかなりお人よしなのかも知れないとハツカの性格を分析しつつ、迫り来るミスリルマイマイを見たわ。
正直、炎で焼き尽くすのも良いと思うけど、ミスリルが駄目になったらイヤだと考えながら、彼女は思ったの。
だったら……燃やすんじゃなくて、カチコチに凍らせたらどうなるだろう……って。まあ、考えるよりも先に彼女は行動に移ることにしたわ。
行動を開始するために彼女は体内で膨大な魔力を激しいまでに循環させ始めると、周囲からどよめきが起こったの。その殆どが驚きの感情交じりだったみたい。
「な――っ、何だあの魔力は!?」
「い……いったい何する気ですか師匠……?」
「というか、やっぱり山道の魔物溜ってあいつが……?」
「なっ、何かやばくないか?」
「逃げたほうが良いんじゃないのか?」
ハツカ、サリー、フォード、チュー族の戦士が驚きの声を上げる中、彼女は徐々に迫ってくるミスリルマイマイに両手を向け……それぞれの手に『水』と『風』の属性を込めて、魔力を解き放ったわ。
直後、ミスリルマイマイを取り囲むようにして激しい勢いで吹雪が巻き起こったの。その吹雪は音も光も全てを消しさって、その凍てつく風はミスリルマイマイのヌメヌメとした肌に張り付き徐々に熱を奪い去って行き、ピキピキと聞こえ始めたわ。
氷の竜巻、死の嵐、雪の神の怒り、その中心にいるミスリルマイマイの肌を、粘膜を、殻を、徐々に凍らせ始めていき……動きは徐々に鈍くなっていき――。
「凍りついて行く恐怖に包まれながら、その命を砕け散れ――≪神吹雪≫」
彼女の静かな囁きとともに、ミスリルマイマイのブヨブヨとしていた肉体はパキリとひびが入り……パキパキと細長いからだが砕け始めたわ。砕け散ったあとに残されたミスリルマイマイの殻が吹雪の中をごろごろとその場で転がっていたけど、中からは何も出てくる様子が無かったわ。多分中から何かが出てくるんじゃないかと思ってたから少し拍子抜けだわ。
まあ、もしも中に寄生虫とかマイマイの子供とかがごっそり居たとしても、彼女の≪神吹雪≫のもたらす極限の冷気によってそれらは気づかぬ内に粉々に砕けているに違いないわ。
そして、しばらくして吹雪が止み……ミスリルマイマイが居た場所には巨大なミスリルの殻がごろりと落ちているだけだったわ。
「ふう……、ミスリルゲット。……ん、何?」
汗を拭うような仕草をして笑みを浮かべた彼女だったけど、驚いた顔で彼女を見る周囲に彼女は何処かわざとらしく首を傾げたわ。
彼女のチートが吹雪を呼ぶぜ